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20話 抑止力


 俺はベッドでアリシア姉さんとキャシーに抱きつかれながら、ベッドの上に正座するルシアと対面している。


 この状況で真剣な話ができるのだろうか。

 姉さんとキャシーは離れる気がなさそうだから、こうなると仕方がない。


 もう受け入れ始めているルシアは凄いなと感じつつ、俺は背後で抱きしめてくるアリシア姉さんと、とろけきった表情で俺の腹部に抱きつきているキャシーに聞く。


「姉さんとキャシーは悪魔の呪魔法を受けたみたいだけど、どこで受けた?」


「この国にやって来て、リベルを探そうとした時ね……人が多い中で呪魔法を受けたから、誰なのか解らないわ」


「呪魔法は瓶の中に煙が入っているみたい……煙に干渉して内部に侵入されたら、魔力を上昇させて弾かないと呪印が発生して悪魔になるって賢者協会で聞いた」


 そこはアルベールの記憶通りだ。


 問題はアルベールが戦った頃よりも、呪印の効力が強くなっているのか。


「姉さん。悪魔になった時って、どんな気持ちだった?」


「その時はリベルに会いたいことだけ考えてて、すぐにリベルの場所が解るようになったの……後はずっと高揚感に包まれてて、色々と本心を言ったりもしちゃった」


 両脚を斬り飛ばして一生世話をしながら共に生きたいって発言、本心なのかよ。


 ゾッとしてしまうと、アリシア姉さんが俺の腹部を優しく緩やかに撫でながら。


「私はリベルには二度と危害を加えないわ……こうしてずっと一緒に居られたらいいなって思っていたから、エストロス家を捨ててよかった」


「あたしもお兄さまと一緒に居たい。今日見た魔法は素晴らしかった」


「えっと、えっと……私もです!」


 過度過ぎる愛情を向けるアリシア姉さんと、純粋に俺を慕っているキャシーを見て、ルシアも何か言わなければならないと考えてしまっているようだ。


 もしルシアが居ない状態だと、キャシーは大丈夫そうだけどアリシア姉さんは理性のタガが外れていた可能性が高い。


 それぐらい今俺に密着して、後ろで感じるアリシア姉さんの吐息が熱っぽいからだ。


 行動に移さないのはルシアが居るからだろう……血の繋がっている者同士が密着するのは家族の愛情で通るも、それ以上はどうかと思われるのを警戒しているのかもしれない。


 アリシア姉さんがそんな風に考えているのかは解らないけれど、ルシアが抑止力になっているのは間違いないだろう。


 少なくとも、この状況でも理性を保とうとしている俺の抑止力にはなっている。


 やっぱり仲間が欲しいと考えていたのは正解だった。 


「悪魔の呪魔法を使った存在は解らずか……それでも、間違いなくジェイルが主だから、俺を狙って行動するはずだ」


 不老になる方法を発案できるほどの化物は、ジェイル以外に居るとは思えないし、今までの行動を思い返す。


 俺はこの国では目立っていたからな。


 悪魔が俺の存在をジェイルに報告、調査してリベルにはアルベールの記憶が入っている可能性が高いと警戒したのだろう。

 それからリベルを探していた姉妹であるアリシア姉さんとキャシーを捜索し、二人を悪魔にすることで俺と戦わせようとした。


 家族相手なら俺を仕留められると考えた……いや、俺が呪魔法を解呪できるのかどうかを見定めるためか?


 全ての悪魔とジェイルは同調しているから、アリシア姉さんとの同調が切れたことで、間違いなくジェイルは俺がアルベールの記憶を持っていると確信しているだろう。


「そうね。リベルが言うのならきっとそうなのでしょう」


「その通り」


「えっと……どうしてですか?」


 少し言い辛そうにルシアが聞くけれど、アリシア姉さんとキャシーが何も説明しないのは、二人共が理由がわかってもないのに俺の発言だから賛同したせいだろう。


 俺はルシアに説明することで、アリシア姉さんとキャシーにも説明する。


「悪魔の呪魔法を解呪したのは俺だけ……いや、まずアリシア姉さんとキャシーを狙った時点で、奴は俺を警戒しているに違いない。冒険者登録をして一ケ月も経たずにBランクになっている俺をな」


 ジェイルがまだ存在していて、アルベールがほとんど滅ぼした悪魔の群れを再び増やしている。


 悪魔の主、ジェイルは不老を求め……生物に必ず訪れる死から逃れるためなら、他者の命を奪うことに躊躇しなかった。


 最初こそ悪人を全て裁くには時間が足りないから不老になるとかそれっぽいことを言っていたけど、それを聞いたアルベール達は止めようとしていた。


 それでもジェイルは止まらずに姿を暗まし、取り込んだ悪人の関係者すら取り込み始め、それにより生まれた復讐者を苦戦しつつも取り込んだ結果、一人では生き抜くのは無理だと判断したのだろう。


 ジェイルは不老と更なる力を他者にも与えることで、施しを受けた瞬間に絶対順守の命令が可能な悪魔の部下を作ったのは、死にたくないからなのは間違いない。


 最初こそジェイルは、アルベール達と不老についての研究をしていた。


 アルベールを殺す事ができたとしても戦いは終わらず、アルベールが来世に知識と経験を遺した事を理解しているからこそ、ジェイルは今でも俺の存在を警戒しているはずだ。


「恐らく各国の冒険者ギルドや剣帝、賢者協会の中に悪魔となった者が何人も居て、急成長したイレギュラーな存在が現れたら主に報告するよう命令を出しているのだろう。それからその人物を調査をした結果、俺にアルベールの記憶があると推測した」


 悪魔は悪魔同士で意思の疎通ができる。

 

 冒険者ギルドや剣帝や賢者に呪印持ちの人間が何人か居るのだろう……アリシア姉さんとキャシーが家を出たことをその情報網から知り、ジェイルは警戒した。


 今までの世界情勢を考えると、悪魔は目立って行動していない……稀に現れる規格外の存在を恐れているからだろう。


「ジェイルが悪魔を増やす目的は、死にたくないから敵対する人間を排除するためのものだ」


 悪魔は魂を取り込まないと生きていけないことは解った上で、自己の為に世界全てを糧にしようとしている。


 ジェイルの目的は、ただ自分に危害を加える者を排除したいだけ。


 その結果――目的を達成した時、ジェイルは世界を支配することになるのだろう。


 奴の目的はただ不老で死ぬことなく生き続けたいだけで、世界の支配は副産物だ。


 説明を終えた俺を、熱っぽい瞳でキャシーが眺めながら。


「お兄さまが自分の意見を言ってる……カッコいい」


「そうね。凛々しく成長したリベルの言葉を耳にしているだけで、私は何度も幸せになっているもの……」


 真剣に話を聞いてくれているのかと思っていたらこれだ。


 もう今の俺が何やってもこの姉妹は歓喜しそうだけど、会話の最中に俺の背後で上下に揺れながら息が荒くなっているアリシア姉さんは危ない気がする。


 会ったばかりのルシアが居るから俺を襲おうとはしないのだろうけれど、貴族という立場がなくなったことで、ただでさえ脆かったアリシア姉さんの理性が崩壊寸前だ。   

 そこまで考えると、アリシア姉さんが俺の首元に軽く溜息を吐きながら。


「むぅ……お姉ちゃんとここまで密着してもリベルの顔が紅くならないけど、ルシアとはもっと凄いことをしたの?」


「えっ!? い、いえ……同じぐらいだと思いますけど……」


「いざという時に動揺しない為に、なるべく動揺しないよう心がけている」


 それでも今日の悪魔と化したアリシア姉さんの発言には動揺するしかなかったけど、あれは仕方ないんじゃないだろうか。


「あたしも同じ。常に冷静なのが魔法使いとしての理想、お揃い……」


 その発言を受けてキャシーは普通に尊敬してくれるも、背後でアリシア姉さんが身体を小刻みに震えさせてゾクゾクしながら。


「それじゃあ、我慢しているリベルが我慢できなくなった時は……ああっ!」


 そう言ってアリシア姉さんが後ろで悶え始めてベッドから転げ落ちたけど、貴族でなくなったからおかしくなってしまったようだ。


「……やっぱり、大きいベッドは必要ね。一緒に入れる、じゃなくて、毎日使うお風呂も欲しいから、ひとまず家を買いましょう!」


 アリシア姉さんがベッドの上に乗り、俺の腹部にはキャシーが抱きついていて、俺は左右にルシアとアリシア姉さんを挟む形になっている。


 俺はアリシア姉さんの提案に賛同しそうになるも、家を買うということは、この国を拠点にするということだ。


「家か……まだこの国を拠点にすると決めたわけじゃないから、勿体ない気もするんだよな」


「それならお姉ちゃんに任せて! リベルは何の心配もしなくていいわ、家なんて使い捨てるぐらいでちょうどいいもの!」


 興奮したアリシア姉さんが財布を取り出し、俺にすぐ見せたかったのか財布を傾けることでかなりの量の金貨や白金貨がベッドの床に飛び散る。


「わっ!? これなら家を普通に購入できますよ!」


「剣帝になると冒険者ギルドでAランク以下の依頼が受けられるようになるから、もしリベルが家を追い出された時に備えてずっと養うために貯めてきたの、このお金は今使うしかないわ!」


 当然のように俺が家から追放されることを計算に入れている辺りが恐ろしい。


 恐らく本来の力が出せれば問題なし、出せず追放されてもその時にアリシア姉さんは家を捨てて俺を養う気満々だったのだろう。


 アリシア姉さんが自分の金で家を購入する気満々だから、俺達はそこに住むことになりそうだった。

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