流れ時…3ジャパニーズ・ゴッド・ウォー14
結界が張ってあるとのことだったがヒメさんは普通にミカゲ達がいるビルに入っていた。
ビルは東のワイズ軍が襲ってきた時そのままの形で残っていた。窓ガラスは割れており、壁は半壊の状態だ。
「遅かったっすね!」
ニッパーはロビーのところでニヒヒと笑っていた。
「そちもうまくまけたようじゃな。」
ヒメさんはニッパーを一瞥すると後ろに立っている人物を見つめた。
「過去神、白金栄次。そしてミカゲ。アマ。」
「改めて言わなくてもよろしくてよ。」
「うむ。」
ミカゲ様とアマちゃんが真剣な顔でヒメさんを見て頷いた。
「プラズマ……アヤ……。」
過去神、栄次はせつなげな表情で二人を一目見、目を伏せた。
「時神として会っちゃいけない俺達が顔合わせちゃったな。」
プラズマの言葉に栄次は顔を曇らせた。
「そうだな。俺達は会ってはいけなかった。」
「……。」
栄次の言葉にアヤも目を伏せた。
時神三人は再会を喜んではいけなかった。
決して交わってはいけない時間が交わってしまうからだ。過去、現在、未来が混ざり合うとどうなるか彼らはよく知っていた。
……あの空間は私が楔だ……。私が動かない限りでない……はず。
アヤは心の中で何度もこの答えをまわしていた。
時間のないあの空間は過去でも未来でもなく今、もちろん、三人そろっている事が条件だが現代の神であるアヤが開こうとしないかぎりでない。
アヤはそれを知っている。
……だから私は抵抗もせずにこうやってついてきたのよ……。
しかし、アヤの予想はすぐに崩れた。
「それではさっそくヒステリーちゃん、やってくれっす!」
「わかっておる。」
クスクスと笑っているニッパーを一瞥するとヒメさんは手を横に広げた。
すぐに周りの空間がゆがみ始めた。
「え?」
アヤが不安な顔をプラズマと栄次に向ける。二人もアヤが動かないと出ないと思っていたらしい。
顔には出していないが明らかに狼狽していた。
そうこうしている間にミカゲ様のビルは時間のない空間に変わってしまった。
割れた窓や崩れかかっている壁はなくなりただの真黒な空間になった。
「どうして!?なんでこの空間がでるのよ!なんでよ!」
アヤは取り乱して叫んだ。
「ワシは歴史を守る神……。流史記姫神じゃ。この建物の歴史を奪えばアヤが持つカギをワシでも開ける事ができる。」
「そんな……。」
「しかし奇妙じゃな。アヤが開く気がない時部外の者が開くことはできん。過去神、未来神が開く気でなければワシも出せんかった。アヤが開く気ならば未来神、過去神の感情なしに開くのじゃが。」
ヒメさんは蒼白のアヤから目を離すと栄次とプラズマに目を向けた。
「……。」
二人は黙り込むとヒメさんから目を逸らした。
「なるほどのぉ。おぬしら、うんざりしておるのか。」
「……。」
栄次はヒメさんの問いかけに何も答えなかったがプラズマは口を開いた。
「そうだな。もう自分が生きるのにもうんざりだし、人間の歴史を見続けた俺は人の醜さを知ってる。そろそろいいかなとは思っているよ。このまま人もろとも消してくれ。」
「なに……言ってるのよ……。プラズマ!」
「俺……何言ってんだろうね。」
プラズマを悲しげな目で見つめるアヤにニッパーが眉をひそめた。
「そこの、未来神、今なんて言ったっすか?人もろとも消してくれ?どういう事っすか?」
「だってあんたらは冷林を殺すつもりなんだろ?」
「!?」
ヒメさん以外の神々に動揺の色が浮かんだ。
「な、何言ってんすか!あたしらは冷林の復活を……。」
「ニッパー……今、はっきり証明されましたわね。歴史の神は冷林を殺すつもりなのですわ。」
戸惑っているニッパーにアマちゃんは冷静に言葉を紡ぐ。
「未来神、見えたのか否か。」
ミカゲ様が鋭い瞳でプラズマを睨みつける。
「見えたって未来が?……まあ、うん。いままで真っ暗だったのに今、いきなり見えた。俺、ここの事何にも知らないのになー。ここまでくればわかっている可能性は冷林の消去をしようとしている事だけ。そこから先は多様なパターンがあるみたいで俺はわからない。」
「なるほど。未来神が予想を的中させてしもうたか。まあ、そうじゃ。ワシは冷林を消したいのじゃ。今、ワシの計画を知った事で意味はない。ここまできたらワシの勝ちじゃな。ミカゲ、ニッパー、アマ、協力痛み入る。」
「何が痛み入るよ……。」
アヤはにこりと微笑んだヒメさんを睨みつけた。
ヒメさんはアヤを軽く無視すると意識がいまだ戻らないおじいさんの元へ近づいて行った。
「ところで……。」
ミノさんはイドさんに声をかける。
「どうしました?」
現在二人は冷林のビル付近に到着していた。今は荒野を歩いている。
「おたく、娘がいるのか?」
「!?」
ミノさんの問いかけにイドさんの顔がさっと青ざめた。
「いるんだな。」
「……。剣王の口で何を言っているのかわかりましたか……。」
「ああ。わかった。」
イドさんは進めていた足を止め、しばらくその場で固まっていた。
ミノさんも静かにイドさんの背中を見つめていた。
やがてイドさんが何かを決心するように口を開いた。
「娘なんですけど……単刀直入に言うと……その……ミノさんも会っているんです。」
「全く単刀直入になってねぇぞ。俺には心あたりがねぇ。」
イドさんがまだうじうじと考えているのでミノさんは言葉を急かした。
「だからその……ヒメちゃんが……僕の……。」
「なんだって?」
はじめは衝撃すぎて頭が回転しなかった。
「だから、ヒメちゃんが僕の娘です。」
「っ!」
ミノさんは驚いてしばらく言葉を失った。
……ヒメが……イドさんの……むすめ……。
ただ茫然と立ち尽くしているミノさんにイドさんは構わず言葉を続ける。
「はっきり言うとヒメちゃんの方は僕の娘って事を知りません。ヒメちゃんは今、流史記姫神と名乗っていますがそれは俗世の人間が決めたことです。時代が流れ、人々からヒメちゃんは歴史を守る神とされました。彼女の本当の名は龍史記姫神です。本来は僕と同じ竜神なんですが長い年月で彼女は歴史を守る力を手に入れました。人々は神の本来の語源を時代のニーズに合わせて変えているそうです。」
「なんだよ……つまり、ヒメは人間によって力を変えられたって事か?」
「いや、本来の竜神の力も持ってます。ただ、僕が封印しただけです。」
イドさんの言葉にミノさんは眉をひそめた。
「どういう事だ?」
「僕は……実は昔、人間に害をなす竜だったんです。あの頃は人を襲ってばかりだった。ずいぶん前の事なのでどうしてそんな事をしていたのか今はわかりません。そして僕は一度スサノオ尊に倒され封印されました。」
「スサノオ尊に!?一体いつの時代だよ……それ。」
ミノさんの驚きを鼻で笑ったイドさんはさらに言葉を続ける。
「それから僕は人間の信仰により、彼の地を守る龍の神とされました。また、水の神とも言われ、井戸に住む神とも言われました。神社も新しく人間によりつくられ祀られました。そんな時、僕に娘ができました。あの時は嬉しくて先の事なんて何にも考えていなかったんです……。
しばらくして自分は気がつきました。昔の歴史が消えるわけではない。今はこういう風になっているが昔はこうだったと人々に受け継がれている。」
イドさんはそこで言葉をきり、悲しそうな顔をミノさんに向けた。
「……。」
「どういう事だがわかりますか?」
「わからねぇな。」
「うう……少しは気持ちを察してくださいよ……ミノさん。僕はハンパない数の人間を殺している。その汚名を娘が受け継ぐなんて僕には考えられなくて……。」
イドさんはまた言葉を切った。
先を言いたくないようだ。
「あれか。それで親子の縁をきったのか。ヒメが物心つかないうちに。」
ミノさんの言葉にイドさんはゆっくりと頷いた。
「娘がいくら人間にご利益をもたらしてもバックに僕がいたら……あの竜神の娘だったら関わると厄をもらうかもってなるじゃないですか。人は恐れて娘が暴走しないように祀るでしょう。
娘はそんな事微塵にも思っていないのに人から怖がられる。なんだか……かわいそうで……。」
「そういう事か。じゃあ、ヒメはどうやっていままで生きてきたんだ?」
「僕が裏でサポートしてました。剣王は嫌いでしたが娘を剣王に預けるとまず危険がないので娘を剣王に渡しました。そして自分は東に渡りました。ヒメちゃんの近くにいない事で他の神に気づかれる事なく彼女をサポートできました。僕がワイズのもとにいるのはそういう理由からですよ。彼女は頭がいい。どうすれば一番いいかいつも即座に理解してくれる。ふふ……子は三界の首枷ですよ……ほんと。」
イドさんは一度下を向くとミノさんにそっと目を向けた。
「理由はわかった。というかおたくは今回何がしたいんだ?」
「娘を……ヒメちゃんを止めたいんです。彼女は冷林を消そうとしている。調べている中で冷林を消そうと動いていたのはヒメちゃんだけみたいですからねぇ。」
「なんでそれがわかるんだ?」
「わかりますよ。いままでそれを必死で調べていたんですから。偽冷林にもなって。」
イドさんの言葉にミノさんは「ん?」と首をかしげた。
「もうこの際だから語っちゃいましょうか。」
イドさんはすっきりとした面持ちで再び歩きはじめた。ミノさんもそれに従う。
「冷林があんなことになったのはまったくの偶然でした。どうしてあんなことになったのか、僕にはいまだにわかりません。まあ、それは置いておいて高天原のゲートをくぐる以前に僕はヒメちゃんに偽の冷林がいるとちらつかせておきました。
ゲートをくぐった時におじいさんを消したのは僕です。ヒメちゃんは見事僕の策にはまってくれて偽冷林がおじいさんをさらったと思ってくれました。」
「それでヒメは怒ってたわけか。で、おたくはそんな事をして何か得をしたのか?」
「ヒメちゃんが冷林の仲間なのかを調べたかったんです。はっきり言ってあの時は剣王軍が普通に動いてましたから。僕はミカゲ達に見つかりやすい所にさらってきたおじいさんを放置しました。案の定、ミカゲ達はおじいさんをすぐさま保護しました。
ヒメちゃんは驚いた事でしょう。偽冷林に連れて行かれたはずのおじいさんが本物の冷林方にいるのですからね。」
イドさんは少し微笑んでから先を続けた。
「僕が冷林側を観察していた時、頭にハテナが浮かんでいるヒメちゃんを見つけました。
おそらくなんで本物の冷林のところにおじいさんが送られているのかを必死で考えていたのでしょう。
そこで僕はヒメちゃんが剣王軍にいながら冷林方と通じているという事を知りました。あの時ヒメちゃんはきっと動揺していたんだと思います。
……僕はそれを見ながらミノさん達に連絡を入れました。ミノさん達が冷林方のビルに入って行くのを見届けてすぐワイズに連絡を入れました。
冷林方が冷林を生き返らせようとしていますよと僕は言いました。するとワイズが『それはやばいYO』とか言いながらすぐに軍を手配してくれました。でも僕がやりたかったのはおじいさんの奪回ではない。あのビル内に過去神がいるかどうかを確かめたかっただけなんです。」
「過去神はいたな。」
「ええ。それを確認した後に、手ぶらで帰ると怪しまれるのでおじいさんとミノさん、アヤちゃんをつれてワイズに会おうとしました。」
イドさんの言葉にミノさんはふんと鼻をならした。
「じゃあ、なんでワイズさんのとこにいる時、俺達をかばうようなマネしたんだよ?」
「あれは軽い時間稼ぎです。冷林方から剣王軍に渡るはずだったおじいさんがワイズ軍にいるんですからヒメちゃん達は奪還に来るだろうと思いました。そしておそらく西にいるであろう未来神におじいさんを会わせようとするはずだと踏んだ。
未来神の未来予知がミカゲ達に万が一知られたらやばいですから北を裏切るつもりなら未来神は西に置くとヒメちゃんの考えを読みました。
剣王軍が襲ってきたら未来神は西にいるという事になり、北に未来神をおかなかったという事はヒメちゃん達と冷林方の考えがまるっきり違うのだということで……。剣王に会いに行く途中、ヒメちゃんはこんな事をもらしました。
西の剣王を裏切っていると。自分がおじいさんを助ける方であると。僕はそれを聞いて頭をひねりました。剣王軍は名目上、おじいさんを消すという考えのもと動いている軍です。……もしかしたらと善の考えも出ていたんです。
ヒメちゃんが剣王を裏切り、ミカゲ達を騙し、冷林とおじいさん両方救うつもりなのではないかと。そのために全員を騙しながら時神達に会わせようとしていたんじゃないかと。」
イドさんの微笑みにミノさんは胸が痛くなった。
「期待は見事に裏切られちまったな……。剣王軍を勝手に動かしていたのはヒメで現在、アヤと未来神を連れて過去神のいるあのビルに向かっているという事は……。」
「ヒメちゃんがおじいさん、冷林共に消そうとしている確率が高いですね……。だいたい冷林を消すなんてそんな事をしたら人が消えてしまう。
だからワイズは冷林を消すのではなく封印といい、剣王はおじいさんを消して冷林を元に戻すという考えなんですよ。」
「……おい。前……。」
ミノさんがイドさんの話を半ば聞きながらイドさんに前をみるように促した。
前方には冷林が住むビルが建っている。
太陽があたっているのにビルの中はわずかの光りもない真黒な空間だった。
「冷林のビルですね……。」
二人はひっそりと静まり返っている半壊したビルを見上げた。




