食べたらお腹が痛くなるそうです
アプさんから説教を受けた翌日…
コカちゃんとアプさんは屋台を出しに行って、サーグァ様は食べ歩きに向かってしまい…あたしとロウは久しぶりに2人きりとなりました。
「何故か2人きりってのは久しぶりだよな…」
「そうですね…最近は必ずといっていい程コカちゃんが側に居ましたし」
因みにロウはあたしの膝枕を堪能しています。
前世以来の至福の時間です、異論は認めません。
「まあ…今の境遇も何だかんだで楽しいんだけどな」
「それは否定しませんよ…コカちゃんには自重して欲しいのですけれど」
「キュア…その発言がブーメランだって事に気付いてるか?」
「はてなんのことやら」
あたしはちゃんと自重していますとも。
ちょっとだけ自制が効かないだけです。
「しっかし…少ししたら日本が恋しくなるんじゃないかと思っていたんだがそんな事はなかったな」
「確かに…醤油と味噌は欲しいですがそれぐらいしかないですね」
お魚もお米もあるし和食が食べたいと思う事すらないですからね…
逆に言えばそれ以外の未練がなかった、という事なのでしょう。
「ってああ、醤油で思い出しました…釣りをした時にリリースした小魚を塩漬けにしておけば魚醤が作れたのに!」
「おいぃ!何でこのタイミングで思い出すんだよ!」
因みに魚醤とは魚を発酵させて作る醤油の様な調味料で、独特の匂いはありますが美味しいのです。
当然魚との相性は抜群ですし、これを使った煮物が非常に美味です。
まあ涼しい所に保存しなければいけないという欠点はありますが、トゥグア様から貰った鞄があればそれは解決しますね。
何故か中に入れた食べ物が冷えて出てきますからね…きっと長持ちする様にと、トゥグア様のご厚意なのでしょう。
本当にありがとうございます。
「…そういえば温泉の近くには川がありましたよね?」
「ああ、そして釣竿も鞄の中にある」
「塩と樽はどうしますか?」
「塩は2人で旅してた時のが余ってるし、樽も500ハウトで売っている…いざとなれば手持ちの水晶をいくつか売れば何とかなる」
「ならば…塩漬りますか?」
「ああ、塩漬るしかないだろ」
という訳で至福の時間は終わり、急遽川釣りの時間です。
締めのキスは勿論しました。
宿の女将さんに聞いたら「川の魚は茶色いのには毒があるけど、それ以外はどれも美味しいよ」との事でした。
情報のお礼に釣りたての魚と魚醤のレシピをお裾分けさせて頂きます。
「それにしても…ピンクの鮭に赤い鱒、白い鰻に茶色のブラックバスと…何でこう不味そうな色してるんだ?」
「海釣りの時にも思いましたけどね…まあ海の時と同様に味は問題ないでしょう」
もっともこの世界のブラックバスには毒があるそうですから手頃なモンスターにでも食べさせてしまいましょう。
日本での知識だと外来種のブラックバスは在来種を根こそぎ食べてしまうそうですし…
ならばリリースせずに有効活用します。
「えっと…鮭と鰻は水桶、鱒は捌いてから塩樽、ブラックバスは止めを刺してから袋の中、と」
鮭も捌けなくはないのですが卵を持っていた場合の調理に困りますからね…醤油がありませんし。
あたしはイクラの味噌漬けが好きですけど…味噌もないので食べ様がありません。
鰻は捌いた事はおろか生きているのを見るのも初めてなので宿の料理人に渡した方がいいでしょう。
それに捌ける様になるまで5年は掛かるという難しさらしいですし。
よって魚醤は鱒だけ使う事にして…うん、大漁ですね。
「…よし、塩樽2つが満タンになりましたね」
「ふぅ…鮭と鰻も結構釣れたな」
「ブラックバスはそんなに居ませんでしたね…まあ毒持ちがウヨウヨ居ても困りますけど」
「そういや魚醤って塩漬けして半年から1年経たないと使えないんじゃないのか?」
「安心して下さい、昨夜サーグァ様から新しい魔法を教わりましたので…【短縮】!」
この魔法は主に大工が加工した木材を乾燥させるのに使う魔法で、対象となった物の時間を早める効果があるのです。
他にもパン屋が捏ねた生地が膨らむまでの時間を省略したりすると聞いたので、もしかしたらと思い教えて貰ったのですが…
まあ駄目で元々という奴です、失敗なら待てばいいだけです。
「おお…この透明感のある黒い液体、発酵した魚の香り、もしかしたら」
ええ、これは味見するしかありませんね。
指先にちょこっと付けてそれを嘗めて…
「ああ、このグルタミン酸の旨味を凝縮した味と独特の匂い…間違いなく魚醤です!」
「…ぃよっしゃー!」
「やりましたー!」
醤油ではないにしろそれに近い調味料が作れたので余りの嬉しさにその場で抱き合いつつ踊ってしまいました…
そのまま落ち着いてから長めのキスしてまた踊って…サーグァ様が迎えに来るまで延々とループしてましたよ、だって嬉しかったのですから。
でも何時かは豆から作る醤油や味噌も作りたいです。
で、例の如くサーグァ様が魚醤を使った料理を所望されてしまったので宿の女将さんと料理人も巻き込んで試食の時間となりました。
誰かレシピ教えますから代わりに作ってくれませんかね…本当に。
「これが魚醤って調味料なのかい?」
「何ていうか…凄い匂い…だね」
まあ発酵してますからね…慣れないとそう感じるでしょう。
「この味を知るならシンプルな方がいいでしょう…ジャガイモ、ビフーの薄切り、タマネギで煮物にします」
はい、皆が大好きな肉じゃがにしましょう。
白瀧やインゲンを入れたくても存在すらしていませんし、本当なら豚肉…じゃない、ポクーを使いたいのですが高過ぎますからね。
まあ何の肉を使うかは地方によって違いますし…個人的に人参も入れたかったのですがコカちゃんが全力で嫌がってましたし。
うん、次に料理する時は人参を沢山使いましょう。
それと肉じゃがが嫌いな人は居たら出て来なさい、無理矢理にでも食べさせます。
「おお…これはビフーの旨味を残しつつ深い味わい、この深みが魚醤とやらの味なのか」
「あぁ…今まで煮物は塩辛いだけかと思っていましたが、これは美味しいですねぇ」
まあ塩しかないんじゃ深みなんて出ませんからね…仮に出せた所で今度は具材の味が抜け切ってしまうでしょうし。
ダシを取るにしてもこれまで見た限りじゃ高級料理を除けば具材頼みでしたからね…高級な料理なんて食べた事はないのですが。
「頼む!この魚醤とやらの作り方を教えて下さい!」
おぉい!料理人の人、何で唐突に土下座するんですか!
別に秘密がある訳でもないし、幾らでも教えて差し上げますよ!
結局次の日は料理人の人に魚醤の作り方を教えつつ宿に差し上げる分を作るのに使ってしまい、旅立ちは更に次の日となりました…
まあその分温泉を堪能出来たのでよしとしましょう。
「そういえば今回は久しぶりにキスしましたね」
「そりゃ中々2人きりになれなかったからなぁ…」
「いいなぁ…ボクもキュアちゃんと…キス、したいなぁ」
うん、近くにコカちゃんが居たら無理ですね。
主にロウの命とあたしの貞操が危ないので。
ブラックバスは泥臭い上に脂っこい…うん、おいしくなかった




