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真剣勝負を挑みました

ptブクマいつもありがとうございます

少年がイブと仲良くなれる様にお節介をしてみた翌日……


いよいよラスカさんと組手をする時が来ました。


それに合わせて鋼の持続時間を伸ばそうとしてはみましたが……


「ふぅ……およそ5秒、攻撃には使えても1発が限度ですか」


魔力と気のバランスが少しでも崩れるとすぐに解けるという性質ですし、戦闘中では1発毎に調整している暇はありません。


相手だって戦闘の最中は律儀に待ってくれませんからね……特撮ではないんですから。


そういえばこの鋼はどれ程の威力なのかがまだ不明でしたね……持続に気を取られて威力を調べるのを忘れていました。


イノシシの骨を砕くのはコツさえ掴めば簡単ですし、参考にはなりませんからね。


「すみません、何か壊しても問題のない硬い的の様な物はありますか?」


「ああ、それなら今作るよ」


え……作る?


「トウカ、【水壁】」


「ミャッ!」


それが話に聞いたトウカの新しい技能ですか……


「で、この矢を刺せば……ほら出来た」


氷の壁……確かに硬い的ではありますね。


では遠慮なく……まるで氷柱割りに挑んだ時の様な心境です。


日本に居た時、道場で1度だけやらせて貰った事がありますが……その時は5枚中1枚しか割れませんでした。


「ふぅ……【魔拳:鋼】!」


ガキィンッ!って金属同士でぶつかり合う様な音が響いて……ガラガラと音を立てながら崩れてしまいましたね。


確かに硬い的でしたが、何で氷がこんな音を立てるのでしょうか?


昔聞いた音はパキッ!といった感じでしたが。


「その壁、物理的な衝撃にはかなりの耐性がある筈なんだが?それをたったの1撃って……」


「ミ、ミャァ……」


何でトウカが震えているのかは置いておきますが……持続時間が短いなりにかなりの威力であるのは確かな様です。


何としてもクティと戦う前に何時でも使える様にしなくては……


「そういや、そろそろラスカさんとの約束の時間になるんじゃないか?」


「おっと、もうそんな時間ですか……」


まあ、出来ない物は仕方ありません……今は目の前の戦いに集中しましょう。




「やっぱキュアの奴は人間辞めてきてるよなぁ……それでも好きなんだが」


「ミャア……」





村から少し離れた郊外……


既にラスカさんの準備は終わっている様ですね。


何故かアプさんとコカちゃん……王様と夫人の3人にデストさん達、アーチさんまでもが見物に来ていましたが……やる事は変わらないので追求は止めておきます。


「では、始めましょう」


「……ええ」


ラスカさん……風と喜の女神であるトゥール様の分体。


そしてあたしの恩人にして目標である留美子さんと同一の存在。


実力まで同じとは限りませんけれど……今出せる全てをぶつけさせて頂きます。


「……【魔拳:光】!」


「……【気弾:纏】!」


っ……あたしの光とラスカさんが拳に纏わせた気弾が相殺されてただのパンチに!


しかも相殺の衝撃で勢いが殺されてる!


どうやらラスカさんも気付いた様で、拳同士がぶつかった途端お互いに距離を開けましたが……


そういえばラスカさんは以前デュロックさんと戦った事があると言っていましたね……纏とやらは魔拳の対策、という訳ですか。


「やはり、一筋縄では行きませんね……流石デュロックさんが見込んだだけはあります」


「嫌味ですか?まさか覚えたばかりの技を破られるとは思いませんでしたよ……」


「では、ここからは私本来のやり方で戦わせて頂きましょう」


おや?


ラスカさんの周囲に気弾が……8つも!


「【気弾結界】……本来の気弾はこの様に使う防御の為の技能、それを攻撃に応用したのが纏や通打といった技です」


もしかして最初に暗殺者(アサシン)に向けて放ったのは……気弾をただ投げただけ?


しかもその話の通りなら今までずっと手加減していたと?


気になりますが戦えば解りますし……攻めるしかありませんね。


「【魔拳:雷】!」


「甘い!」


ぐぬぬ……気弾に阻まれて攻撃が通らない!


魔力ではなく気を使う雷なら長く持続出来ますが当たらなければ意味が……


「ふむ……どうやらキュアさんはまだ左拳でしか魔拳を使えない様ですね、それに気の扱いは中々の物ですが魔力の扱いは未だ未熟」


もう見抜かれた!


あたしは右利きですが何故か魔拳は左にしか出ないんです。


確かにラスカさんは気配の察知を覚えるのもあっという間でしたし、拳に込めた気や魔力を感じる事も可能でしょうが……


後、未熟は自覚しているので触れないで下さい。




「次は此方から行きましょう」


気弾が飛んできた……けど魔拳でなら防げます。


って気弾を巻き込みなから蹴り!


思わず魔拳で応酬したけど打ち負けて鼻に当たって……滅茶苦茶痛いんですが!


鼻血が出てますが止血してる暇はないので後回しとして、どうやら気弾はそれ自体に破壊力はないけど魔拳と同様に攻撃の威力を底上げする様です……


しかも蹴りにも効果があるし、敵に回ると厄介この上ない技能ですね!


「急所を外されたとはいえ、今の蹴りは意識を断つのに充分な威力があった筈ですが……見た目以上にしぶといですね」


「……誉め言葉と受け取っておきます」


実際鼻が痛むお陰で飛びかけた意識が繋がっているんですが次はないでしょう。


その前に何とかラスカさんに1撃を入れたくても……体術自体は向こうが上だしあたしの技能で攻撃に使えるのは魔拳のみ、でも光は気弾に相殺されるし、雷では気弾に阻まれてしまう。


残るは……やはり鋼に賭けるしかありませんか。


鋼を使うなら打つまでの間は左が使えなくなって無防備になりますが急所は庇いつつ懐に潜って、気弾ごと打ち抜く……それしかありませんね。


最初から打たれると解っていればある程度は耐えられるでしょう……多分。




「ふむ……左拳に気と魔力が収束されてますが、それが奥の手と見て良さそうですね」


だから見抜くの早すぎますってば!?


とはいえ今更止める訳にもいきませんし……


「いいでしょう……ならば此方も」


おや、8つの気弾が……ラスカさんの右拳に!


「【破戒撃】、かつてデュロックさんと引き分けに持ち込んだ……私の奥の手です」


そういえば勝敗は聞いていませんでしたが……引き分けだったんですね。


しかし一撃勝負になったのは有難いです……これで限界まで調整出来ますから。


残った魔力と気を全て……この一撃に!


「【魔拳:鋼】!」


「【破戒撃:滅】!」


………







気が付いたら茜色に染まった空を見上げて……ってあたしが倒れてるんですね。


「キュアちゃん……大丈夫?」


後頭部に柔らかい感触、覗きこむコカちゃん……膝枕してくれていたのですね。


鼻も全身も痛みがないからきっと(ジェネ)さんが治療してくれたのでしょう。


「ふぅ……あたしの負け、ですか」


本当に……アプさんを始めとしてミラさんにラスカさんと対人戦で負けてばかりですねあたし。


盗賊のオジサンやネクロオバサンはモンスター扱いだからノーカンです。


「所で……鋼を出した辺りから記憶がないのですが、どうなったのですか?」


「え、えっとね……」


しどろもどろな説明を要約すると……


魔拳と破戒撃の打ち合いはあたしが制した物の、あたしが追撃の回し蹴りを出す前にラスカさんの中段蹴りが当たって、逆に追撃の通打を決められてしまった様です。


そういえば道場に通っていた時に「お前はここぞという時に回し蹴りに頼り過ぎる節がある」とか言われましたが……


奇しくも最後はその時の組手の再現になってしまいましたね。


師範は通打なんて使えませんけど……いや、もしかしたら使わなかっただけかも?


あの人なら両手から気のビームを出しても不思議ではありませんからね……うん。


「それで……ラスカさんは、【久しぶりに全力の戦いが出来ました】って……言ってたよ」


……師範は結局本気で立ち合ってはくれませんでしたが、ラスカさんは全力を出してくれたのですね。


それが知れただけでも良かったです。


って、それだとアプさんの本気はどんだけヤバいんでしょうか?


「キュアちゃん、立てる?」


「ええ、何とか」


まだ頭がクラクラしますが歩けない程ではないですね……ゆっくり進めば大丈夫でしょう。


「ジェネさん……血が足りないって言ってたから……無理はしないでね」


あー……組手中、鼻からドクドク流れてましたからね。


回復魔法だと傷は治せても病気や貧血には効果がないですから。


仕方ありません、暫くは安静にしておきましょう。




尚、夕飯はデストさんが作ってくれていました。


「嬢ちゃんの血が足りないとか聞いたからな……肉屋から肝臓を貰ってきたぜ」


ありがとうございます。


「牛乳に漬けて臭みを消して、山に自生してたニラと一緒に炒めた……いわゆるレバニラだ」


貧血の特効薬……って言われていたのは昔の話だった様な?


「それと貧血には大豆と玉子が良いって聞いたからな、豆乳も飲んどけよ」


そして最後にオムレツですか……


ってあたしの分しかない様ですが?


「妊娠してるエリナ様とマリー様にとってレバーは毒になるからな……それは貧血の嬢ちゃん用のメニューだ」


お手数お掛けしてスミマセン……


「おっと、忘れる所だった……俺達は明日ボリアに戻るからな、嬢ちゃんにこれをやるよ」


これは……指ぬき型の手甲?ガントレット?


拳の部分には各色の水晶の破片が使われていますね。


「そいつは俺が作った嬢ちゃん専用の武器、まあボクサーのグローブみたいなもんだな……それなら神殿の規律にも反しない筈だ、ジェネにも確認したし」


そういえば刃物や鈍器を生物に向けるのを禁ずる、なんて規律がありましたね……食材はセーフらしいですが。


「それにはある程度魔力を蓄積させる効果があってな、嬢ちゃんの魔拳をサポート出来ると思うぜ」


魔力を蓄積……という事はこれに込めた魔力とあたしの気で鋼を使う事が出来るかも!


「といってもこれを作る様に言ったのはツァトゥ様なんだけどな……いきなり夢に出てトゥグア様からそういうのを作って欲しいと頼まれたとか、伝言で素晴らしいラブコメでした、とか」


相変わらずラブコメ大好きなんですねトゥグア様……


有り難く使わせて頂きます。




夕飯後はお風呂……は止めろと言われたのでコカちゃんに身体を拭いて貰って、後は寝るだけなのですが。


「……何でトウカとピーニャがあたしの布団に入っているのですか?」


「ミャ?」


「グルッヒャ?」


「いや、別にいいんですけど……」


まあ、たまには小動物と一緒に寝るというのも悪くはないでしょう……人によっては癒し効果もあるらしいですから。


ピーニャの尾は魚なんですが……生臭くならないなら構いませんよ。


明日は見送りしたら安静にするとして……明後日はこの武器の性能を確かめるとしましょう。

「所で翡翠さん、何でトウカとピーニャをキュアに?」


「ハイドラ様からの信託でね、多分キュアちゃんに話でもあるんじゃないかな?」

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