変わり時…最終話漆の世界25
「行こう!と決意したはいいけど……どうするの?」
「さあ?」
マナはとりあえず皆に尋ねたが時神達、マイは同じように首を傾げた。
改めてまじまじと矛を見つめる。どこにでもありそうな矛だ。
「見た目は普通……」
マナがつぶやいた刹那、瞳にデータが流れた。数字がマナの瞳を流れていく。
「あ……」
マナは何かに取りつかれたかのように突然歩きだし、ある一点の地面を抵抗なく矛で刺した。
「マナ?」
アヤ達は不気味にマナを見据えた。
「ここ……」
マナがつぶやくと地面がガラスのように音を立てて割れた。
「……っ!?」
割れた地面に時神、マイ、マナは何もできずに落ちてしまった。
「しっ!死ぬ!!」
プラズマが落下しながら悲鳴をあげた。
「……大丈夫。アマノミナヌシのデータに入ったんだ」
マナは落ちながら冷静に言葉を発していた。
次第に落ちるスピードが緩やかになり、やがて電子数字が縦に流れていくのみとなった。
さらに電子数字が流れていくと今度は解読不能な文字列が流れる。
「……数字は人間が作ったもの……。この解読不能なデータも『存在する』ものを見分けるために人間が作ったもの……私達が見ているものは……」
気がつくと何にもない空間になった。表現はできない。ただなにもない。色もない。匂いも、音もない。
おそらくここは『存在しない』ものであるため、人間の言葉で言い表すことはできない。
次元が違うのだ。
「……なに……ここ……」
アヤの不安そうな声が静かに響き渡る。声は得たいの知れない文字列になり消えた。
「声が文字に……」
プラズマと栄次は呆然と立ち尽くしていた。
「……ここからどうすれば……」
マナがつぶやくと誰かの声がした。男でもなく、女でもなく、子供でもお年寄りでも機械でもない声。存在がない声だ。
そして何を言ったのかまるでわからない。
声は不思議なことにマナをすうっと通りすぎていった。
「……なに……いまの……」
アヤが不気味に思いながらつぶやいた時、マナは頭を抑えて何かを考え始めた。
「マナ?」
時神達が心配そうに見つめる中、マナは頷いた。
ちなみにマイだけは微笑している。
「文字が解析できた。アマノミナヌシが会話してきたんだ」
「え!?」
アヤ達が驚くとマナはとても冷静な声で続けた。
「アマノミナヌシは……この世界が産まれる前にいた……その前の世界の住人のひとり。つまり、存在しない存在」
「存在しない存在……」
「……好きに変えてみろと言っている」
「世界をか!そんなてきとうでいいのかよ!」
プラズマが叫ぶとマナが当たり前のように口を開いた。
「いままで私の意見だけでここまできたわけじゃない」
「まあ……そうだが……」
「……アマノミナヌシはこの世界が産まれる前にあった世界の者、日本ではアマノミナヌシだけど他の国では名称が違うみたい。世界改変と世界が滅ぶとは違う。世界改変は今『存在する』世界を変えるということ。世界が滅ぶとは……『存在がなくなる』こと。自分が生きた世界のように。……と言っているみたい」
マナはなぜかアマノミナヌシと会話ができているようだ。いや、一方的に聞いているのか。
「じゃあなんで『存在しない』世界の住人がいるんだよ?『存在する』じゃないか」
プラズマはマナに首を傾げた。
「……いずれ……『存在する』世界になる。今の世界が滅べば……存在しない世界……『漆の世界』が存在するようになる。そして新しい世界を作り、この世界にはない生き物、物達で繁栄していく。今の世界は誰かひとりをバックアップに残し『存在しない世界』として今の自分のようになるだろう。むしろ、そうなるかどうかもわからんが。自分はそうやって新しい世界にかかわった……と言っているよ」
「……次元が違いすぎるわね……」
「……今の話だと誰かがアマノミナヌシのように残るかもしれないと言っているが……」
アヤは呆然としていたが栄次は不安げにマナに尋ねた。
「……あなたが……世界改変をするならば……この世界がいつか滅ぶ時、自分と同じように残り、世界創成のモデルデータになる可能性がある……」
「……!」
アヤ達は驚きの顔でマナを見た。
「それでも世界改変をするか?ここまで入り込んで来たものはあなたがはじめてだ。前回の改変は自分の所まで来ていない。色々な者達が最優先の選択をした結果なのだ。……と言っているよ。……さっき、改変してもいいって言ってたでしょ?どうやればいいの?」
「そこより気になることはないのかよ!?」
プラズマが叫ぶ中、マナはそろそろ本題に入った。
ここですんなり話を戻せるマナはやはりまともではない。
「……勝手にやれ……って……仕方がない!マイさん、壱の世界を夢にして伍の世界の人達に見せて!」
マナはやけくそにマイにそう言った。マイは不気味に笑うと頷いた。
「何が始まるんだ?ふふっ」
「お前はよく笑えるな……」
マイの嬉しそうな顔をみてプラズマはため息をついた。
「時神がいるなら過去と未来と現在の調整もできるよね」
「……簡単に言うのね……」
イメージ通りに進めるマナをアヤは恐ろしく思いながらつぶやいた。
こうして世界改変が始まった。
マナが自由に動かせる世界……だが、一歩間違えれば滅亡だ。
異次元のプレッシャーをマナは抱え込むことになった。
前回の世界改変は重かったに違いない。
うまくいかなければ
「存在がなくなるんだ……」
マナは口に出し、繰り返し言葉を頭に刻み込む。
……存在がなくなる……。
「よし……」
やがて覚悟を決めたマナは目を見開き、取り返しのつかない場所へ足を踏み入れた。時神達はデータの塊になり、マナの瞳は紅に光った。




