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影の者の集落3

 俺がまだ人前に料理を出せない年齢の出来事だった。

 とにかく母さんの負担を減らそうと思い少しでも早く料理をふるまえるように一人で練習をしている時。


『水よりも熱くなる油を使うことで『唐揚げ』という料理ができるのか』


 母さんの書いたメモ帳を見ながら唐揚げの勉強をしていた。油を鍋一杯に入れて、それを火にかける。普通水であれば沸騰するが、油はそう簡単には沸騰しない。だが温度は火にかけた水以上になっている。

『ここに卵と粉をまぶした肉を入れると……おおー、これが『揚げる』って技法か』

 パチパチと音を立てながら肉は茶色に変わっていく。焼く作業とは違った状態に当時は感動していた。

『うん。少し母さんの唐揚げよりは薄味だけど美味しい! 今度母さんに食べてもらおう!』

 そして練習を一通り終わらせて、最後は後片付け。油はそのまま捨てるとダメって言われているから、油専用のごみ箱へ入れて、最後は水洗い。

 大きな鍋を使ったからこれを洗うには汲んできた井戸水を全て使うことになる。ちょっと面倒だと思った俺は魔術で方付けようと思った。

『ちょっと魔力を制御したー『水球』!』

 ピューっと手から水を出し、それを鍋にぶつける。次の瞬間。


 ピシッ!


 鉄の鍋から嫌な音が聞こえた。

『へ!? ひ、ヒビが……』

 そのヒビは徐々に大きく広がり、やがて鍋は二つに割れた。

『どうかしましたか?』

 と、同時に母さんが厨房に入ってきた。

『母さん! ごめんなさい! 鍋を壊しちゃった!』

 泣きながら謝罪する俺に母さんは冷静に鍋の状態を確認した。

『ふむ、魔術で熱せられた鍋を洗いましたか。ふふ、ワタチもはじめのころに経験した失敗をリエンもしましたか』

 優しくなでる母さん。

『いくら丈夫な物でも、とても熱い状態から急激に冷やすと壊れてしまいます。今度から油を使って調理した調理器具は少し空気で冷ましてから洗いましょう。それよりも怪我をしていませんか?』

『あああああ! かあさああああん!』


 ☆


「という事があったんだ」

「待ちなさいリエン。大泣きするって、当時リエンは何歳よ」

 うーん、六歳くらい?

「待て待て、刀を作る際には急激に冷やす作業がある。その時は壊れぬぞ?」

 その質問にパムレがご飯を食べながら答えた。


「……刀を作る際の焼き入れは、刀を丈夫にするための作業。手順を踏めば鉄を固くできるけど、間違った手順を踏めば壊すことができる。焼き入れで魔力の炎と魔力の氷を使えば普通壊れる」


「え、もしかしてマオって儂の集落の秘密である刀の製法を知ってるのかのう?」


「……ふふふ」


 そりゃあ数百年も生きていれば知ってたりするのかな。

「う……うむ、なかなか腑に落ちない部分もあるが、マオに関してはそもそも最初から逆らえぬ。それにしても料理から刀を壊す方法を編み出すとは、どの分野に情報が隠されているかわからぬの」

 満足したのか、果物の飲み物をごくごく飲むフブキ。

「ということで『影の者』の人たちに協力してもらっても?」

「約束じゃからのう。それに、領主としてはここの住人を守らねばならぬ。貴様を落とせなかった時点で儂は貴様……いや、リエン殿に従う他ないしのう」

 深々と頭を下げるフブキ。え、どういう意味だろう?

「……要約すると、三大魔術師の三人と各国の王族と繋がりのあるリエンは裏の世界では有名人。その裏の世界に住む『影の者』達はリエンの敵につくか味方につくかのどっちかしか道は無かった」

 つながりって……ちょっと顔を知っているだけだよ?

「凄いわね! よくわからないけど裏の世界では有名な人達を味方にできたのよね! じゃあ情報収集も少し楽になるんじゃない?」

「たわけ。儂はあくまでリエン殿の


 ☆


「うぐ……えぐ……」

「シャルロットさん。目にも止まらぬ速さでフブキを抱っこして村を一周しなくても良くないかい? それもフブキが何か言おうとした瞬間問答無用で連れてっちゃって」

 本気泣きのフブキをパムレが撫でていた。

「儂、お嫁にいけん……」

 その姿を見てシャルロットは笑いながら話した。



「ほら、『わからせる』必要ってあると思うの」



「怖いよ! 時々シャルロットのその強引な部分は夢に出て来るよ!」

「まあ半分冗談だとして、仲良くなるための交流よ。『影の者』という暗殺集団。おそらく私も何度か命を狙われたんだろうけどね」

 命を? どういうこと?

「ぐすん……ほう。さすがは勘が鋭いのう。確かに、ガラン王国の姫君を暗殺する依頼は何度もあったのう。残念じゃが何度もシャムロエ殿に阻止されたがのう」


 あったの!?


「ガラン王国の民全員が女王を崇拝しているわけではないわ。もちろん私の事を嫌う人もいるのは知っている。『影の者』じゃなくても盗賊が城に潜入するなんて日常茶飯事よ」

「改めて王族って大変なんだね」

 田舎育ちで良かったと思った今日この頃。

「それでフブキちゃん。どうかしら? 私の下で働かない?」

「む!?」

 突然、シャルロットの目つきが変わった。

「馬鹿な。儂がガラン王国に下る?」

「違うわ。ガラン王国ではなく私個人の配下よ」

「何が違う」

「仕事内容は主に秘宝に関する情報収集になるかもしれないけど、普段は私の護衛ね。今はイガグリがこっそりやっているけど、正直軍は人材不足なのにイガグリをこっちにつかせるのもかなり負担になっているのよ」

 確かに、この集落の人達は全員鍛えられている集団であり、裏で護衛についていればかなり安心できる。

「一応言うが、儂らはどんな任務も受ける。が、報酬は相場の数百倍じゃぞ? 貴様は『影の者』と言ったが、すなわちここの集落および大陸に潜む者全員を言う。いくら金のあるガラン王国でも姫一人の護衛に半日で財産を使い切るぞ?」

「へえ、そもそもどうしてそんなにお金が欲しいのかしら?」

「何?」

 シャルロットはすでに食べ終えて空になった茶碗を見て、微笑んだ。


「フブキちゃん。私はね、人よりも耳が優れているのよ。そして王族のたしなみということもあって、食べ物の良し悪しもわかるの。簡単に言うと舌も鍛えられているの」

 耳が良いって言うのは、音の魔力を保持しているからだろう。けど舌が良いというのは初めて聞いたな。

「フブキちゃんを抱っこして村を回ったけど、皆そこそこお腹を空かせているわね。それにこの野菜。すごくよく調理されているけど、野菜そのものはそこまで成熟していないかしら」

『予想せぬ『かわいい物体を見たら襲い掛かるお化け』の特技に我は少し驚いておるぞ』

『味がわからないウチらにはー、凄さがわからないけどねー』

 こそこそと俺の両耳から聞こえる精霊たちの独り言。うん、耳がくすぐったい。

「そこでどうかしら? ガラン王国領土内のどこかに大きな畑を作れるほどの土地の権利が欲しくない?」

「土地の……権利じゃと!」

 え、そんなに驚くことなの?

「リエンは知らないかもしれないけど、一応ガラン王国ってその辺りはしっかりしているの。領土内の村も村長がそれらを管理していて、家を建てるのだってガラン王国城下町の役所に手続きをしないといけないのよ。ちなみにエルフやノームの精霊は人じゃないという括りで除外しているわ」

 ガラン王国はってことは他の国はそこまでしっかりしていないのだろうか。

「それに最初にパムレちゃんを見た時、フブキちゃんは相当驚いていたでしょう?」

「あ」

 確かに。ここがバレたことで相当都合が悪いような感じだった。今思えば居場所がバレただけ以外に理由がありそうにも思える。

「大叔母様とは何かしらでやり取りはできたけど、この居場所までは突き止められなかったみたいね。でもパムレちゃんが訪れたことでもう貴女は何か行動しようと模索していたと思うわ。言い方は悪いけど私やリエンがここで消されてもパムレちゃん一人なら逃げれると思うわ」

「貴様、そこまで……」

 なんか今日のシャルロット、凄く頭良さそうなんだけど!

「じゃが、一国の姫ごときが土地の権利を与えることなどできぬ!」

「ふふふ、一国の姫ごとき。されど姫だからできたことってあるのよね。明日の朝、一緒にある場所に来てもらって良いかしら?」


 ☆


「あ、リエン。お帰りなさい。って、ずいぶん大所帯ですね」

 翌日。いつ誰に狙われるかわからない状態で一睡もできないままシャルロットの背中を追って歩いてついていくと、普通に森を抜けて見覚えのある村……というか、俺の地元のタプル村に到着した。

「え、リエン? ということはセシリーさんも?」

『あ、リエン様よ。辛いと思うが成人女性の姿で出ても? 一晩で何とか姿を保てる魔力は回復できたが、成人女性の姿となるとちっと足りぬ』

「……はあ、パムレが魔力供給する」

「ごめんパムレ。セシリーも出てきて良いよ」

 そう言ってパムレと手をつなぎ魔力供給を受ける。本来睡眠で得られるはずの魔力の回復が無かったからそれらも含めて辛かった。

「ピーター殿。久しいな。元気にしておったか?」

「おおお! セシリーさん! 急に帰られてどうしたのですか? 一報頂ければお迎えしたのに!」

 時々ピーター君のその行動力には驚くところがある。あー、魔力供給が心地よくて眠くなる―。


「何だい? 騒がしいねえ」


 母さんの後ろから緑色の髪の女性が歩いてきた。少し耳が尖っているのが目に入る。一見お姉さんという感じを出しているけど、実際は凄く年上で、それは彼女がハーフエルフだかららしい。

 幼いころからお世話になっている人で、今思えばこの村で母さんにとっては唯一の話し相手だろうか。

「ティータさん。しばらく村を留守にしていたけど、帰ってきてたの?」

「昨日帰ってきたのさ。聞けばリエンはミルダ大陸を縦断していたみたいだし、どこかで会えたかもしれないねえ」

「リエン、この方は?」

 あ、そういえばタプル村には何度も来たけど、『ティータ村長』は初めてだったか。留守にし始めたのも半年くらい前になるしね。

「この人はティータさん。ハーフエルフでこの村の村長をしているよ」

「その髪は……ガラン王国の姫だね。初めまして。ここの村の村長をやっているティータだよ」

「貴女が。申し遅れました。シャルロット・ガランです。ちょうど村長殿にも関係のあるお話をしに来ました」

「ふむ、もう一日帰る日を遅らせればよかったかねえ」

「勘弁してください。ワタチは宿の経営もある中で村長代理もさせられて大変だったのですよ。回覧板作りも楽ではないのですからね!」

 ぷんすかと怒る母さん。というか、村長代理をしてたんだ。魔術研究所の館長も務めているんだから町内の回覧板くらいパッと作れるでしょうに。

「まあいい。そちらの……ふふ、精霊の森に住んでいた人たちが関係する話だろ? ウチに来な」


 ☆


 小さい頃はよく読み書きを教えてもらうために来た村長の家。ピーター君と一緒に勉強を競い合ったっけ。

「ティータ村長。こちらが『影の者』の代表のフブキさんです」

「ふむ。よろしくねえ」

 さっと手を出すティータさん。フブキはため息をついて握手した。



「参った。降参じゃ」



 は?

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[一言] >「参った。降参じゃ」 んん!?!? どういうことだろう……。 続きが気になるぜ!
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