似た者同士だった様です
悪徳貴族の屋敷の入口に到着したのはいいのですが…館は2階建てでかなり豪華な感じです。
「灯りはついているが妙に静かだねぇ…」
「確かに…見張りすら居ないのは変ですね」
まあ居ないならいいかと警戒しながら入ったのはいいのですが…はい、誰も居ませんね。
「ふむ…近くに気配はありませんが」
何で気配が解るんだって?
空手のお陰です。
「何か罠を仕掛けられている可能性がありますね…私の技能を使います」
無頼者って罠の解除が出来る技能でもあるんでしょうか?
「…【窃盗】」
確かスティールって敵の所持品を奪うだけの効果だった様な…っておや?床から鉄製の刺が?
更に天井からも同じ物が…
「成程…まず針山を敷いた落とし穴に落として、つり天井でトドメを刺すつもりだった様ですね」
えげつない!罠の殺意が高過ぎです!
それとミラさんは技能の使い方がおかしくないですか!
ってミラさんは何で足踏みを?
「…音の響き方から判断して、ここから3メートル先までが落とし穴の範囲と思われます」
ミラさんの多芸感が凄まじいのですが…
デストさんはもう観念した方がいいのではないでしょうか?
「解除してる暇はありませんし、いつも通りに行きましょう」
マリー様が槍で床を叩いて…あ、落とし穴の蓋が落ちました。
同時につり天井も落ちましたが…とりあえず左側に道が残ってはいますね。
「横幅はそんなに広くなかったみたいですが…他にも罠があるかもしれません、注意して進みましょう」
それにしてもいつも通りって事はいつもこんなやり方してたのでしょうか?
力業にも程がありますよ!
「あたい達…必要だったのかい?」
「どうなんでしょう?」
さて、2階に到着しましたが…流石にここは無人ではなかった様ですね。
チラッとしか見えませんでしたが背中に鬼神が宿った女性?の番人が2人待ち受けておりました。
「ここから先には進ませないよ」
「通りたければ我らを倒して…」
「ああ、どっかで見た気がしたが…あんた等は以前コカに襲い掛かった奴等だね?」
「「あ、あの時のエルフーっ!?」」
あー、どうやらあの2人が話に聞いた人達だった様ですね。
「「我等はここには居ません!どうぞお進み下さい!」」
「あの…仮にも番人がそれでいいのですか?」
「ぶっちゃけ仕事に溢れたから引き受けただけですし…」
「貰ったお金もエルフの姐さんと戦うには割に合わないので…」
貰った額が相当低いのか、高額だけど戦える程ではなかったのか…
まあこの2人の反応からして前者でしょうね。
「「あ、でもタダで通すと違約金が発生してしまうので…一発入れてから行って下さい」」
「ちゃっかりしてるねぇ…キュア、任せるよ」
「あ、はい」
とりあえずお腹に一発ずつ入れて、こっそりトゥグア様に祈る事を勧めつつ先に進んだのはいいのですが…
「ここから先には…うっ、急にお腹が痛くなった」
「よくぞここまで来…私は何も見ていない」
「まさかここに辿り着くとは…ナンダ、キノセイダッタノカナ?」
「領主に会いたければこの私を倒し…うわーやられたー」
こんな感じでアッサリ道を譲って下さっているのですが…まあ一発入れてから進んでいますけど。
まさかここで番人してる人達って…
「察しの通り、全員コカに襲い掛かった奴等だねぇ」
未だにトラウマが残る程痛めつけたんですね?
アプさんだけは絶対に怒らせない様にしなければ!
「領主様は私の背後にある部屋におられるが貴様達が会う事はない…何故ならばここで」
「もしかしたらこの人もですか?」
「ああ、間違いなく見覚えあるねぇ」
「お許し下さい!私は最近娘が生まれたばかりなんです!どうかお見逃し下さい!」
ムキムキマッチョの土下座って初めて見ましたよ…
「へぇ、あの後結婚したのかい?まさか無理矢理じゃないだろうね?」
「その…姐さんに叩きのめされた後に手当てをしてくれた子に告白されまして…気が付いたらそのまま」
まあ女性しかいない村ですし、同性愛者なアマゾネスが居ても不思議ではありませんよね…
しかも怪我で弱っている所に優しくされたんじゃ堕ちるのも無理はありません。
「そいつは目出度いねぇ…なら祝い金をやろうじゃないか」
「ああ…アプさんは違約金なら代わりに払ってやるから、他の番人を全員連れてさっさと帰れ、と言っています」
まあ違約金なんざ払うつもりはないのでしょうけれど。
どの道領主は私財を全て没収されるでしょうから。
「ありがとうございます!さっさと帰らせて頂きます!」
うわ…あっという間に消えてしまいましたね。
「まさかここまでアッサリ来れるとは思いませんでした…」
「ですが、無駄な体力を使わずに済んだのは幸運でしたね」
マッチョウーマン達がここまで怯えるアプさんの全力…
見たい様な知らない方がいい様な…
あ、でもあたしはコカちゃんへの返事次第で見てしまう可能性が?
ヤバいです、想像しただけで身体中に震えが…
うん、返事は慎重に言葉を選びましょう。
で、いよいよボスの登場です。
やたらと着飾ったオバサンが鞄にハウトと宝石、水晶なんかを必死に詰め込んでいました。
「グヌット伯爵、貴女には脱税と奴隷商への支援、更に不当な土地の押収の疑いが掛けられていましたが…どうやら事実の様ですね」
あのオバサンは伯爵だったんですね…ダニチの豚もそうでしたが何で貴族は似合わない格好をしたがるんでしょうか?
「大人しく罪を認めるなら減刑致しますが?」
「フン、折角稼いだ金を横取りされて堪るもんか!」
「へぇ、やる気かい?」
「ホラお前達、出番だよ!」
おや、緑の水晶を大量に床に叩き付けて…半透明なモンスターがわらわらと!
「死霊術…ですか」
ネクロマンシーって確かアンデットを使役する魔法…でしたっけ。
という事はあのオバサンは死霊術師なんですね。
ん?アンデットといえばアプさんは確か…
「れ、レイスが…オバケが…あんなに…」
しまった!アプさんはゴーストやレイスが大の苦手だったんでした!
「レイス…レイスが…沢山…」
「しまった!マリー様は実体を持たない存在が物凄く苦手なのです!」
マリー様、貴方もですか!
って言ってる場合じゃないですね…オバサンが窓から飛んで逃げてしまいました!
「ミラさんはあのオバサンを、レイスはあたしが何とかします!」
「判りました、お気をつけて!」
さて、まさかカチコミに来てアンデットと戦う事になるとは思いませんでしたが…
まあミラさんなら大丈夫でしょうし、2人を守りながら殲滅しましょう。
「念のために赤も用意しておいて正解でしたね…【聖域、Ver赤】!」
おお、赤は初めて使いましたがレイスが次々と消えてしまう程の威力ではないですか!
って、黄だと半径1メートル程度でしたが…赤はこの館全てを包む程広範囲に広がってますね!
範囲が広かったせいか1分程で消えてしまいましたが…成程、アンデットには有効な攻撃でした。
アンデットは今後も戦う事があるでしょうし赤は沢山持ち歩く様にしましょう。
「お、終わった…のかい?」
「終わりましたよ、急いでミラさんを追いましょう」
あ、その前にレイスが落とした緑は回収しておきませんとね。
これで家のダイズ豆は豊作間違いなしです。
まあ拾ってる間にミラさんがオバサンを引っ捕らえて戻って来ましたけど…
レイスも居なくなって調子を取り戻したマリー様による裁きの時間が始まりました。
「さて、この場合は私の采配で裁く事を許されていますが…何か言う事はありますか?」
「言っておくが、変な真似したら両腕へし折るよ」
「ご心配には及びません、死霊術に欠かせない緑は全て押収済です」
流石はミラさん、抜け目ないですね。
「…」
「黙りですか…黙秘権を与えた覚えはないのですが」
「では強制的に喋らせましょう…【自白】!」
自白は一時的に相手の意識の一部を麻痺させる事で強制的に喋らせる魔法で、主に犯罪の疑いがある人物に取り調べをする際に使われます。
因みに自白剤みたいに副作用等はありませんよ。
で、まあベラベラと自分勝手な詭弁を垂れ流しておりましたが…
要約すると
・貴族は選ばれた存在であり
・民は貴族の為に存在していて
・つまり民の物は貴族の物であるからして
・自分のした事は全て正しい事である
だそうです。
こんな我儘な貴族をリアルに見れる日が来るとは思いませんでしたよ。
ちょっと殴っていいですか?
「辞めときな、こんなんでも一応は人権があるからねぇ…問題になっちまうよ」
「仕方ありませんね…後でモンスターでも殴っておきます」
「ではマリー様、判決を」
「ではグヌット伯爵の私財は全て没収したのちこの村へ配布、その上で爵位を剥奪し放逐処分としましょう」
別に死刑でもいい気がしますが…まあ今まで贅沢三昧だったんでしょうし無一文で放り出すなら充分でしょう。
死霊術師なら簡単に死にはしないでしょうし、ゆっくりと貧乏を味わって下さい。
何はともあれ、これでグヌットのカチコミは終わりました。
ロウ達は上手く行ったのか心配ですが…まあデストさんや王様達も居ますし大丈夫でしょう。
「では先程の酒場で一泊したらボリアへ帰りましょう」
もう夜中ですからね…今からじゃ危険ですし賛成です。
クティが不安ですが地の女神の命令があるから何かされる事はない…と信じたいですね。
「結局あたいは何もしてないんじゃ…?」
「いえ、アプさんのお陰で無駄な戦いは避けられましたから…」




