大切な場所1
急にフブキが敗北宣言って、どういうこと?
「こやつ……ただのハーフエルフでは無いな?」
「体はだいぶなまっちまったよ?」
「いや、この手を掴まれた時点で儂に勝ち目は無い。降参するから離してくれぬか?」
どういう事? ティータさんって強いの?
と、疑問に思っていたら隣に座っていた母さんがこっそり補足してくれた。
「ティータ様のお父様は、かつてシャルドネ様に武術を教えた方らしく、その強さはシャムロエ様を超えていたとか」
えー。そんな物騒な人がこの村の村長だったの?
というかお父さんって何者?
「……ハーフエルフはこの世界において人間の血が流れているにも関わらずかなりの長寿。そして、親の能力をほぼそのまま受け継ぐ。代償として精霊には少し縁遠い心を持っているため、大半は精神を壊し自害することも」
ちょっとパムレさんやい。怖い事言わないでよ!
「あ、というか姫さん! あんたの大叔母さんに文句を言いたかったんだよ」
「へ!?」
「ちょっと前に『一人、ガラン王国剣術を教えたい人がいるんだけど、ひと月ほど来てくれないかしら?』って言われたから用事を切り上げて城に言ったら『ごめん! 急用できたから例の話は保留で!』って言われたんだよ!」
「え!? それって」
もしかして剣術を教えるのってティータさんだったの? だったらこの村でも良かったじゃん!
「というかシャルロットはさっき初めてティータさんと会った感じだったけど、シャムロエ様とやり取りをしているということはどこかで会ってるんじゃ?」
「私はまだ勉強中の身で、王族や貴族の披露宴か祝賀会以外はあまり人前に出ていないのよ。軍として魔獣を退治するために外に出ることも少しはあったけど、村長階級に会うのはきちんと段階を踏んでからってことになるのよね」
うーん。その辺の仕組みは難しいからわからないけど、とりあえずシャルロットはあまり外に出てないってことね。今は大陸縦断するほど外に出ているけど。
「話を戻すわ。母上……シャーリー女王から話は来ていると思うけど、タプル村に唯一ガラン王国王家が保有している土地があるわね?」
「ああ。村の隅っこの土地の『マーシャの家』の跡地だろう? 今は姫さんの土地になったとか」
村の隅っこに少し広めの土地があるんだけど、よく母さんから『あそこだけは緊急時以外入らないでください』って言われてた場所があった。あそこって王家の土地だったんだ。というか名前もあったんだね。
「……」
と、パムレが握っていた手をギュッと強く握ってきた。というかまだ魔力供給してくれてたんだ。眠くてその辺の感覚がわからなかった。
「あそこ一角を大きな畑にしたいの。畑の管理の代表はここにいるフブキ。良いかしら?」
フブキはじっとティータさんの目を見た。
「へえ。一応言うとあそこは王家の土地だ。王家の人間が突然来てあそこに何を作ろうが村の人間は文句をいうことは許されない」
と、そこでティータさんはテーブルを叩いた。
「が……あそこがどんな土地か知っている上で私に聞いているのかねえ?」
鋭い殺気……って、殺気? いやおかしい。どうしてティータさんは怒っているのだろうか?
「正直なところ話しか聞いたことが無いので、すべてはわかりません。だから『許可』を頂きに来ました」
「へえ。スジを通すためか。その行動は評価しよう。だが、私個人的には『理由が足りない』ね。そうさね……そこの『マオ』にあそこがどんな土地か聞いてから出直して来な」
☆
夕食後。
本当の実家に帰った俺は久々の自室に感動しつつ周りを見ると結構な人が集まっていて驚いてもいる。
というかセシリーとフェリーはまだ成人女性の姿になってるけど別に小っちゃい状態でよくね? フェリーに関してはなんで成人状態になったの?
「パムレはティータさんと知り合いだったの?」
「……顔見知り程度。パムレが一番最初に訪れた村がここタプル村で、必然的に挨拶するくらいはしてたし、ここに来たときはリエンママの次くらいには顔は出してた」
そしてパムレは神術の詠唱を唱えた。
「……これは凄く昔のお話。少し忘れかけている部分もあるけど、そこはご了承」
詠唱が終わったのか、一つの神術が発動した。
「『過去投影』……」
記憶を目の前に投影させ、情報を共有する高度な神術。記憶が正しければ正しいほど安定する神術だが、普通の人は使いこなせない。
目の前にいるのはパムレだが、今は『三大魔術師マオ』としてこの神術を発動しているのだろう。
映された映像には、一人の少年と少女がテーブルに座っていた。
黒髪の優しそうな少年。そして隣には綺麗な金髪の少女。どこかで見たことがあるような?
『過去投影』は記憶を映し出す術式だから、この映像はきっとマオの視点なのだろう。
『困りましたね。『シャムロエ』は名前以外の記憶を失っただけで会話はできますが、この子は会話もできないのですか』
黒髪の少年は苦笑しつつもこちらをじっと見つめて真剣に何かを考えている。
『僕の名前はトスカです。とーすーか』
『……とすか。……マイネイムマオ。まーお』
『まお……ふう、どうやら名前は判明しました』
『ちょっと待ちな! 今その子、何て……』
と、そこへ一人のおばあさんが駆け付けてきた。
『マーシャおばちゃん?』
『あ、いや。なんでもない。いや、ちょっとそっちの子を私の部屋に。二人はそこで待ってな』
そう言っておばあさんの部屋に一人で向っていく。
『キャンユースピークイングリッシュ?』
『……!? リトル』
『オーケー。キャンユーマジック? あー、イリュージョン?』
『……イエス』
『ふう。オーケー。リードミーシンク。ここ、私の考えを読みな』
おばあさんは自身の頭に指をさしている。『心情読破』を使わせようとしている?
『……言語を理解。助かった』
『私も英語は苦手だからこれで終わって助かったよ。どうやら魔術の類で言葉を理解することはできるみたいだね』
え。今何をしたの?
と疑問を浮かべたところで映像は一時停止し、マオが話し始めた。
「……マオは以前軽く言ったけど、こことは違う世界から来た。だから最初にトスカとシャムロエと出会った時、何を言っているかわからなかった。このマーシャだけはマオの世界の言葉を少し知っていた」
「え、もしかしてさっきの黒髪の少年って大叔父様? それになんとなく似てるって思ったけど金髪の人は大叔母様?」
見た目はそれほど変わってないし、少年が名前を言ってたからそうだとは思ったけど、記憶を失った過去があったのか。
「……そしてこのおばあさんはマーシャ。トスカの祖母……いや、それ以上年は離れているけど、血縁」
「大叔父様の大叔母様ということかしら」
シャルロットの解釈がどんどんややこしくなってくるんだけど!
「……マーシャは原初の魔力音を保持していて、とある神様の命令で原初の魔力の音を保持する子供が生まれるまで『音の魔力を使って生き延びろ』と言われた。結果ようやく原初の魔力を保持したトスカが生まれ、トスカとマオが旅に出た後に力尽きた」
「そんな過酷な運命を?」
「……タプル村の人はティータを除いて全員が人間。唯一寿命を延ばして生き続けていたのがマーシャ。だからハーフエルフのティータにとって一番付き合いの長い人物」
なるほど。つまりティータさんにとってはガラン王国が保持する土地と言っても大事な場所に変わりないのか。
解説が終わると映像がまた動き始めた。
『さて、簡単に話すよ。ここはお前さんにとっては別の世界だ。だが、トスカ達にとってはここが生きる世界だ。お前さんがどこに行くかはお前さんが決めなさい。あの金髪の子は名前以外記憶が無いと言っていた。もし行き場がないなら記憶喪失という理由をつけてあの子たちと行動するが良いさ』
『……助言感謝。でも誤解がある。断片的だけどマオの記憶は完全ではない。そういう意味でも今の案は有効』
『そうかい。まあそこは任せるよ』
『……マーシャは良いの?』
『私はもう疲れた。役目を終えた。きっとお前さん達二人が来た時点で『そういう事』なんだろう。……なあ、カンパ〇』
そう言って映像はふっと消えた。
「……あ、ん? もう少し続けるつもりが途切れた」
どうやらパムレが意図しないタイミングで終わったらしい。
「とにかくあの土地はティータさんにとって、そして大叔母様にとっても大切な土地なのね。大叔父様が住んでいた土地でもあり、パムレちゃんの恩人の土地」
「……ふん! ……えい! 間違い……ではない!」
あ、パムレさん? もう大体内容を掴んだから『過去投影』はいいんだよ?
と、そこで今まで黙っていたフブキが話し始めた。
「事情は把握した。が、土地に関しては姫に一存じゃ。これは『影の者』として言わせてもらうが、大切な人の場所や思い出の場所という私情は儂らに関係ない……が」
フブキはまっすぐシャルロットを見た。
「それを差し置いてなお、あの土地に畑を設けて良いという話しなら、一族の名において大切に使わせていただこう。そして貴様……いや、シャルロット殿の配下となろう」
「そう……ちょっと、外の空気を吸ってきて良いかしら?」
「うむ」
シャルロットは部屋を出た。
「……えい!」
同時にパムレがかなり粘った結果、再度『過去投影』を始めた。
目の前にはさっきとはちょっと風景が異なっている……えっと、ミルダ様?
『やってられません! 雪超美味しいです! 果物の果汁を入れるとさらに美味しいです!』
『マオ様緊急事態発生です! ミルダ様がその辺の雪を食べ始めました!』
『……見ればわかる。フーリエ、手加減無しの本気で取り押さえよう』
雪を思いっきり食べているミルダ様を目の前に、俺も含め呆然と見ていた。




