変わり時…最終話漆の世界10
洞窟をひたすら進むとハシゴにたどり着き、上に上がれるようになっていた。ここは地下のようなので地上につながっているのだろう。
健が聞いた足音というのはどうも上から聞こえるようだ。つまり、この秘密の道からマナ達を追っているのではなくマナ達の気配を感じた剣王軍が地上部分でマナ達を追っているということらしい。
「このハシゴのぼって上のフタ開けたら囲まれてるぞ……また」
プラズマがうんざりした顔でハシゴの上にあるフタを指差した。
「どうやって最上階まで行くか考えていたら終わるな……くくっ」
マイが楽しそうに笑った。
「く、クラウゼさん……様子見を……」
「俺に死ねと言っているのか?」
マナが恐る恐る尋ねるとクラウゼから不機嫌な一言が返ってきた。
「しかし……誰もあのフタを開けて入ってきませんね?もしかすると入り口が見えない加工がされているのかもしれません」
健がなにげに重要な事を言った。
「ああ!確かに」
「そうだね。上で私達を探しているみたい。ここがバレていないわ」
マナも足音を聞きながらつぶやいた。
「それがわかっても解決しないな……」
クラウゼはため息をついた。
マナ達がまごまごしていると上から突然衝撃が走り爆発音が響き渡った。
「なっ!?」
マナ達が一斉に上を向く。視界に剣王が映った。
「っ!」
マナ達の顔色が一瞬で青くなったがマイだけはけらけらと笑っていた。
「ああ、やっぱりここだねぇ。結界をこじ開けさせてもらったよ」
剣王が恐ろしいまでの冷笑でこちらを見ていた。
「けっこう強めな結界だったみたいですが……」
健が震えながらつぶやいた。
「向こうから来てくれた……。剣王が大将なら剣王を倒して……」
マナの言葉にプラズマが真っ青になって止めた。
「やめろ!あいつは破格だ!正直クラウゼでも勝てない」
「いいよ。私がやるから!やらなきゃ何も変わらないんだ!逃げても意味ない!戦わなきゃここで終わるんだ。だったらやるしか……」
「ああ、それなんだが……シミュレーションでも見せたナオから盗んだこれが……」
マナがプラズマに決意を語った時、マイが黄緑の勾玉を取り出してきた。
「ん!それは!ワープ装置!剣王の城に行ける!」
「さあ、どうする?」
「今から使って!すぐに!」
マナが叫ぶのと剣王が飛んでくるのが同時だった。マイは冷笑を浮かべるとワープ装置を作動させた。
マナの目の前を剣王が持つ刀が通り過ぎようとした時、マナ達はホログラムになり消えた。
※※
「はあはあ……。皆いるか?」
プラズマが肩で息をしながら声をかけた。
「み、皆いるよ……こ、ここは……」
マナは真っ青な健やクラウゼを見て笑っているマイを確認すると辺りを確認した。
マナ自身も足が震えていた。歯もカチカチと鳴っている。あれだけ戦う意志があっても実際はこんなものだ。圧倒的な相手には弱者は震えてきっと実際は何もできない。
いつ剣王が来るか冷や冷やしながら辺りを見るとマナは廊下にいて両端は障子扉で閉められていた部屋があった。おかしなくらい静かで障子の奥には入りにくそうな雰囲気が漂っている。
「城の最上階のようだな」
マイは勾玉をお手玉のように投げて遊んでいた。
「なんで最上階に来たんでしょう?」
「霊史直神……ナオがここにいるんだ。その勾玉、ナオのなんだろ?持ち主にワープしたんだ」
健の疑問にプラズマが小声で答えた。
「なるほど……。この障子扉の奥に……」
「やあ。なんだか知らないけどよくここまで来たね?」
マナが扉を開けようとした時、暦結神、ムスビが小声でささやきながら現れた。
「あなたは……」
「まあ、とにかく俺は拘束されてるナオさんとヒメちゃんを助けたいんだけど、結界が強すぎて無理なんだ。俺は剣王軍だからここまで来れたけどあんた達はすげぇな」
「別にすごくはないけど……結界が強いの?」
「障子扉が開かないんだ」
「障子扉が開かないか……」
「おい!」
マナが考えてるとクラウゼが叫んだ。マナの耳元にごうっと風の音がした刹那、重厚な金属音が響いた。
「っ!?」
マナは驚きそのまま尻餅をついた。目の前でクラウゼが剣王の剣を防いでいた。火花が散っている。
「いっ……」
気がつくとマナの頬から血が滴っていた。剣王はマナの首を狙ってきたらしい。
剣王はあっという間にマナ達の居場所を見つけ、襲ってきたようだ。
「け、剣王……」
「そう簡単にはいかないんだよねぇ」
剣王には笑顔はなく恐ろしいまでの神力がそのまま溢れ出ている。
健が素早くドールを出し、マイが殺陣強化の糸を纏わせた。
ここには剣王以外他の剣王軍は来ていない。剣王がひとりで大丈夫だと言ったのかもしれない。
「やはり戦わないとダメか」
プラズマが銃を出して構えた。
「どこまでも追ってくる……。覚悟を……」
マナは手から鏡を取り出した。
ムスビはじりじりと後ろに下がり状態を眺めている。
「しかし……クラウゼ君、邪魔なんだけど……」
「仕方あるまい……」
剣王はクラウゼと攻防戦を繰り広げながらため息をついた。まだまだ余裕なのだ。
健のドール達も攻撃をするが軽く流されている。
プラズマが放つ銃すらも避けられている。
正直、絶望しか感じない。
「後ろから失礼」
ふと冷たい声がマナの後ろから聞こえた。構える時間もなくマナは床に叩きつけられた。
必死で顔を上に向けると押さえつけていたのは狼夜だった。
近づかれていても全く気が付かなかった。
考えたくないが剣王がおとりになったようだ。狼夜を使いマナを捕まえたのだろう。
「くっ……」
「マナ!」
「もうやめろ。マナは狼夜の手だ。君達が戦う理由はない。……今手を引けば罪に問わないであげるよ」
剣王は優しい顔でゾッとするほど冷たく言い放った。
クラウゼは動きをやめなかったが健とプラズマは迷って手を止めた。マイは状況を楽しそうに眺めている。
「もう終わりだ。あんたに恨みはないが……消えてくれねぇか?」
狼夜は特に躊躇なく刀を首元に持っていった。




