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出来立ては果実みたいな香りです

ptブクマありがとうございます

色々と仕込みをした翌朝……お祭りが始まりました。


ここのお祭りは料理コンテストや行商市と違って今日限りだそうですから、干物や酢を作る時間は充分に取れそうで安心しましたよ。


此方はあたしとナクアちゃん、コカちゃんはロウと屋台ですが……まあ大丈夫でしょう。


最近はロウが火傷して戻る事はなくなりましたし、何気にあたしとコカちゃんの屋台は隣同士でしたし。


アプさんと翡翠さんは……中央でドワーフの方達と一緒にひたすらお酒を飲みまくってます。


って早くも翡翠さんが潰れてリタイアした様ですね……ドワーフの方々が抱えて退場しましたよ。


よく見れば誰もオツマミを口にしてないし、そりゃお酒だけを飲んでたら余計に早く潰れますって。


因みにオツマミは干し肉みたいです。


「ナクアちゃん、翡翠さんに冷たいお水を飲ませて下さい」


「はーい!」


この様子じゃ明日は確実に二日酔いですね……


朝食に……シジミはないからお粥を作っておきましょう。




「茹でタコ3皿くれ!」


「こっちは2皿!」


「このカラアゲっての5皿くれ!」


「両方3皿だ!」


こうやってお客の相手をするのも慣れてきましたね。


今じゃ落ち着いて対処が出来ますよ。


そう考えればンガイのイノシシやウィラコさんの無茶振りも無駄ではなかったのかもしれません。


……出来れば料理の腕より空手の腕を上げたいんですけども。


「おっと、ナクアちゃん追加のタコを鍋に入れて下さい」


「解ったー!」


予め別の鍋で煮てあるタコを煮汁ごと寸胴鍋に移すだけだからロウでも出来ます。


ただそれだけじゃ煮詰まった煮汁で味が濃くなり過ぎてしまうので一緒に水を追加しておきますよ。


さて唐揚げもいい感じに揚がりましたね。


むしろあたしが食べたいぐらいです。


「お、アプさんの方も大分盛り上がってるな」


見れば既にアプさんを含めて3人しか残っておらず……コップを使わず樽で飲んでいました。


ドワーフがそれをするのは絵になってますけど……エルフのアプさんがやってるのは異様な光景ですね。


しかも1滴たりとも溢してはいないですし……


「母さん……また、あんなに」


まあ、確か明日は休肝日だった筈ですから……多少は大目に見てあげましょうね?


アレは多少って量ではありませんが。




「おっと、申し訳ありませんが……これで品切れです」


「「「何だとーっ!?」」」


声が大きいですって……しかし露骨にガッカリしてますね。


うん、実を言えばロウが持ってる鞄の中に夕飯用の伝通煮は残ってるんですけどね……


本来この屋台を出す筈だった方が用意したタコに加えてあたし達の釣ったタコまで入れたのに品切れになるとは思いませんでしたよ。


とはいえお客は残り3人……でも伝通煮以外だと頭の切れ端と足の先端ぐらいしかないですし。


あ、小麦粉と玉子がありました。


味付けはタコの煮汁と少量の醤油で……イケそうですね。


小麦粉に煮汁と玉子、タコの切れ端をありったけ混ぜて、醤油も混ぜたら薄く伸ばしながら焼いて、と。


ソースではないので、いわゆるチヂミもどきです。


これを1人1枚焼いて食べやすく切って……今度こそ終わりです。


「皆さんが最後ですし、これはサービスだからお代はいりませんよ」


「「「悪ぃな、ありがとよ!」」」


うん、有り合わせですが食べたくなったし明日にでも自分で食べる為に作りましょう。


そしてアプさんは……10連覇を達成なさった様です。


これで暫くはお酒にお金を使う事は……明後日にはなくなってそうだし普通に買いそうですね。


そして決着と同時にお祭りもお開き……後片付けはドワーフの方々が10分で終わらせてくれました。


「さて、片付けはドワーフの方がやってくれましたし帰って夕飯の準備でもしますか」


「キュアは翡翠さんを連れて来てくれ、コカやナクアじゃ無理だし俺だと……解るだろ?」


そりゃ酔っ払ったアプさんに任せる訳にもいきませんからね……ロウだとセクハラの疑いで幻獣の皆さん……というかリーアさんにシメられる可能性がありますからあたしがやるしかありません。




そんなこんなで夕飯……伝通煮にサバの味噌煮、イカの塩辛です。


イカにも寄生虫が居る可能性がありますが、イカの身に熱湯を掛けてから作ったので安全に食べられますよ。


もしカツオが釣れたらタタキにすればお刺身でイケますかね?


なお、翡翠さんとアプさんは既にダウンしています。


あれだけお酒を飲めばそうもなりますよね……ならなかったらもう人間じゃないですよ。


「この味噌煮って梅干しの味がするー!」


鋭いですねナクアちゃん……


生姜、または梅干しを一緒に煮るとサバの臭みを消してくれるんですよね……


更に梅干しもサバの油を吸って何とも言えない味になるのです。


大抵の人はその梅干しを捨ててしまいますけど、勿体ないからあたしは食べます。


……で、解ってはいましたけど塩辛はあたししか食べないんですね。


こんなに美味しいのに。




翌朝……予想通りアプさんと翡翠さんは二日酔いでダウンしています。


今はコカちゃんが2人の看病をしつつ、梅干し入りのお粥を食べさせていますよ。


毎朝の組手はお休みでいいとして、やるなら今日しかありません。


「という訳でお酒を1樽買って来ました」


「酒……ああ、酢を作るんだな」


「ナクアちゃんもしめ鯖を気に入った様ですからね……」


他の皆さんは酸味が苦手だし海辺でなければ使う機会はないでしょうが、お刺身の為です。


今回は蓋を開けて、ひたすら短縮(ジャンプ)を掛け続けながら、時々かき混ぜるだけの簡単なお仕事です。


暫く続けると膜が張ってきますが構わずにかき混ぜて……再び膜が貼ったら濾してやれば酢の出来上がりです。


後はこれをアプさんに気付かれる前に瓶詰めして、樽を返却すれば大丈夫でしょう。


因みに普通に作ると15から18日ぐらい掛かります。


ですがこうやって作った酢は市販のより柔らかい味になりますし、漬けるには最適な酢になるのです……この世界じゃ酢なんて売ってませんけど。


およそ20瓶分出来ましたし、しめ鯖と一緒に酢ダコも仕込めますね。


それとアレも作れそうです。


「よし、瓶詰めも終わりましたし……ロウ、鯖を釣って来て下さい」


「それはいいけど、他の魚は?」


「当然、釣れれば食べますよ」


釣ったからには美味しく食べるのがマナーという物です。


あたしは稚魚でもない限りリリースなんてしませんし、させません。


「ナクアも行くー!」


そういえばナクアちゃんはこれが初めての釣りですね。


釣竿より自前の糸で網漁をしてる姿が想像出来ましたが……気のせいだと思っておきます。


「ちゃんと釣り方を教えてあげて下さいよ?」


「おう、沢山釣れればまたしめ鯖が食えるぞ」


「うん、頑張る!」


本当に沢山釣って下さいよ?


下手したらピーニャまでしめ鯖を食べるかもしれませんから。




釣りはロウとナクアちゃんに任せて、あたしは樽を返却しながらこの村の神殿に向かいます。


ここは水の神……ハイドラ様を崇めている様ですね。


まあ海辺の神殿なら納得ですけども。


幸いにも不正やセクハラといった問題はなさそうだし、運営資金も信者の寄付に加えて塩を作って売る事で賄っている様だから安心しました。


ついでだし塩は補充させて貰いましょう。


それにしてもここは今まで見た神殿の中では1番まともでしたね……主に神官の性格が。


あたしと(ジェネ)さんの所属する神殿もここを模範にしたいぐらいです。


だからこそあたしはアチコチの視察をしているんですけれど。


何にせよ今回は厄介事がなさそうで良かったですよ……立て続けにセクハラ神官とか奴隷商とか現れていましたし、たまには平和に終わりたいです。


さて、視察にお祭りが終わったなら残るは干物作りですか……


釣る人が多い方が捗るしコカちゃんにも手伝って貰いたいから、アプさんが復活してから始めましょう。


後、お刺身を飽きる程に食い溜めしておきます。

「待って、それ酸っぱいから……これ以上は」


「食べなきゃ……駄目」

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