まさかの同郷者でした
はぁ…昨日は酷い目に合いました。
でもやる事はやらないとまたアプさんの説教を受けてしまいますからね。
まあ、例の試作品は王様達には好評だったし、当日は作らない豚肉…じゃなくてポクー料理のレシピも喜んでいたので良しとしましょう。
そんなこんなでいよいよ明後日が本番、ロウと会場の下見に来たのですが…
「…想像以上の規模のデカさに驚いたわ」
「ですね…まさか町1つを会場にしてしまうとは」
行商人ってこんなに沢山居たんですね…ってあそこに居るのはもしかして?
「デストさんじゃないですか」
「ん?おお、姐さん所の…確かロウとキュアだったか」
うん、この反応からしてちゃんとあたしの恥ずかしい所だけ忘れてくれたみたいですね。
そういえばあの時コカちゃんの記憶を消して貰うのを忘れていましたが…まあ後の祭りって奴ですね。
「デストさんも行商市に参加するのか?」
「いや、俺は場所取りで溢れちまったからな…前日まで屋台出して当日は食い歩きする予定だ」
町1つ使いながら屋台を出せない行商人が居たとは…恐ろしい人数ですね。
それにしてもデストさんも中々の食いしん坊の様で…後であたし達の屋台の事を教えてあげましょう。
「そうだ、折角だしちょいと商品見ていくか?出来立ての短剣や矢があるぜ」
おお、デストさんは矢も作っていたのですね。
「お前達も姐さんの世話になってるみたいだし、買うなら割引してやるぜ」
ありがたいですね、お礼に屋台に来たならこちらも割引してあげましょう。
「矢も結構種類があるんだな…1本で100ハウトはちょっと高いが」
因みにアプさんの話によると普通の木製の矢は1本8~10ハウト、50本1束の矢筒で390~480ハウトが相場です。
金属の矢だと倍額になるそうですが、薄利多売過ぎて誰も作りたがらないとか何とか…
「その辺りの矢は俺の創作だ、貫通力はないが先端に水晶の破片を使ってるから弓矢でも属性攻撃が出来るぞ」
水晶の破片という事は4つの属性ですか…中々便利ですね。
コカちゃんの魔力が切れた時などの備えにいいかもしれません。
「まあ、魔術師が居れば事足りるからって屋台じゃ余り売れないんだけどな…宮仕えの弓兵とか物の判る猟師にならそこそこ売れるんだが」
ああ、魔術師が居るならそっちを頼りますよね…宮仕えなら雇い主がお金出すでしょうし。
猟師は…多分万が一の備えって所ですかね。
「それにこれは完全な使い捨てだからな…どうしたってコストが掛かっちまう」
使い捨てで100ハウトは痛い出費ですが普通の矢だって再利用する訳ではありませんからね…ここは必要経費と思いましょう。
「では各属性の矢を5本ずつ、それと普通の矢筒を5束買います」
「毎度あり!姐さんのよしみで…そうだな、合計2000ハウトでいいぞ」
安い!というかそれだと矢筒が無料って事になりますけど大丈夫なんですか?
「ここだけの話、その矢筒はヤマンで質屋に挑まれたポーカーの戦利品でな…元手はタダなんだよ」
小声で白状してますが貴方はギャンブラーなんですか?
「否定はしない…あ、でも姐さんとお嬢には内緒な?もう500ハウト引いてやるから」
その秘密は墓の下まで持って行くと約束しましょう!
それと後日ラーメンを1杯無料で進呈します(確定)。
で、その後は暇だったしデストさんの屋台を手伝って、お昼を食べながら色んな話を聞かせて貰ったのですが…
「転職ねぇ…確かに1人2万ハウトは痛い出費だよなぁ」
にまんはうと…だと!
これまでの買い物から計算して1ハウト=50円ぐらいと推測していましたが…つまり日本円なら1人で100万円も掛かるんですか!?
「デストさんは転職したのか?」
「いや、流石に100万え…じゃねぇ、2万ハウトなんて払えねぇからな…最初から転職の必要がない職業に着いたんだよ」
まんえ…え?
「…もしかしてデストさん、貴方は転生者なんですか?」
「…まさかお前達もか?」
話を聞いたらデストさんは日本で母親と2人で暮らしていたが、14歳の誕生日に押し込み強盗に襲われ2人揃って死んでしまったそうで…
それを哀れんだ地の下神ツァトゥが幼馴染のトゥグア様の作ったこの世界に転生させてくれたと…(因みにこの世界ではツァトゥはノームと呼ばれているらしいです)
それが7年前の出来事で、転生後に途方に暮れていた所をアプさんに拾われ3年前まで指導を受けていたそうで(つまり今は21歳ですか)。
何て悲しい人生なんですかデストさん。
「俺の日本での人生も悲惨だと思ったが…お前達は…それ以上じゃねぇかよぉ…グスッ」
最初は芯の通った優男ってイメージだったのに…意外と涙脆かったんですね。
「これも何かの縁だ、俺に出来る事なら協力してやるぜ」
これは…屋台の経験が豊富で、元日本人だからあたし達の世界の食べ物にも理解があって、当日は場所が取れなかったから屋台を出さない行商人という事は?
「デストさん…早速で申し訳ありませんがお願いがあります」
「おう、言ってみろ」
「…という訳で当日はデストさんもあたし達側の屋台を手伝ってくれる事になりましたので、暫くここに泊めようかと」
「何故かそうなっちまいました…」
「まあ、場所取りに溢れちまったんなら仕方ないねぇ…実際あたい達側よりキュア達側のが不安だったし」
「デストさん…もしも…キュアちゃんに…手をだしたら」
「安心してくれお嬢、俺は年上の女性にしか興味がねぇ」
デストさんの好みのタイプは年上の女性でしたか…もしかしてアプさんに逆らえないのもそのせいなんですかね?
まあ、あたしの周囲の関係がややこしくならないなら相手次第で応援しましょう。
それとコカちゃんは目のハイライトを戻して下さい、怖いから。
そんなこんなで夕飯です。
今日は余ったポクー肉の切れ端と沢山の野菜で作った豚汁もどきにアトラさんお気に入りのタマゴサラダ、そしてデストさんが作った焼餃子です。
豚汁もどきなのは味噌がないから醤油と魚醤、黄粉で味付けしたからです。
「これは以前デストがよく作っていたギョウザかい?前より美味くなってるじゃないか」
「うわぁ…懐かしいなぁ…ボク、これ好き」
「いやぁ、世話になるなら何かしらやらないと」
うーん、皮がパリッとして中身がジューシーで…中身はレモン果汁と塩、醤油で味付けしてあるからサッパリと食べられて…これお店で売れるんじゃないですかね?
というかデストさんも料理出来たんですね…ロウにも見習って欲しいのですが。
「お姉ちゃん、ご飯食べないの?食べないならナクアがタマゴを食べちゃうよ?」
おや?アトラさんがご飯はおろか大好物のマヨネーズを使っているタマゴサラダにすら手を付けずにジーッとデストさんを見て…
ああ、そういう事ですか。
確かアトラさんは16でデストさんは年上好きらしい21だから…
うん、頑張って下さいとしか言えませんね。
で、夕飯済ませてお風呂も入って寝ようと思っていたらデストさんに呼ばれてロウの部屋に来たのですが…
「まさかキュアの嬢ちゃんが醤油や魚醤を作ってたとは思わなかった…だがお陰で長年の鬱憤が大分晴れたぜ」
「故郷に未練はなくとも故郷の味は恋しかったんです…」
やっぱり醤油は日本人には欠かせないですね…うん。
「なあ…もしかしたら作り方を教えれば味噌も作れたりするか?」
「それはまあ…醤油を作った時の要領で行けると思いますが」
正直味噌の作り方はうろ覚えでしたので教えてくれるならありがたいです。
「つーかデストさん、味噌の作り方知ってんのか?」
「侮るなよ、俺は名古屋生まれの名古屋育ち、味噌の作り方なら言葉よりも早くに覚えたさ」
名古屋は全く関係ないんじゃ…いや、味噌味の名物が多かった様な気はしますけど。
「デストさんは名古屋生まれだったのか…」
「まあ作るのは賛成です、いい加減美味しい味噌汁を啜りたいですから…でも味噌を作ったとして何をするんですか?」
「ああ、俺にとっては醤油と同じ…いやそれ以上と言ってもいい故郷の味、味噌カツが食いたいんだ!」
味噌カツですか…確かに今なら作れちゃいますね。
ただ味噌ダレの甘味を出すには砂糖と味醂が必要だった筈ですけど、どうやって出すつもりなんでしょうかね?
もう出張なんてしたくない…(泣




