肉は微妙でもミルクは美味です
今回は翡翠視点
「御姉様、もう蛇は居ませんよ?今の御姉様も可愛いんですが何時もの凛々しい御姉様に戻って下さいね?」
「ホントに?ホントにもう居ない?」
「ああ……御姉様が可愛過ぎて鼻から樹液が!」
「へび、もういないよ!」
「キュー!」
……ふぅ、まさかあんなにおっきいヘビが居たなんて。
私ってヘビだけはどうしても苦手なんだよね。
観賞魚だった頃に食べられかけた恐怖が未だに忘れられない。
後リーア、私の服に樹液を垂らすの止めて。
「アルジー!ショウキニモドッタンナラ、シジヲダシテクレヨ!」
おっといけない、ピーニャが1羽で足止めしてくれてたんだね。
後でお高いお肉を買って……って、ご褒美はキュアちゃんと合流してからでいっか。
私は料理が出来ないし、ライコも荷車の見張りに残して来ちゃったからね。
「メェーッ!」
さてさて、お嬢様の造った幻獣もどきはどれぐらいの強さか……確かめてみましょうか。
ナクアちゃんは及第点だったけど、単体では戦闘に向いてなかったしね。
「よし……クル、周囲に【結界】!」
「キュー!」
うん、これで森に被害は出ないでしょ……多分。
「ロシンは【炎縛】!ピーニャは【風陣】!」
「くぉーん!」
「グルッヒャー!」
これぞナクアちゃんを見てて思い付いた、ロシンとピーニャの合体技能……炎の竜巻!
ウチの子達は我が強いから融合なんて出来ないけど、チームワークならバッチリ!
ピーニャとロシンはナクアちゃんと融合してたけど、それはそれ。
まあこれは普通に使ったら辺りを火の海にしちゃうだろうけど、クルの障壁があれば問題ないし、場所が森ならリーアに丸投げすれば何とかなるでしょ。
「……メェーッ!」
ん?
あの幻獣もどき、一瞬大きくなったと思ったら……子供を生んでる!?
「メェーッ!?」
しかも子供が炎の竜巻を食べてる!
え……どういう事なの?
って子供が次々と此方に向かって来てるし!
「リーア、【拘束】!」
「は、はい!」
これで良……リーアの弦が食べられちゃってる!
何なの……炎の竜巻にリーアの弦まで食べるって、悪食なんて物じゃないよ?
……少し調べる必要があるかな?
「クルとロシンは私に着いて来て……ピーニャ、リーア、ちょっとだけあの子ヤギを足止めしてて!」
「マカセロ!」
「わ、解りました!」
よし、急いで回り込んで……
「クル、10秒でいいから親(?)を障壁に閉じ込めて!」
「キュー!」
さて、本来なら契約してない幻獣にサーチを使うのは反則なんだけど……今回はそうも言ってられないか。
何々……ニグラス、雌、3歳、ってこの辺はどうでもいい。
技能は【高速出産】と【暴食】の2つ……それに魔力耐性まであるみたいだね。
暴食……確か金属以外なら何でも食べられるっていうスライムの生態みたいな技能だったっけ。
炎の竜巻やリーアの弦を食べたのはこの技能があったからだね。
でも何より厄介なのは高速出産……1度に最大で千匹まで産めて、しかも1匹でも残ってれば死骸を食べて急成長するって酷すぎる!
「……メェーッ!」
しまった、障壁が!
「クル、【炎幕】!」
「くぉーん!」
今の内に合流して……どうやって戦えばいいのこれ?
魔力耐性があるから魔法も効かないとなればウチのメンバーで対処が出来るのは盾を使うアプさんと、鋼属性を身に付けたキュアちゃんぐらいじゃない?
さてはお嬢様、このヤギはアプさんにぶつけるつもりだったね?
そして私にはあのヘビを……やっぱり後で折檻しなきゃ。
あのヘビは私にぶつけるつもりだったとすれば今頃アプさんも苦戦してるかもしれないし、早めに倒さなきゃなんだけど……
生憎私は武器を持ってないし、私と契約した皆も金属は使わないからなぁ。
ライコだけは鍋や包丁を使える様になったけど、あれは武器じゃないし。
そもそもライコも荷車の見張りに残しちゃったしね。
……なら、ここは製薬師らしく行きますか。
「ピーニャとロシンは引き続き足止め、クルは皆を援護して!それとリーアは今から私が言う物を即座に生やして!」
「え、御姉様?生やしてって種は?」
「気合いで何とかして!」
「無茶振りが酷すぎます!でもそんな御姉様がステキ!?」
失礼な……気合いがあれば観賞魚だって人魚になれるんだよ?
それに比べたら無から薬草を生やすぐらい無茶なんかじゃないでしょ。
「はい御姉様、芽が出たジャガイモ、スイセン、アセビが生えました!」
「そしたら私の荷物から緑の瓶と赤紫の錠剤、それと小麦粉にリーアの樹液を出して!」
「あの……流石に私の樹液は興奮しないと出ないんですけど?」
「ああもう!胸なら触っていいから急いで!」
「喜んで!?」
よし、ジャガイモの芽を他の薬草に錠剤と一緒に乳鉢で混ぜて、同量の樹液を混ぜて、小麦粉と一緒に緑の瓶に摘めて蓋をして……と。
「【精製、気化】……これで良し!ってリーアはいつまで触ってるの!」
「ああ、待ってもう少し……」
「今はまだ戦闘中だから!」
全くもう……リーアはこれがなければ可愛い子なのに。
まあ仕方ないか……リーアと契約した時はほぼ口説く様な形になってたし。
製薬師になったばかりなのもあって、ドリアードがどうしても欲しかったんだよねぇ……今思えばもう少しやり様があった気がするけど。
「皆、戻って!」
「グルッヒャー!」
「つかれたー!」
「キュー!」
よしよし、皆疲れてるけど怪我はしてないね。
悪いけどもうちょっとだけ頑張って、特にピーニャ。
「ピーニャ、【風弾】!」
「トリヅカイガアライゾアルジ!ウツケドヨ!」
風弾で緑の瓶を打ち出して、親ヤギの目の前まで行った……よし!
「必殺、【薬爆】!」
薬爆、簡単に言えば薬を爆弾代わりに使う技能。
主に回復薬を前戦の仲間に向かって投げて傷を治すのに使うけど……今回は毒薬を使っての攻撃。
中身は予め気体にして、小麦粉も混ぜたから目で見える様になってるよ。
「クル、あの白い粉がこっちに来ない様にして!」
「キュー!」
「ピーニャ、風で白い粉を親ヤギに向け続けて!」
「コレデオレノマリョクハホボ0ダァ!」
ホントごめん……キュアちゃんと合流したら美味しいクックー肉をあげるから頑張って。
「メ……メェー……ッ!」
おっと、子ヤギが次々と倒れて痙攣してるね。
親ヤギも大分弱って来たみたいだし、頃合いかな?
赤紫の錠剤を混ぜたから水晶の位置に痣が出てるし……今ならやれそうだね。
「リーア、【土槍】!」
「はい!」
うん、何だかんだでリーアは優秀だね……ちゃんと痣を貫いて水晶を抜き取ってくれたよ。
本当にこの性格さえなければなぁ……
「……ふぅ、これで皆回復出来たかな?」
「ロシン、げんきになった!」
「グルッヒャー!」
「キュー!」
良かった、手持ちの薬が足りてくれて。
流石に今から調合するとリーアが魔力切れで瀕死になるし、実を言うと私の魔力もヤバかったんだよね。
「……あの御姉様?私だけ薬を貰っていないんですけど?」
「私の胸を触ってたんだから大丈夫でしょ?」
幾ら戦闘中で急ぎだったからって、タダで触らせる訳がないじゃん。
本当に死にかけない限りはそのまま放置するよ。
「酷いです御姉様!」
「ジゴウジトクダバカタレ」
「りーあがわるい!」
「キュー」
うんうん、皆もちゃんと解ってるねぇ。
「そっちも終わったのかい?」
「アプさんも終わったみたいだね……って赤っ!?」
「ん?ああ、あの蛇の返り血だよ……洗ってる暇も、水もなかったからねぇ」
うわぁ……相当苦戦したのが解るよ。
ん?ヘビの血って確か……
「アプさん、何か身体に異常はない?」
「ああ……やけにポカポカするというか、熱いというか」
やっぱり……ヘビの血って精力剤になるからね。
幻獣もどきといえど効果は普通のヘビと変わらないらしい。
えっと確か以前タクァに飲ませた鎮静剤は……よしあった。
「悪い事は言わないから、今日はこれを飲んで安静にして……出発は明日にした方がいいよ」
「よく解らないけど……製薬師のあんたがそう言うんなら従っとくよ」
あのまま放っておいたらリーアの餌食になってしまう可能性が高いからね……本当に。
普段のアプさんなら返り討ちに出来るだろうけど、発情した場合は勝てる保証が出来ないし。
何にせよこれで4体中2体は始末出来た……後はロウくんとコカちゃん次第かな。
といっても1番心配なのは……やっぱりキュアちゃんだねぇ。
一応リーアに偶然を装いながら訓練してあげてって指示はしたけど、どうなる事やら。
ヤギミルク……美味いけど高い




