帰宅
「ということで母さん、『いってきます』」
「はい。行ってらっしゃい」
うん。実際はガラン王国で会うのだけど、周囲の目を気にして一応言っておかないとね。
実家を出るとフブキが店の前に立っていた。そこにはシャルロットとトスカさんとパムレもいて、どうやら俺は最後らしい。
「改めて世話になったのう。リエン殿。それに、シャルロット姫様よ。これから末永くよろしく頼む」
「ええ。立派な畑を作って、もし野菜が育ったらそれを食べても良いかしら?」
「うむ。幸いここの土地は条件が良い。楽しみにしておれ」
ペコリと頭を下げ、そして俺の方へ来た。
「リエン殿、ある意味お主は『影の者』を開放した。閉鎖的で裏の仕事しかしなかった儂らを変えた。本当に感謝する」
「いやいや、元は『創造の編み棒』を受け取るために動き回っただけだから」
「それでもじゃよ。この恩はどこかで返したいところではあるのじゃが、さて、どう返そうか」
「あ、だったら一つ……いや、二つ俺の我儘を言って良いかな?」
「何じゃ?」
そう言って俺は後ろを見た。
「村から追い出されたイガグリさんだけど、せめて家族の家には行けるように配慮してくれる?」
そう言うと、俺の目の前にイガグリさんが現れた。実はずっと陰で見守っててくれてたんだよね。
「ご挨拶が遅れたっす。あわせる顔が無く、今日まで身を潜めてましたが、今の話にはいてもたってもいられず」
「よい。久しいな」
そう言ってフブキはイガグリに近づき。
いつの間にかフブキの武器である刀がイガグリさんの首の横にあった。
(リエン様よ。あのフブキという人間じゃが、おそらくまだ本気を出しておらぬ。今の剣、『空気中の魔力』を切ったぞ)
魔力って切れるの!?
もはや空気と同等だと思っていたから魔力に切るって言葉がしっくり来ないんだけど。
「かか。家族と言わず、集落に踏み入れることを許そう。そもそもあそこは今やそこの姫が持ち主。その姫の下で働くお前は儂らの先輩ということになるな」
「ありがとうございます」
そして立ち上がる。
「リエン殿、ありがとうっす。この恩は忘れないっす」
「はは。というか刀を首の近くまで持ってこられて怖くなかったの?」
「覚悟を決めていました。俺はそれほどの事をしたっすから。この場で首が飛んでもおかしくないですから」
その瞬間、イガグリさんに髪の右半分がバッサリと落ちた。
「すまぬ、手を抜いたつもりじゃったが、『そういえばあまりに早い素振りをするとかまいたちが発生して、細いものくらいだったら切れる』のを忘れておったわい」
「ちょっと俺の髪どうするっすか!」
慌てるイガグリさん。そこへトスカさんが小瓶を持ってきた。
「ちょっといいですか? この薬は空気中に触れるとすぐに消えちゃうのですが、息を利用して頭につけると髪が生えるのです」
「本当っすか? この場しのぎだったら泣くっすよ」
「いいからいいから」
そう言ってトスカさんは瓶に口を当てた。そして息を吹きかける。
ぽーーーーーーーー。
そんな音が鳴り響く。すると。
「お、おおおお! 凄いっす。一瞬で髪が!」
一言で表現するなら『きもい!』
もさぁって一気に髪が生えたんだけど!
「うむ!? これまた奇妙な事を……が、何も言わぬでおこう」
凄い、そんな薬この村のどこにあったんだろう。
と驚いているとパムレが俺の服の裾をチョンチョンと引いてきた。
「……あれは『音の魔力』。瓶の音を利用して髪を生やした」
え!? そういうことなの!?
そういえば腰痛治療とかも音を使ってたみたいだし、髪も音を使えば生やせるのか……。
さすがは原初の魔力の音を保持していて、王国の王になった人だ。その魔力も完璧に使いこなせるのだろう。
「して、リエン殿よ。もう一つの願いとは?」
「ああ、今ガラン王国軍はイガグリさんが抜けている状態で人が不足しているんだ。だから『影の者』から一人俺たちの影の護衛をしてくれないかなって」
「リエン!?」
驚いたのはシャルロットだった。
「ふむ、良いじゃろう。なら儂が付こう。集落の代理人は一番に信頼しておる奴にお願いをして、ティータ殿にも話そう」
おお、フブキが来てくれるなら助かる!
「……ふう、パムレの仕事が減るのは助かる。正直常に周囲に魔力探知をかけるのって疲れるんだよね」
そんなことしてたんだ!
「え、てことは常に俺はバレてたっすか?」
「……微かだけどもちろん」
「心が折れそうっす」
肩を落とすイガグリさん。まあ、相手が三大魔術師なんだし、しょうがないよ。
「やばいわね。となると右ひざにパムレちゃん、左ひざにフブキちゃん。両肩に精霊……うん、私は正気を保てるかしら」
その時点で正気じゃないからね! 狂気だからね!
「じゃが、しばらくは儂以外の集落の誰かをつかせて良いかの? ガラン王国につく頃には合流しよう。こっちの準備があるからのう」
そう言ってふと遠くを見る。そこには新しく作られるであろう畑となった土地だった。
「わかった。じゃあまた後で」
「ガラン王国で会いましょう」
「……魔力探知はまだ続くのか」
一名ちょっと残念そうだけど、まあ許してよ。すぐに少し楽になるからさ。
☆
精霊の森を抜けてガラン王国に到着。
ポーラを見送った後以来だからそれほど新鮮味は感じないけど、やっぱりタプル村からの反動からか、町の賑わいに驚く。
と、そこでシャルロットに背中をトントンと叩かれた。
「すっごい今更だけど、大叔父様を大叔母様に会わせちゃって、腰を抜かさないかしら?」
「すっごい今更だね」
うん。正直ここまで来てどうしようかずっと悩んでいたよ。
「それなら安心してください。ワタチがすでに言いました」
と、そこへガラン王国城下町の入り口にて世界一頼れる母さんが登場。もはや母さんがふわっと登場しても驚かない自信すらあるよね。
「すでに腰を抜かしましたから大丈夫です」
「大丈夫じゃないじゃん!」
腰を抜かすのって別に免疫とか無いと思うんだ! 本人目の前にしたらまた腰を抜かすと思うよ!
「と言っても、すでに知っていた感じでした。『ゴルドの言ってた通りね』と言ってましたが、ワタチには理解ができませんでした」
俺もそこでゴルドさんの名前が出てくるのはよくわからなかったが、実はシャムロエさんってトスカさんが生きていることを知っていたということ?
「じゃあなおさら城へ行きましょう。きちんと会うのは久しぶりなんでしょう!」
☆
そしてガラン王国城。
謁見の間に案内されて、俺、シャルロット、パムレ、トスカさんが並び、女王とシャムロエ様を待っていた。
『女王および先代女王入室』
あ、今日はラルト隊長が宣言するんだね。
そしてシャーリー女王とシャムロエ様が入室して椅子に座った。
「ただいま戻りました。シャーリー女王様」
「数日ぶりですが、成果があったと聞きました」
「こちらになります」
そう言ってラルト隊長へ『創造の編み棒』を渡し、それをシャーリー女王が受け取る。
「確かに受け取りました。これはガラン王国が責任をもって保管します」
「はい」
ぺこりと頭を下げる。
そして。
「ふふ、仮面をつけて顔を隠して、どうしたのですか? シャムロエ」
トスカさんが話し始めた。
本来なら普通の人がシャムロエ様を呼び捨てにした瞬間、周囲の兵士は剣を向けるだろうけど、そういう動作は無かった。すでに知られているのだろう。
「ふふ、ダメねえ。ゴルドやリエンの母から話は聞いていたけど、やっぱり実際会うと崩れ落ちそうね。事前に話を聞いてて良かったけどね」
そしてシャムロエ様は立ち上がった。隣に大きな箱があり、それを開けると以前見せてくれた黒い楽器が出てきた。
シャムロエ様はゆっくりとこっちへ近づき、そしてトスカさんにその黒い楽器を差し出した。
「何年預けるつもりだったの? 遅かったわね。でも……お帰りなさい。トスカ」
「僕のクラリネット。ふふ、ありがとうございます。ただいま」




