偉大なる王にして偉大なる愚王
「呼び出しちゃってすみません。少しお話したくて」
「いえ。俺も聞きたいことがありました」
「そうですか? ではそちらから」
「あ、いや、トスカさんからで」
お互いなぜか少し距離を感じる。というか相手は英雄のトスカ王だし、今更だけど『さん』って呼んで良いのかな?
「ふふ、じゃあお言葉に甘えて、改めてガラン王国の元王のトスカです。僕の事は気軽に話しかけて下さい。どうやら亡くなった時の姿ではなく、君と同じくらいの年齢の姿なので。あ、僕は癖で敬語なので気にしないでください」
言われて気が付いたけど、亡くなる前は白髪だったって記述があったし、今はどうみても俺と同じくらいの年齢に見える。
「はあ、じゃあそれならトスカさんで……」
「まず一つ。今はミルダ歴何年でしょうか?」
えっと、確か。
「一二二六年です」
「そうですか。僕が亡くなって百年は経ってたのですね」
へえ、ミルダ歴って単純に数字を数えているだけだと思ったけど、歴史を遡る上では役に立つんだね。
「正直なところ違和感しかありません。どうして僕が音の神エルのところへ行けなかったのか。マーシャおばちゃんの家でギリギリ生きれたのか。何者かによってそう操作されたようにすら思えます」
「考えすぎかと」
「まあそうですね。というより僕が生きている間にフーリエが結婚していたとは……地味に驚きですよ」
え、母さんが? ……ああ、俺が息子って聞いたからかな?
「いやいや、俺は義理の息子ですよ。今から十五年前に空から落ちてきたーって言われて」
「そうなのですか? てっきりあのフーリエにもって感動していたのですが、残念です。おっと、ここでは麗しのリエンのお母さんでしたね」
勘弁してください。本気でそれで呼んでいくの?
「ふふふ、冗談です。リエンのお母さんは僕の恩人でもありますし、ガラン王国の裏の支配者と言っても過言ではありませんね」
先代の王がそんなこと言わないでください。まあ三大魔術師と言われているし、しかたがないのかな。
「僕の素朴な質問は終わりです。リエンは何が聞きたいのですか?」
「ゴルドさんの腰痛治療をしていたって本当ですか? しかも音の魔力で」
「本当です」
マジか。
信じたくなかったなー。原初の魔力で腰痛治療……いや、伝承とかだったら何かの間違いがあったのだろうと言い聞かせることができるけど、『本人』の口から言われたらもう信じるしかないじゃん。
「というかゴルドと知り合いなんですね。まあ、マオがいるので当然と言えば当然ですか」
「ミッドガルフ貿易国で楽器屋兼鍛冶屋兼鉱石精霊兼宝石の専門家をしています」
「『三大魔術師の魔術研究所の館長』よりも複雑な肩書ですね」
苦笑するトスカさん。
「聞きたいことって腰痛の話ですか?」
「あー、うん。聞いて良いかわかりませんが、『三大魔術師』という肩書について興味があったので。実はトスカさんと三大魔術師は深い関わりがあるのかなと」
母さんやミルダ様はかなり長生きしているのはわかるが、パムレに関してはトスカ様が生まれた後の話しか存在しない。数少ないミルダ大陸の文献を漁っても、パムレ……マオの存在は比較的新しい時代でしか出てこない。
「三大魔術師は僕が作った制度で……うーん、ちょっと恥ずかしい話なのですが」
「え?」
「シャムロエが暴走しないように作った集団くらいの認識で作ったのですよ」
「何という個人的な思想でとんでも集団を作っちゃってるの!?」
今や英雄の代名詞とされている『三大魔術師』が、実は『シャムロエ様をなだめる集団』になっちゃったよ!
そしてなだめるどころかシャムロエ様が先頭に立って頑張ってる気がするよ!
「『政治に関わって良いのはミルダだけ』とか『以下三名は国が独占しない』とか色々組み込んだせいか『なんか凄い存在』という認識となってしまい、二人が滞在していたゲイルド魔術国家は一時期とんでもない勢力を持っている国って認識が各国に広まったのですよね。いやー、焦った焦ったははは」
笑いごとじゃないよ!
「そしてガラン王国は何でも拳で破壊できるシャムロエがいるから、双方から挟まれたミッドガルフ貿易国の王は不眠症になって倒れたのですよね。情勢が落ち着くまでマオには苦労をかけてしまいました」
あははー。と笑うトスカさん。いやだから笑い事じゃ。
「……本当に笑い事じゃなかった」
「うお!」
ひょっこりパムレが俺の腕から登場。
「……ゴルドが来るまでの間だけでもって言われたから仕方がなく待ってたら、七十年も待たされた。トスカには孫ができてるし、シャルドネは危篤。そこら辺の悪魔よりも悪魔に見えた」
そう言い残してパムレはまた部屋に戻っていった。
「あの、トスカさん。その、気にしないでください。パムレはいつもあんな感じだってことはトスカさんが一番わかるかと」
「いえ、彼女には本当に悪いことをしたと思っています。僕が死ぬ直前、色々な勲章や賞状が目に入りましたが、僕はそれに見合った働きをしたか自信がありません。国民と妻の事を優先に考えた挙句、死んだ後も三大魔術師という楔で三名を縛っていたのですから」
どれが正しいかはわからない。間違い……ではないけど正解ともいえない。
こんな問題をこれからあそこで笑っているシャルロットも抱えるんだろうなーとふと思った。
☆
改めて今後の方針を決めようということになりまた俺の部屋に全員集合。
「何でパムレは俺の膝に乗ってるの? シャルロットじゃね?」
「何で私じゃ無いの? リエンに初めて殺意が湧いたわ」
「リエン、一応言いますがお付き合いというのはですね」
「はは、マオも居場所を見つけたのでしょうか」
総勢パムレに突っ込む。
「……リエンは早く寝る。パムレの魔力は無限に近いけど、魔力譲渡も楽じゃない」
「ごめんなさい」
そう言えばそうだ。俺ほとんど寝れてないんじゃん。
「とりあえず『影の者』は私の配下……うーん、もう少し良い言い方にしたいわね。私の影の側近兼タプル村に畑を作ることになったし、第一の目的である『創造の編み棒』は正式に私たちの物で良いのよね?」
「異論はない。本来それは緊急時の交渉に使おうとくらいしか考えておらぬかったからのう。土地がもらえれば御の字じゃ」
「じゃあ一旦ガラン王国へ行きましょう。これを持ち歩くのも怖いし、ガラン王国に保管してあった方が安心でしょう」
賛成。
「大叔父様も同行願えますか? 大叔母様も驚くかと」
「わかりました。今の女王にも挨拶したいですしね」
先代の英雄が生き返ったなんて、腰を抜かすだろうな。
「っと、あとは次の秘宝だけど……て、リエン、聞いてるの?」
聞いてるよー。
「……っく! フーリエ、少し離れてて。パムレの魔力供給が間に合わない」
「え?」
ん? どういうこと?
☆
白い部屋。俺の中では瞬きをした瞬間目の前の風景が変わった様に思えた。
『おひさ!』
「自称神のカンパネか」
『ひどい! 久しぶりなのに!』
相変わらず霞んで良く見えない。
「一つ聞いても?」
『おっと、助言の前に質問されるとは。何?』
「アルカンムケイル様とトスカさんをミルダ大陸に落としたのって君?」
『大正解! 凄い、よくわかったね!』
喜ぶカンパネ。はあ、その所為で鉱石の神はチャーハン職人になったんだぞ。
『実は複雑な事情があるんだ。こうして君と話ができるのは『呪い』のおかげでもあり、偶然と奇跡が重なってできている』
「どういうこと?」
『ゴルドやマオは知っていると思うけど、その昔ボクは世界を守るために全力を出して世界のバランスを保たせたんだ。おかげで実態も消えて概念だけが残り目には見えない存在になった。『認識阻害』の上位版って思ってもらって良いかな』
「でも目の前にいるだろ?」
『ふふ、君だけは特別。名前に込められた呪い。そして『ボク』という存在を忘れた時にだけ会話ができる状況。これらすべての条件が一致してようやく夢にのみ出てこれるのさ』
よくわからないけど、とにかく君を忘れた頃にやってくるってことね。
『さて、ボクも心苦しいけどトスカとエル……マーシャとは再会させてあげたかったんだけど、一人だけ問題人物が現れてね』
何となくその問題人物の想像はできた。
「レイジ」
『そう。出身地は不明。人間の分類だったから気にしていなかったんだけど、彼はドッペルゲンガー……つまり悪魔になっちゃって半永久的な命を持ってしまった』
出身地不明? ミルダ大陸じゃないのか。
『すべては賭けだった。トスカをあの家に落とした時、二百年以内にアルカンムケイルがミルダ大陸の様子をのぞき見……観察しなければあきらめていたけど、鉱石精霊が住みついたからほっとしたよ』
「息子の様子を……いや、神様ってそんな感情を持つの?」
『神だって色々いるんだよ? ボクの様に身を犠牲にする人もいれば、世界を手中にする人だっている。と、そんなに長い時間話せないんだった』
いつの間にか靄が薄くなっていた。
『音操人……トスカは歴代で一番音の魔力に精通している人だ。ボクが『リセマラ』をして頑張ったからね。アルカンムケイルは依り代を作ってもらったらこっちに戻ってもらっても問題ないし、そのままチャーハン職人しても良し。あ、カミノセカイのバランスは壊れるから、二百年以内が良いかな』
「そんなにいないとは思うけど」
『とにかく、なんとしてでも原初の魔力が込められた道具は集めてくれ。光と時間……多分次探すとしたら光の秘宝だと思うけど、概念からオウエンシテイル!』
最後は良く聞き取れなかったが、いつもよりはなんだかしっかり会話ができた気がした。
☆
で、目が覚めると布団の中にいたんだけど……。
パムレが上に乗っかっていた。
「あの、パムレさん?」
「……おお、やっと起きた。じゃ、パムレは寝る。お休み」
そう言って部屋から出て行った。
『ふむ、リエン様よ。おそらくじゃが『カンパネ』と話をしてたのかのう?』
「うーん、うろ覚えだけどそうっぽい」
『魔力消費が尋常じゃなかったー。マオが全力で魔力譲渡して無かったら魔術が使えなくなってたよー』
何それ、そんなに負荷が凄い夢だったの!?
「心配だったので隣で見ていましたが、なるほど。何か特殊な夢を見ていたのですね」
「トスカさん。そうだ、トスカさんがこの世界に落ちた原因はカンパネだそうです」
「カンパネ? ふむ……これは深い事情がありそうですね。もし良かったら君がマオと一緒にいる理由も含めて話してくれませんか?」
この夜、トスカさんには秘宝についてや、レイジについて等を話し、簡単にだが俺たちの冒険について話した。




