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 その人影は、中央の大広間の中で何かをごそごそやっている様子だった。

 彼は物陰から、ひっそりとそいつのすることを見つめていた。

 足音など、こそりとも立てるものではない。今の自分は、恐らく昔の自分とは異なる存在になり果ててしまっている。

 体を覆う黒いマントでほとんど隠れてしまっているが、そこからにょっきりと覗く腕は丸太のように太く黒く、傷まみれだった。頭に妙な違和感があって手をやってみると、そこには何か大きな角まであるらしい。

 それに、顔には何かが張り付いている。面でもつけているらしいが、外そうにもぴったりとくっついていて、どうしても外せなかった。

 やれやれ、と重い頭を振って、彼はまた気を取り直し、闖入者の様子をうかがった。


 王族らしい絹地の装束に身を包んだ人物は、青年のようだった。明るい色の髪なのだろう。月明かりに、それが時々きらきら光る。王族のつける紺地の長いマントが優美に揺れている。

 ひどく緊張しているのか、わずかの物音にもびくりと体を(すく)ませて、なかなか次の行動に出られない。肝っ玉が小さいのだろう。

 恐らくこれは、いわゆる「肝試し」とか、そういったことなのだろう。


(……ふん。くだらん)


 げんなりして、彼は踵を返そうとした。

 数十年に一度、彼らがこうしたことを行って王位継承者を決めることを、なぜか彼は知っていた。記憶のどこかに、それは刻み付けられていた。

 彼は自分の手をそっと見た。

 五本の指のすべてに、禍々しく曲がって伸びた巨大な爪が生えている。

 自分はこの爪で、多くの命を奪ったのだろうか?

 そのゆえに、こんな罰を受けているのだろうか。

 

 わからない。

 わからない……。


 うつむいて頭を振った時だった。その拍子に、頭の角がそばの壁に当たってしまった。


「だれだ!」


 若い青年の声が響いた。





 王子はせっかく手にした箱を取り落とし、慌てて周囲を見回した。

 今度は絶対に聞き間違いではあり得なかった。はっきりと、不審な物音が部屋に響いたのだ。

 王子は震える手で腰の長剣を引き抜いた。どうにか両手で構え、周囲に懸命に視線を走らせる。


「だれだ、出てこい! わ、私をこの国の、おっ、王太子と知っての、ことかッ……!」


 言葉そのものは立派なのだが、声がどうにも裏返る。

 しばらく無音の時間があった。

 こめかみから、じわりと嫌な汗が落ちる。額から落ちたそれが、今にも目に入りそうになった。


 ──と。

 王が入室する際に使用する奥の扉の向こうで、大きな影がごそりと動いた。


「ひ……!」


 悲鳴にもならない声で喉が鳴った。

 それは真っ黒で、非常に大きな影だった。

 月明かりが次第にその姿を明らかにする。

 影は黒いマントですっぽりと自分の体を包んでいた。大きなフードが頭部のほとんどを覆っている。

 そこから覗く顔には、なにか肉食獣のものらしい髑髏(どくろ)のマスクを被っている。()じくれた太く巨大な二本の角が、フードの端から飛び出していた。


(な……んだ、こいつは──)


 とても人のものとは思えぬ姿だ。

 自分の意思などまったく無視して、奥歯が勝手にガチガチ鳴った。


「だっ……だだ、だれだ。なんだ……? 貴様」


 きちんと構えているつもりの剣先が、故意にやっているのかと思うほど無様に揺れる。

 影はそれでも、しばらくのあいだ無言だった。

 やがてゆらりとそれが動き、一歩前に出てくる。足元の小さながれきが微かな音を立てたことで、王子はやっと、相手が実体のある存在だと認識できた。


(落ち着け。落ち着け……!)


 だが、足はいう事を聞かなかった。王子の意思など無視して、勝手にじりじりとあとずさっていく。

 彼の動きを見て、相手はまたぴたりと動きを止めた。

 再び、睨み合いの時間になった。



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