ゲイルド魔術国家2回目5
「……おかえりーって、シャルロット、怪我でもした?」
「ちょっと転んじゃって」
「……んー、あまり治癒術に頼ると癖がつくから迷いどころだけど今日は良いか。足見せて」
転んだシャルロットは軽く足をひねったらしく、俺は肩を貸して寒がり店主の休憩所へ到着。
最初は平気そうだったけど、痛みが徐々に増してきたらしい。
宿屋に先に到着していたパムレは温かい飲み物を飲んでのんびりしていたらしい。
「ありがとうパムレちゃん。お礼に沢山ナデナデしてあげる」
「……気持ちだけ受け取る」
「パムレット付きよ?」
「……背に腹は代えられない。そのナデナデをありがたく頂戴する」
三大魔術師の弱点って凄いお手軽だよね。
「あ、リエンお帰りなさいませ。シャルロット様も寒かったですよね。こちらに温かい飲み物をご用意してました」
「本当に寒かったー。店主殿ありがとうございます」
ゆっくりと飲み、表情が和らぐシャルロットを見て俺もホッとする。
「ん? 何?」
「あ、いや。さっきまで痛そうだったからちょっと安心しただけ」
「そう。ふふ、心配してくれてありがとう。というか肩貸してくれてありがとね」
まあ、いつも剣術教えてもらったり魔術を教えたりの仲だし、それくらいは別にいいけどね。
「そうそう、ちょうど近くに大きな銭湯を作ったのです。港町の銭湯の評判が良かったので、創意工夫を行ってようやく開業しました」
「なんじゃと! 風呂か!」
スタッと目の前にフブキ登場。頭にフェリーが乗ってるから全然格好がつかないけどね。
「事業拡大の一歩ですね。人材不足は否めませんが、働き口が無い人を少しでも緩和させるための慈善事業の一環でもありますね」
「へー、せっかくだし行ってみようよ。って、シャルロット?」
なんだかシャルロットが青ざめていた。
「いえ、ここにポーラがいなくて良かったわーってね。本来そういう民を助けるのって王族や貴族の役目だから、こういう事をしてくれる人って本当に助かるのよね」
そうなんだ。そう言えば以前慈善事業でお金を使いまくってるからそれほどお金は余ってないって言ってたっけ。
「ちなみにガラン王国だと木材や農業の補助をしていますね。道具とかは貴重品ですから、ひっそりと魔術を使って直したり、たまにゴルド様にお願いをして回してもらったり」
「店主殿がいつ『そろそろ王族の権利を譲ってください』って言ってくるかわからない状況ね……」
シャルロットが膝をついたよ!
「そのための『三大魔術師』という楔です。政府に関与できるのはミルダ様だけなので、ワタチがそれをするのは規約違反なのです」
パーッと笑顔になるシャルロット。
「まあ、『三大魔術師』を抜ければ関係ありませんが」
ズーンっと落ち込むシャルロット。表情豊かである。
「って、三大魔術師って抜けれるの?」
「冗談ですよ。ここまで認知された称号ですので、抜けるとなると指名手配になっちゃいますからね。おっと、お客様が来たのでワタチはそっちの対応をしますね」
そう言って母さんはお客様の対応へ向かった。
「恐ろしいわね。とはいえ店主殿は良い人ってすでにわかりきってるし、これからも良い関係を続けたいわね」
「……それは大丈夫。リエンに危害を加えない限りは暴走しない」
やっぱり三大魔術師の弱点ってお手軽だね。というか俺に危害って、それはそれで恥ずかしいんだけど。
☆
銭湯に到着!
なかなか大きな施設ということで、結構な人が次々と入っていく。
「ふふふ、パムレちゃんにフブちゃんのぷにぷになお肌を堪能しながらお風呂。凄く幸せな時間が約束されているわね(さあ一日の疲れを癒しましょう)」
「話声と心の声が逆だよ。欲望くらい抑えないと」
「というかリエンは男湯で一人だし、寂しく無いの?」
あー、以前はイガグリさんを呼べば男だけの場所でも問題なかったけど、うーん、仕方がない。
「この人がいるから大丈夫」
「うむ、お供しよう」
「誰!? その水色髪の見た目超格好良い人!」
いやまあ俺も最初はそう思ったけどね。
「セシリーだよ。精霊だから姿を変えられるんだって」
「へー。てことはフェリーちゃんも?」
『できるけど結構複雑ー。氷は形を保つことができるけど、火は難しいー』
あ、そういう違いはあるんだ。
そんな事を思っていたらパムレがどこか安心したため息をついていた。
「どうしたの?」
「……ん、一応『ヤツ』がどこで狙っているかわからないから、嫌でも精霊を具現化させること助言しようと思ったけど、必要なかった。セシリーがいるなら安心」
奴というのはおそらくレイジの事だろう。
「さて、入るわよ!」
☆
中はかなり広い共同ルームがあり、さらに進むと脱衣所があった。この共同ルームで軽い食事等もできるらしい。
「へえー、もしかしたら食事だけ来る人もいるのかしら」
「この大きさだとそうかもね。というかよくこんな考えを思いつくな」
母さんの料理には毎度驚くときがある。どうやってこの調理方法を思いついたのかとか、調理器具も不思議な形をしている物があったりする。
「……ふぉー! 銭湯限定パムレット! パムレはここに住む。楽園は身近な場所にあった」
近年稀に見るパムレのテンション。いや、ここに住みついちゃったら三大魔術師がゲイルド魔術国家に勢ぞろいしちゃうから。それをしないように旅に出てるんでしょ?
「パムレットは後でごちそうするわよ。まずはお風呂に入りましょう!」
「……シャルロットは神だった」
仲良く手をつないで女性の脱衣所へ向かった。
「儂も行くかのう。一応フェリー殿は儂に乗ってもらって良いかのう?」
『かまわない―』
なんだかんだ言ってフェリーがフブキの頭の上に乗ってる姿が様になってきたような?
「我達も行こうかのう」
「うーん、その前にちょっとお願いが」
「なんじゃ?」
「もう少しその容姿を何とかできない? さっきから女性客の視線がセシリーに刺さってて、俺はいたたまれないんだけど」
「うむ? 容姿についての美的感情はわからぬが、それほど格好が良いのか。うむ、じゃがこの場で変更したら騒ぎになるぞ?」
それはそれで面倒だから今度男状態のセシリーの容姿については議論しよう。いや、不細工にするわけじゃ無いからね! うん!!
☆
「でか!? 泳げるじゃん!」
脱衣所で服を脱いで中に入るとすさまじく大きなお風呂があった。他にも一人用の樽風呂と書かれてある風呂や、足首くらいしかお湯が無いけど、その場で寝ることができるお風呂などがあった。
「遊泳禁止と書いてあるぞ?」
「本当に泳がないよ! それにしても人は多いのにそれ以上に広い風呂……屋内なのに外みたいだな」
軽く体を洗ってお風呂に入る。温かい湯は体の芯まで温め、疲れが吹き飛ぶ。
「お、兄さん達は初めて見るな。旅人か?」
と、突然正面の男性が話しかけてきた。
「はい。宿屋の店主に勧められて」
まあ、母さんなんだけどね。
「あの店主さんか。へへ、すげえよな。ここまでデカい風呂を作って、そして無職の魔術師や職を失った人はここで働かせて。何というか王家よりも国の事を考えている様に思えるぜ」
「あはは」
ポーラが聞いたら落ち込みそうな話だ。
「お主はここの出身かのう?」
「ああ。って、すげえ格好いいな。男の俺でもあこがれるぜ」
「ふむ、人里は不慣れでのう。こやつと共に旅に出ているのじゃが、褒められるのは素直に嬉しいものじゃ」
「ここは誰でも平等な風呂場だからな。思ったことを素直に言える場所さ。あっちの樽湯に入っている人は俺の先輩で仕事をしている時は厳しいけど、ここでは砕けた話が不思議とできるんだぜ?」
調和も作る場所という事だろうか。何がどう役に立つかも母さんは考えて作っているのかな?
「なあ、それよりも噂なんだけどよ」
「ん?」
「今ガラン王国の姫がこの国に来てるって聞いたんだ。金髪の綺麗な姉さんということなんだが、お前さんは見たか?」
「ゲフンゲフン!」
思わず咳き込んじゃったよ。
「おいおい、そういう話しは苦手か? お前さんは見た感じ俺と同年代だしそれくらいの話をしても良いと思ったんだけど?」
「ああいや、他国の姫が来ているという情報に驚いただけです。はい」
「変な奴だな。まあでもそうだよな。なんでもこの国の姫と友達という話しだし、最近ガラン王国との関係が良くなってるのもその二人のお陰って聞いたな」
「へ……へー」
すげー近くでその光景を見ている身としては凄く複雑!
いや、仲良しなんだけど、『そうなんですよ!』って言えないこの状況がこそばゆい!
「かかかっ。この国は三大魔術師が二人もいるが、お主は姫を尊重しているのかのう?」
「ん? ああ、最近のポーラ姫は城下町によく来るからな。俺も今の仕事を辞めて兵士に志願するつもりだし、少しでも近づきたいと思ってな。忠誠は何よりも強しってな」
「兵士になるのって難しいのですか?」
「まあ命がけで市民を守るからな。ただ強いだけじゃなくて、人柄とかも見られるからな」
普通はそうなんだよな。俺は色々と恵まれていて、頑張れば何でもできる。宿の経営から兵士。この銭湯を見る限り商人とかもなれるだろう。なんというか……本当に良いのかな?
「ああ? どうした? 浮かない顔して」
「あ、いや」
「ふむ、こやつは少々『お年頃』じゃからな。お主の様に同年代で将来に向けて頑張っている者を見ると、自信を無くすのじゃよ」
「あ? 俺はまだまだだぜ。それにお前さんは旅をしているのだろう? なかなかの度胸だと思うがな」
「はは。ありがとう」
「っと、長湯をしてしまった。そろそろ俺は出るぜ」
「あ、俺もそうするよ」
そう言って風呂場での心地よい時間を堪能したのだった。




