接触がありました
Ptブクマいつもありがとうございます
イノシシを狩りまくった翌日の昼……ようやくロウ達が帰って来ましたね。
マリー様は何故か考え事をしている様ですが拐われた子達は無事に帰れたみたいだし、とりあえずは一安心……
「キュア、実はな……肝心の奴隷商は行方不明になったんだ」
……は?
「拐われた子達を逃がす為に目を離した……およそ20分程で拘束されたまま逃げた様です」
「辺りを散策したけど、足取りも掴めなかったわ」
「因みに奴隷商はナクアの新しい技能で亀甲縛りにされていたからな……自力で動くのは不可能だった筈だ」
新しい技能はまあいいとして……何で亀甲縛りにしたんですかね?
ナクアちゃんなら意図的にやった訳ではなさそうですし……うん、クティの趣味という事にしましょう。
「それに、奴隷商と繋がっていた貴族達の行方が解らないのも不可解です……何かの前触れでなければ良いのですが」
暗殺者を雇っていたから貴族絡みなのは確実ですし……確かに解せませんね。
まあ気になりはしますが、残った暗殺者共は根こそぎ牢屋にぶち込んだからイノシシの後始末をしましょう。
イノシシの骨で作ったスープはトンコツ的な匂いですが、臭み消しのジンジャーも入れたのでコカちゃんやナクアちゃんでも食べられます。
そこに固めに茹でた麺を入れて、イノシシのバラ肉を丸めて茹でて、醤油で煮込んだ煮豚にその醤油に漬け込んだ半熟ゆで卵を半分に切って乗せて、と。
最後にタマネギのみじん切りを乗せればイノシシラーメンの出来上がりです。
因みに味付けは煮豚を作った時の醤油です。
「キュアのラーメン食うのも久しぶりだな……美味ぇ」
「今回は狩ったイノシシの骨をありったけ使いましたからね……幾らでも食べていいですよ、むしろ食べてくれなきゃ困ります」
因みにこのラーメンは村民の皆さんにも無料で配布しています。
イノシシ狩って処理するまでが依頼の内容ですからね……
赤さえ何とかすれば食べる必要はなかったのですが勿体ないですし、美味しい肉を無駄にする訳にはいきませんから。
「因みにデストさんは彼方でモツ煮と脳ミソを出して、リベンさんは向こうで牡丹鍋を出しています」
「脳ミソ……美味いって話は聞くが食指が動かないんだよなぁ」
ふと見ればピーニャがひたすら脳ミソ食べていました。
そんなに気に入ったんでしょうか?
「……替え玉、固め、タマネギ、マシマシ」
「はい少々お待ちを」
って薬味をマシマシとは珍しい注文ですね……
「……ってお前、ザトー!」
「童貞、久しぶり……まだ死んでなかった、良かった」
「はい替え玉と薬味……知り合いですか?」
何でロウを童貞って呼んでるんでしょうか?
近い内にあたしが頂くつもりなので事実ではありますが。
「こいつはクティの部下だ……」
「童貞は、ザトーが殺す……御馳走様」
食べるの早っ!?
ではなくて、ロウを殺すとか言いましたかコイツは!?
「止めろキュア……周りに人が多い、巻き込んじまうぞ」
っ……見逃すしかない、という訳ですか。
「もしかして奴隷商と、繋がっていたという貴族が消えたのはお前の仕業か?」
「正解……あの豚共、アルラ様の世界で、種馬になる運命……不能になったら、返す」
……少なくともまともな扱いはされないという事は解りました。
散策なさっている皆さんには申し訳ないですがこれを伝える訳にはいきませんし……黙っておきましょう。
「それはそうと……何故ロウの命を狙うのですか?」
「童貞は、幻獣使い……クティ様の邪魔になる……それに、ザトーの妹、たぶらかした」
妹……もしかしてナクアちゃんの事ですか?
それより何でロウが邪魔になるのかを聞きたいのですが……
「7年前……妹、ザトーと結婚する、言ったのに……童貞に、寝取られた」
その表現はかなり危ないから言い方を考えてくれませんかね?
というか邪魔ってどういう……
「ちょっと待て、その辺り本気で身に覚えがないんだが……」
「童貞は、幻獣に好かれ易い……だから、妹、なついた、そこの猫みたいに」
言われてみればナクアちゃんも幻獣なんですよね……見た目はそうとは思えないんですが。
因みに当のナクアちゃんはリベンさんの所で牡丹鍋を食べていました。
「だから、殺す……妹、解放する」
あー……つまりこの子はサイコパスなシスコンなんですね。
後、いい加減に邪魔になる理由を……
「じゃ、帰る……童貞の命、後60日と、11時間、48分、覚悟して」
細かいですね!
その日まで秒単位で数え続けるつもりですか!?
……結局理由は聞けませんでしたし。
「もしかして前にロウが言っていた心当たりは……」
「ああ、間違いなくあのザトーだろうな……確か職業は忍って言ってた」
忍者居たんですか!
って、それよりも!
「殺すと言われていながら、何でそんなに落ち着いてられるんですか?」
「あいつ、初対面からずっと俺を童貞だの殺すだのって言ってたからな……慣れちまったよ」
それ慣れてはいけない所なのでは?
「安心しろ、俺は簡単に死ぬつもりはない」
その言葉、信じますからね?
「何なら今から童貞を卒業しますか?」
「とてつもなくお願いしたくはあるが少なくともあいつ等をどうにかするまで、するつもりはないからな」
残念……ではなくて、覚悟は伝わりました。
夕方になって、ラーメン作りはコカちゃんとイブが代わってくれたので……ラスカさんに呼ばれていたし風の神殿にお邪魔します。
「皆様のお陰で拐われた子供達を無事に救出出来ました……ありがとうございます」
「いえ、無事で本当に良かったですよ」
「幸い何かされた者もおりませんでしたし、後は残党を片付けるだけですが……そちらはエリオ様が引き受けて下さるそうです」
働き者ですねエリオ様……流石は王様の義弟。
後日甘い物を差し入れておきましょう。
「それと……先程神託がありまして、キュアさんを聖堂にお連れしたいのですが」
あー……多分セバスチャンさんが言っていたトゥール様の接触、ですね。
正直面倒事になりそうな予感しかしないのですが断ったらラスカさんにも迷惑掛けてしまいますし……仕方ありませんね。
ここは素直に従ってっておきましょう。
という訳で聖堂です……何でもあたし1人にしろ、って神託だったらしく他の神官の姿は見えませんね。
一体どんな話をするつもりなんですかトゥール様は……あたしはトゥグア様以外を崇めませんよ?
……っていつの間にか辺りが真っ白に?
あ、これは転生する時にトゥグア様にお会いした場所に似ていますね。
多分ここでは声を出せないから思考で会話するパターンでしょう。
「おー、桃花ちゃん!やっと会えたわぁ!」
誰ですかこの金髪黄眼のスレンダー美人は……って物凄く力強いハグ、苦しいんですけど!
まあ、この謎空間に居る時点で女神なのは確定してますよね。
「察するに貴女がトゥール様で……って声が出せる!」
「そりゃ今回は魂だけを呼んだ訳やないし、どうせなら直接話したかったんや」
つまりあたしの肉体ごと呼んだと……まあ考えてる事が筒抜けにならないだけマシと思いましょう。
とはいえ……
「何でその名前を知っているのかは置いておきますが……今のあたしはキュアです」
「せやったな……んじゃキュアちゃん、早速やけど」
あ、ちゃんと聞いてくれるんですね……良かった。
どこぞの地の女神も見習ってくれませんかね。
「ウチの眷属にならへん?」
「……は?」
唐突に何を言い出すのですかこの女神様は。
「いやぁ、キュアちゃんの事はウチの分体を通して見とったんやけど、イグに足りない戦闘能力があるさかい、んで死後にスカウトしよ思うたらトゥグアに抜け駆けされてもうてなぁ……」
つまり日本に居た頃からあたしを見ていたと?
「あの……トゥール様の分体って?」
「蓮田 留美子、聞き覚えあるやろ?」
あたしが通っていた空手道場の師範にして道場主ではないですか!?
「因みに名前は蓮田→はすだ→はすた→ハスター、ってな感じのアナグラムだったんやで」
その理屈だとハストゥールの方でも通用しそうですね……というか駄洒落くさいネーミング理由ですね!
それにあの神話の事もご存知なんですか!
「因みにこの世界のラスカもウチの分体や、割と似とったやろ?」
似てるというかソックリでした……分体という割にトゥール様とは全く似ていないのは気になりますが。
つまり師範とラスカさんは実力もほぼ同じ……やはり組手はお願いしましょう。
「それと、イグって誰ですか?」
「ああ、この世界じゃセバスチャンとか名乗っとったなぁ」
セバスチャンさん……本名ではないんじゃ、と思ってましたがイグって名前だったんですね。
まあ伏せていたのに理由があるのかもしれませんし、追及は止めておきましょう。
「で、悪い話やないと思うんやけど……どうや?」
それにしてもトゥール様……イタリア人が関西弁を喋っているのを見ている様な違和感がありますね。
「折角ですが、今のあたしはトゥグア様の使途……お断り致します」
「さよか……まあ、しゃあないわな」
やけにアッサリ引いてくれましたね……逆に怖いんですが?
「トゥグアに先を越された時点でこの返事は予想しとったわ……残念やけど諦めるしかあらへん、まあせめて友達にはなって欲しいんやけど」
「それぐらいでしたら……」
「ホンマか!ありがとな!」
凄い喜び様ですね!
眷属は無理でも友達ならまあ、トゥグア様も許してくれるでしょうし。
深く考えない様にしましょう……うん。
「んじゃ、こっからが本題や……アルラの企みについてはどんだけ知っとるん?」
「トゥグア様にだけは合格させない様に妨害してる、としか……」
「さよかぁ……そんだけかぁ」
実際他の理由とかは知り様がないんですよね……
接点はクティだけだし、教えてはくれませんから。
「アルラの目的はなぁ……トゥグアへの妨害、女の子しか生まれん自分の世界の存続、それと世界の融合や」
世界の融合……っていきなりスケールが大きくなりましたね。
「まずトゥグアへの妨害は完全に私怨によるもんや、あの2人が仲悪いんは知っとるやろ?」
「犬猿の仲だとは聞いています」
ついでにトゥール様とハイドラ様の仲の悪さも聞きましたよ。
「自分の世界の存続は……アルラの奴は大の男嫌いでなぁ、トゥグアと男のどっちか選べ言うたら、迷わずにトゥグアを選ぶぐらいや」
そんなに嫌いなんですか!?
「又聞きやから詳しくは知らんけど……何でも女神になる試験で行った世界では戦争があったらしくてなぁ……住んでた村が敵国の兵士に襲われて、アルラは成人する前に500人以上の男に散々マワされた挙げ句殺されたらしいんや」
そりゃ嫌いにもなりますって……むしろ邪神になってもおかしくないですよそれ。
とはいえ現状を見ると同情は出来かねますね。
「んで、最後の世界の融合やけど……多分2つ目の理由が関係しとる」
女の子しか生まれない自分の世界の存続、でしたね。
でも女神の力で何とかなるんじゃ?
「ハッキリ言うとくけど、同性間でも子供を作れる言うんは【愛】を司っとるトゥグアの世界でしか出来ん……ウチやアルラが他の女神と力を合わせたって実現は不可能や」
成程……トゥグア様だからこその所業だったのですね。
「多分トゥグアを嫌っとるんもそれが理由や……アルラにとっちゃ愛は女の子同士でしか生まれん感情、でもトゥグアにとっちゃ性別や種族をも越えて生まれる感情、やからな」
育ちや文化の違いによる衝突……なんてレベルでは言い表せない拗れっぷりですね。
「でな、もしアルラの世界が、トゥグアの世界と融合したら?」
……つまり地の女神の目的は、自分の世界をトゥグア様の世界と同じ様にする事!
その為の手段が世界の融合!?
「それ、何とか阻止出来ないのですか!」
「正直言って難しいわ……何せどういう手段なんかが解らへんし、協力を断ったから接触ものうなってもうたしなぁ」
「……そういえば、クティは幻獣使いが邪魔になると言っていましたが何か関係あるんでしょうか?」
「幻獣使いが……どういうこっちゃ?」
いや、女神に解らない物があたしに解る訳ないではありませんか。
「……何にせよ無い知恵絞ったって意味はあらへんな、この件はこっちで調べとくわ」
それは有難いのでお願いします。
あ、でも……
「トゥール様は試験はどうでもいいと言っていましたけど……トゥグア様には敵対も協力もしないのでは?」
「ウチはトゥグアじゃなくて、キュアちゃんに協力しとるんよ……だから問題あらへん」
納得しました。
「せや、最後に……ウチからキュアちゃんに【師範代】の称号を贈るわ」
師範代……って何故?
「ぶっちゃけあの道場に通ってた頃、留美子以外でまともに組手が出来る相手はおらんかったやろ?あの時のキュアちゃんはまだ中学生やったし師範代になれても指導が出来んかったやろうけど、この世界ならそんなん関係あらへんしな」
確かに……空手を使うのはあたしだけですし。
「ま、遅ばせながらの昇級って奴や」
「……ありがとうございます」
元の聖堂……戻って来られた様ですね。
「……女神様にはお会い出来ましたか?」
「ええ……何故か【師範代】という称号を頂いてしまいました」
「キュアさんもですか、流石ですね」
「……も?」
詳しく聞いたらラスカさんも同じ称号を頂いたそうで……
この称号には知力と瞬発力を底上げする効果があるらしいです。
知力が上がるのは非常に有難いですね……必然的に魔力も増えますから。
「ではそうですね……明後日にでも私と一手、交えて頂けませんか?」
「……解りました、受けて立ちましょう」
まさかラスカさんの方から挑まれるとは……
とはいえトゥール様の話通りならば、今のあたしがどこまで強くなれたのかを知るのにこれ以上はない相手……全力で戦わせて頂きます。
「はぁ……キュアちゃんにはああ言ったけど、調べるならやっぱトゥグアん所行かなあかんよなぁ」
「……何故か今、トゥールが此方に来る様な気配がしました」
「お願いだからここでだけは喧嘩しないでね?」




