11話 特訓の成果
ルシアを鍛え始めてから翌日、俺はBランクのクエストを受けるも、今のルシアなら一人で対処できるほどの強さを身に着けていた。
時々俺が剣を通じて指示を出すだけで、ルシアはその指示を聞いて即座に行動できている。
「よし、よくできたなルシア」
「あ、あの……嬉しいですけど、やっぱり頭を撫でてもらうのは恥ずかしいですね」
「いや、昨日ルシアが言ったことだろ?」
「そ、そうでしたね……も、もっと撫でて欲しいです……」
「わかった」
そう言って頭を撫でながらも、俺は昨日の夜を思い返す。
昨日の夜も成長促進のポーションをルシアに飲ませたけれど、昨日もルシアの甘え方は凄かった。
もっとモノ扱いしてくれた方が嬉しいとか……色々とルシアの性癖暴露になっていたことについては、俺とルシアは触れないようにしている。
結果を出した時は頭を撫でて欲しいと酔ったルシアに頼まれていたから、今日から俺はルシアの頭をキャシーのように撫でていたのだけど……正気に戻った今は恥ずかしいのかもしれない。
元々ルシアはやる気に満ちていたから、成長促進の魔法薬で強くなれる限界にはもうそろそろ到達しそうになっている。
ルシアは素質があり、向上心も高いからこそだろう。
夕焼けが見えてきた頃に、ルシアがかなり疲れた様子で俺に質問する。
「リベル……私、ここ二日だけでとてつもないほど強くなっています。これならリベルのお姉さんに勝てますか?」
「もしかしたら逃げ切れるかもしれないってまでには成長したが、勝つことは不可能だな」
「そ、それほど強いのですか……」
ルシアが自分の急成長に驚きながらも、それ以上のアリシア姉さんに唖然としているようだ。
「アリシア姉さんは剣帝だから仕方がない、ルシアはそこまで強くなったのが凄いぞ」
「剣帝!? 流石はリベルのお姉さん……それでも私は、絶対にアリシアさんと戦えるようになります!」
今まで弱々しかったのが嘘のように、ルシアがやる気に満ちている。
明日にはアリシア姉さんの対策を立てることができるだろう……その前に、昼過ぎから一つやっておきたかった事があった。
今のルシアなら大丈夫だろう……遠くで轟音が鳴り響き、俺はルシアに向かって。
「なんだかあっちの方で轟音がしたから見てくる。ルシアは疲れただろ、休んでてくれ」
「えっ? いえ、私も一緒に――」
「いいから」
少し強めに言ったから、ルシアが納得しながら座り始めて、俺は轟音が聞こえた方向へと向かう。
まあ、轟音は俺が後から爆発するように用意していた爆発魔法によるものなんだけど、俺はルシアから離れる必要があった。
× × ×
ルシアからかなり距離をとってから、俺は岩陰に隠れてルシアの方に意識を向ける。
機会を窺っていたのか、ルシアをパーティから捨てたペラーネと一人の男が、昼過ぎからずっと物陰で俺達の監視をしていた。
ルシアは鍛錬に意識を裂き、俺は解っているも知らないフリをしていたのは、ペラーネ達がどんな行動にでるのか予測できていたからに他ならない。
そして案の定、ペラーネと一人の男が、一人になって休憩しているルシアの前に現れて。
「久しぶりね。ルシア」
「っっ……ペラーネ、さんと、ペラードさん、他の二人はどうしたんですか?」
俺は魔法で五感を強化している……動かず意識を集中していれば、遠く離れていても何を言っているのかが聞き取れて、状況を視認することもできている。
それにしても、ペラーネとペラードか。
名前が似ているけれど、姉弟だったりするのだろうか?
ルシアの発言を聞いて、ペラーネが激昂しながら。
「リベルとかいうクソガキのせいで二人ともパーティを抜けたわよ……仲間を募集しても集まらないし、今でも散々な目に合ってるわ!」
「あの野郎は許せねぇ……お前を人質にして通貨と持ち物を全部奪ってやる。それでお前はようやく俺と姉さんの役に立つんだよぉ!」
Bランクの俺に勝てないから、二日前の時点ではDランク程度の強さだったルシアが一人になった時を狙う……予想通りだな。
この二人は俺とルシアを監視していた時に、モンスターを狩るルシアの姿は遠くて確認できなかったのだろう。
Dランクのルシアが二日で強くなっているだなんて考えるわけがない……ペラーネは二対一でルシアを倒し、人質にして俺を脅すつもりのようだ。
まさかここまでの馬鹿が居るとは思ってもみなかったけど、ルシアが精神的にも成長できるいい機会だから、俺は一人になってあの二人が行動するのを待っていた。
叫び声と同時にペラードがルシアに斬りかかるも、ルシアが剣を振るうだけでペラードの剣が砕け散る。
力の差と剣の差がありすぎたせいだろう。
なにが起こったのか理解できないのか、ペラードが握った柄、そしてその先にあるはずの刀身がほとんどなくなっている剣を眺めて。
「は、はぁぁぁっっ!? 俺の、俺の剣が砕けただと!?」
「随分いい剣を持っているみたいだけど、これならっ!」
どうやら俺が渡した剣によるものだとペラーネは推測したようで、杖を振るうことで稲妻を飛ばす。
Dランクのリーダーになれるだけはある魔法だけど、今のルシアには遅すぎる。
ルシアが剣を振るうだけでペラーネが放った稲妻が弾けて消え去り、ペラーネ達は一気に腰を打ちつけて唖然としていた。
そんなペラーネを蔑んだ眼で見下ろしながら、ルシアが刃をペラーネに向けて。
「元パーティメンバーとして一度は見逃します。リベルが戻って来る前に帰ってください」
「ふっ、ふざけんじゃねぇぞ……俺の剣を弁償しやがれ!」
ペラードがふざけたことを言い出したから、俺が二人の元に向かうことにする。
タイミングよく現れた俺にペラーネとペラードが目を見開かせるも、俺は二人を指差して。
「ふざけてるのはお前等だろ? ルシアが一度見逃すと言ってからその発言……ルシアが許せたとしても、俺は許せないな」
「「ひっ!?」」
ルシアも納得してくれたのか、軽く頷いている。
俺は二人に魔力を流し、二人は体調が変になっていくのを自覚してか、顔を徐々に真っ青にしていき。
「ぼぼ、冒険者登録をしている者同士の戦闘は禁止だぞ!?」
「そ、そうよ! 今なら報告しないから、許して――」
「俺は魔力を流してやっているだけだ。報告しても何の意味もない……これから常に苦しみたくないのなら、お前達の通貨と持ち物を全部差し出せ」
それは元々ペラードが言っていた発言だから、二人は何も言えなくなっていた。




