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後は酢が欲しい

2人きりのデートが出来ると思った矢先に出鼻を挫かれた…ですが王様の話を無視する訳にもいきませんし耐えましょう。


でも一体何の話なんでしょうか?


「余りに売れ過ぎたせいで赤字になったから補填しろとか?」


「可能性はありますが資金は悪徳貴族の私財から出している筈…それで赤字ならあたし達に出せる金額とは思えませんよ」


因みにあたしの財布には干物の売り上げの一部である800ハウトしか入っていません。


…いや、自分で作っておいて何ですが売れ過ぎじゃないですかこれ?


オークの人達も中々良い腕をしている様で何よりですけども。


というか干物の売り上げだけで普通に生活出来ちゃいますね。


まあロウの所持金合わせたってポクー肉100グラムしか買えないんですけどね。


「ま、王様が来なきゃ判らないが…少なくとも金絡みじゃないだろうよ」


そうである事を祈ります。




「まずはご苦労であった…これは報酬だ」


例の如く羊皮紙で渡されましたが…


内容は依頼料5000ハウトと、今回の件でガリクとジンジャーを定期的に入荷出来る様になったから追加で2000ハウト


更にあたしが書いて渡したレシピを本にして売る事になったから印税で1500ハウトを渡すといった事が書かれてました。


つまり合計8500ハウトも貰える…って気前良すぎませんかね!?


「ついでにもう1つ依頼をしたいのだが」


今度は一体何を…しかしこんな大金を貰ってしまった手前断る事は出来ませんね。


「実はある貴族達の悪事の証拠を入手したのだが私達だけでは手が足りなくてね…君達にも手伝って貰いたいのだ」


また悪徳貴族にカチコミかけるんですか…しかしこれはトゥグア様の信者を増やすチャンスですね。


「場所はルルイとグヌットの2ヶ所…ルルイは私とヴァレン、グヌットはマリーとミラが向かう事になる」


「あの…ミラって誰なんですか?」


「ミラ様はヴァレン様の娘で、現在マリー様の専属護衛をしております」


ヴァレンさんの娘…とても強いという事は判りました。


「となると…ロウとデスト、コカは王様に同行する事になるねぇ」


グヌットはアマゾネスの村ですからね…ロウとデストさんを行かせる訳にはいきません。


コカちゃんもグヌットに行くのを嫌がってましたし…必然的にマリー様に同行するのはあたしとアプさんの2人になりますか。


「流石に死ぬまで搾られるのは嫌だからな…」


「キュアと離れるのは不安しかないんだけど…流石に命は惜しい」


「うう…グヌットでさえなければ…ボクも…キュアちゃんに付いて行ったのに」


うん、あたしもロウと離れるのは嫌ですがこればかりは仕方ありません。


アプさんもコカちゃんと離れるのは不安な様ですが。


「因みに報酬として3人を無料で転職出来る様に取り計らおうと思っているが」


「やらせて頂きます」


「全力で勤めさせて頂きます」


「が…頑張ります」


合計6万ハウトが無料になるなんて、やるしかないじゃないですか。


「って6万ハウトははした金じゃないでしょうに…財政は大丈夫なんですか?」


「今回も相手の私財は全没収する事になる…これまでの成果から推測して20人転職させても釣りが出るだろう」


どんだけ貯め込んでるんですか!?


しかしこれで遠慮はいりませんね。






そんなこんなで1週間後にあたしとアプさんはグヌット、ロウとコカちゃんとデストさんはヤマンに向かう事になりました。


「ナクアも行きたかったなぁ…」


「駄目よ、キュアさん達が居ない間にこの家の管理をするのが私達の仕事でしょう?」


終わったら何かお土産を買わないと恨まれそうですね。


ナクアちゃんの好きそうな物を見繕っておきましょう。


「そういえば聞きそびれてしまいましたがルルイってどんな所なんですか?」


「ルルイはルイエと同じ海辺の村だよ…確かハイドラって水の神を崇める宗教の総本山があった筈だねぇ」


水の神ですか…海辺という事はお魚を食べるチャンスですがあたしが行ったら宗教戦争が起こりかねませんしなるべく近づかない様にしましょう。


「ルルイでは…魚を食べないみたいで…代わりに海草料理が…有名なの」


「ロウ、もし昆布があったら何としても入手して下さい」


「味噌汁の出汁にするんだな、判るぞ」


「そういやキュアが居れば味噌汁が作れるんだな…資金は俺が出してやる」


流石デストさん、話が判りますね!


「そういやデストはキュアやロウと同郷だとか言ってたねぇ…何で今まで黙ってたんだい?」


「いやいや、出会い頭にいきなり違う世界から来ましたとか言って信じてくれます?」


「間違いなく頭のおかしい奴だと思うだろうねぇ」


「そういう事です」


あたし達の場合サーグァ様が居たのですんなり信じて貰えましたが…そう考えるとデストさんってかなり苦労してたんですね。






さて、1週間後には仕事ですからね…骨休めの内に味噌を作りましょう。


用意するのはお馴染みのダイズ豆と塩、それとデストさんが仕込んでいたという米麹です。


「いつの間に麹を仕込んでたんだ兄貴…」


「いつか定住したら味噌を作ろうと思って備えていた…まさか今日味噌が作れるとは思ってなかったが」


これからは麹を使う時はデストさんに頼りましょう。


ダイズ豆は予め水に浸してあるのですぐに始めますよ。


弱火で根気よく、摘まんだだけで潰れるぐらい柔らかくなるまで煮込みます。


その間に米麹をほぐして塩を混ぜておきましょう。


ダイズ豆が煮えたらザルにあけて、茹で汁も後で使うので取っておきます。


煮えたダイズ豆は熱い内に擂り粉木で形がなくなるまで潰して、塩を混ぜた米麹と茹で汁を混ぜて耳たぶ程の固さに調節して…と。


これを中の空気を抜きながら玉にして、樽に詰めて潰してを繰り返して…


八分目まで詰めたらサラシを被せて、上に塩を敷いて蓋をして、と。


本来ならここから風通しのいい所で3ヶ月以上熟成させる必要がありますがあたしには【短縮(ジャンプ)】という魔法がありますので、ベランダに移動して魔力が尽きるまで掛け続けてしまいましょう。


「…自分でやっておいて何ですがズルをしている様ですね」


「大丈夫だ、問題ない」


「安心しろ…その作り方、俺とロウは肯定するぜ」


よし、そろそろ魔力が切れそうなのでちょっと味見してみましょう。


匂いは間違いなく味噌なのですが肝心の味は…


「ああ、間違いなく味噌だ…」


「ああ、懐かしい味だ…」


うん、上手く行きました。


「ようし、夕飯は俺がこの味噌を使って味噌カツを作ってやるぞ」


「ってこの世界は砂糖も蜂蜜もポクー以上の高級品ですが味噌ダレの甘味はどうやって付けるんですか?」


「安心しろ、俺もこの世界で遊んでただけじゃないんだぜ?」


その言葉を信じてますからね?




で、夕飯の時間…デストさんの提案でまず王様達に味噌そのものを味わって貰ったのですが


「これが味噌とやらか…変わった色だが味は素晴らしい」


「これはまた酒に合いそうですな」


サーグァ様を含めた夫人方は醤油の方がいいと言ってましたが王様とヴァレンさんには好評でした。


こちらもコカちゃんやナクアちゃんには不評でしたがアプさんとアトラさんは気に入った様で…


もしかしてあたしの味覚って酒飲みのそれと同じなんですか?


「味噌カツ出来たぞー」


おお…トンカツにたっぷりかけられた味噌ダレに山盛りのグリン…ってキャベツじゃないんですね?


「個人的にも欲しかったんだが肝心のキャベツがなかったんだから仕方ない…」


やはりないのですか…


「この甘くて辛い味噌ダレがポクーに良く合いますねぇ…」


サーグァ様ェ…


「これは…この味はどうやって作ったのかね?」


「これはモロシの茹で汁とカプサイを味噌に混ぜて作ったんですよ」


カプサイは唐辛子でしょうけどモロシってトウモロコシの事でしょうか?


確か最初に寄った村でお婆さんが作ってましたね…やたらと甘かったのは覚えています。


甘味は砂糖か蜂蜜という固定概念がありましたが…考えてみればトウモロコシだって甘いんですよね。


それにしてもまさか茹で汁まで甘いとは…今度あたしも使ってみましょう。


「モロシの茹で汁は独特の匂いがあるからデザートには向かないぞ?」


見透かされてた!?


ならばトウモロコシ自体を使えば済む話ですね。


「ってトウモロコシで何を作る気だ?」


「ナクアちゃんが喜ぶ物ですよ」





「ってそういや俺達結局行商市を回れなかったな…」


「あ…」


あたしのバカぁー!?

「最近何かを忘れている気がする…」←ロウ


「気のせいですね」←キュア

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