凄い物を頂いてしまいました
ptブクマありがとうございます
アプさんにコッテリと叱られた翌朝……
何故か朝食を食べる前に砂浜で組手をさせられております……お腹が空いて力が出し辛い。
昨夜は夕飯を食べれなかったし、何故か旅の備えの保存食もなかったし……多分アプさんと翡翠さんが食べたのでしょうけど。
あ、干物も少し減っていたので新しく作っておかねば……
それに昨日の宝石も鑑定して貰って、また銀を探すか買うかしなくては……やる事が多いですね。
「組手の最中に考え事かい?」
しまっ……危なっ!
今のあたしなら毎度お馴染みの足払いは不意を突かれても避けられんぎゅっ!
足払いを回避したと思った瞬間に後頭部を掴まれて地面に叩き付けられた……
足元が柔らかい砂浜で助かりましたが口の中がジャリジャリします。
「ふむ……そろそろ頃合いかねぇ?」
頃合い?
「明日の組手は無しだ、それで明後日は魔拳を使いな」
ゑ……これまで魔拳は「あたいの本気が見たくなったら使いな」とか言ってたのに……はい、あたしがひよっていただけですよ。
そもそも魔拳を使って良いと言われてもアプさんに通用する気が全くしないのですが?
光はいわずもがな、雷や鋼も平然と受け止める光景が容易に想像できます。
「使わないと後悔するよ……何せあたいが本気を出すんだからねぇ」
何ですかその死刑宣告は……もしかして明後日があたしの命日になるのでしょうか?
せめて葬儀は炎の神殿、姉さんの指示でお願いします。
そりゃ怖くて聞けなかったアプさんの全力に興味があるのは確かですが……確実に勝てませんね。
まあ、やるからには全力で抗ってみますけど……せめて1撃だけでもまともに入れたいです。
遅れながらの朝食を済ませたら宝石の鑑定と干物作りはコカちゃん、釣りはナクアちゃん、銀探しはロウに任せて……あたしは水晶を集めつつギリギリまで鍛練に勤しみます。
7割の力しか出していないアプさんにも勝てないのに全力を出すとか言われたら……ねえ?
まあ、あくまでも組手なのでお互い武器は使わないのですが。
あたしなら手甲、アプさんなら盾……字面だけ見ればどっちも防具ですけど、ちゃんとした武器ですよ。
それにしても今更ゴブリンやコボルト程度では準備運動にすらなりませんね。
見付ければキッチリと倒しますけど。
きっとゲームでプレイヤーが動かす、レベルを上げる為に最初の町の周辺をグルグル回り続けている勇者とかもこんな気持ちで戦っているんでしょうね……
いっそ熊でも出てきてはくれないでしょうか……って何か視線を感じますね?
敵意は無さそうですがこの気配からして右後ろ……5メートルぐらいでしょうか?
「……【光弾】」
「うわぁっ!」
……誰かと思えば昨夜ダンジョンで会った残念様ではないですか。
「いきなり何するのーっ!こんなのに当たったらアタシ死んじゃうよ!」
「いきなり打ったのは謝りますがコソコソと尾行するのはどうかと思いますよ?」
というか魔力が低いあたしの光弾程度ではゴブリン1匹倒せませんよ……
「っていうか何でアタシの居場所が解ったの!かなり正確に!」
「空手のお陰です」
異論は認めません、あしからず。
で、お昼に用意しておいたおにぎりを食べさせつつ話を聞かせて貰ったのですが……
「アタシは後40年は待たないと眷属が居ないからまだ下級の女神なんだよね……最低でも中級にならないと自分の世界は造れないし、やれる事もないからトゥグアにお願いして仕事を回して貰ってたんだよ」
眷属って……多分デストさんの事でしょうね。
残念様の口振りからしてデストさん自身も納得しているんでしょう。
まさかダンジョンを作るのも女神の仕事だったとは思いませんでした。
「因みに下級から中級に昇神する条件は【心から慕う眷属を最低でも1人従える事】だよ、それを達成すればアタシも中級になって他の属性を司れるの」
成程……トゥグア様が自分の妹、ハイドラ様がペットを眷属にしたのは【心から慕う】という条件を満たす為でしたか。
そう考えるとセバスチャンさんを従えたトゥール様って……凄いカリスマ持ちだったんですね。
普段の様子を見ると欠片すら出ていませんが。
「あ、この話は勇一くん……じゃなかった、デストくんには黙っててね?一応あの子の前では出来るお姉さん、って事になってるから!」
まあ言った所であたしには何の得もありませんし、黙っておきますよ。
それにしても……デストさんは勇一って名前だったんですね。
そういえばあたしとロウは自分を殺した奴が付けた名前は嫌だからって改名しましたが……デストさんはどうして改名したんでしょうか?
「それは本人に聞いた方がいいんじゃない?多分聞けば普通に答えると思うよ」
「そうですね……」
もしかしたらロウが既に聞いてる可能性もありますし。
「あ、そうだ……トゥグアから指示があったんだった」
それは真っ先に言って欲しかったのですが……まあお腹が空いていたみたいだし仕方ないですね。
あたしのおにぎりを全部食べたんだからやる事はやって貰います。
「えーゴホン……まずアタシからキュアちゃんに【収集者】の称号を与えます」
また称号が増えた……
「収集者の称号自体には何の補正もないけど、これで一応条件は満たしたよ」
補正がないなら何の為に付けたんですか……って条件?
ってあたしの首にいつの間にかペンダントが?
「それはキュアちゃんが炎風水地の女神から認められた証【女神の涙】だよ、効果は一生の中で1回だけ禁呪を使う事が許される、だけど……これまでにそれを身に付けられたのは人間だった頃のヨグソ様だけらしいよ」
女神の涙……炎はトゥグア様、水はハイドラ様、風はトゥール様、そして地は残念様ですか。
1神だけ下級神というのは気になりますが同じく地の女神であるアルラ……でしたっけ?とは敵対してますからね。
というかヨグソ様以外には居なかったって……随分と御大層な物を頂いてしまいましたね。
「所で神子の使える禁呪ってどういうのがあるのですか?」
「魂を妊婦に宿したり、異なる世界に移す【転生】、信仰する女神の怒りをぶつける攻撃魔法の【神罰】、後は死者を生き返らせる【蘇生】……ぐらいかな?キュアちゃんやデストくんをこの世界に送ったのは転生、そこに蘇生を合わせた力業だよ」
他の2つはまだしも蘇生はゲームなんかでは定番の魔法だった気がしますが……まあ下手に死人を生き返らせても混乱されるか不気味がられるかのどっちかでしょうし。
病気や寿命で死んだ人は生き返れないのがお約束でしたが……多分この世界でもそれは同じでしょう。
まあ使う機会はないに越した事がないのですが……幾分か気が楽になったのは確かです。
「【神罰】ならクティちゃんを1撃で倒せる筈だけど……それを使う気はないみたいだね?」
「当然です、クティはあたしの拳で倒さなくては今までの鍛練も意味がありませんから」
「……普通の人間ならチート貰って俺つえー、ってなると思うんだけど?というか神子なのに拳なの?」
「そんな借り物同然の力に頼っていたら迎える結末はロクでもないに決まっていますし、空手はあたしの生き様なのですよ」
チートで世界の脅威を退けてもそれ以上の恐怖を与えてしまうだけでしょうし……助けた人達に後ろから刺されるか、寝込みを襲われるか、1人を殺す為に大軍が押し寄せるか、油断した所で毒殺されるか、宿か拠点ごと燃やされるか……いずれにしてもまともな死に方は出来ませんね。
あたしが死ぬ時はロウの胸の中かコカちゃんの膝枕と決まっています。
「デストくんと同じ事を言うんだね……トゥグアやトゥール様のお気に入りでなければアタシの眷属にスカウトしたのに」
デストさんも同じ事を言ってたんですね……
それとあたしは1信者でしかありませんから、眷属はお断りしますよ?
トゥグア様にスカウトされたら考えますけど……そういえばトゥール様からもスカウトされていましたね。
「因みにハイドラ様もロウくんをスカウトしてるらしいよ?」
……少しは考えていいかもしれませんね。
死ぬまでには決めておきます。
「そういえば何であたしに【収集者】って称号を?」
「だってキュアちゃん、料理のさしすせそを自力で作っちゃったでしょ?」
「砂糖と塩は作った覚えがないのですが!?」
作り方は知っていますけどね!
「あぁーまたお腹が空いてきたぁぁぁ……」
「あれだけ食べたのにですか!」




