変わり時…最終話漆の世界7
なんとなく森から外れたところを歩いているといつの間にか現世の図書館にいた。本当にいつの間にかだ。何かの前兆もない。
もうあまり驚かないマナはさっさと図書館から外に出た。世界を左右するというのに何も知らない人間達は楽しそうにまたは黙々と本に向かい合っている。
人間達が神を創ったようなものなのに呑気なものだ。その神々のすることを黙って見ているだけの役目を持つKは元々は人間だ。人間の霊でさえも重要な任を担っているというのに現世を生きる人間達は神々を想像し、または先祖を敬い、神々に祈るだけしかできない。
そういうデータしか世界から与えられていないのだ。故に神は見えないし、霊は想像の存在となり、Kは平和をひたすら祈るだけのデータになっている。世界を動かしているのはすべて人間のかやの外でだ。
人間には世界を破壊するほどの欲がある。自分達だけが良しとする環境汚染や倫理観の逸脱などだ。その欲の抑制をするのが想像だ。これをすると神々がお怒りになる、先祖が悲しむ、バチが当たるなどの感情を生む。
想像ができるのは人間だけだ。想像が現実になるとこのような感情はなくなっていくかもしれない。
だから神々は見えず、霊は人々の心の世界に居座って生きた人間が迷った時にさりげなくささやく。
よく考えるとこちらの世界は本当にうまくできている。
「うまくできてるなあ……」
……それに比べて私の世界は……。
喉から出てしまいそうな言葉を飲み込み、自分がいた世界を思い浮かべてみる。
マナの世界は想像が消えた世界。リアルなものしか信じられない。世界は倫理観があまりなく、すべては証明が鍵となる。
よく考えるとケイも世界のシナリオの上にいるのかもしれない。彼女は世界初の歳を取らない人間。実験の成功例だ。
そのうち、なんでも知っている存在になり、偶像になり、生きた神になるかもしれない。
そうしてケイの発言で人々の欲を抑制していくのだろう。ただ、世界の誤算は人間の進み方が早すぎたということだ。
それで、マナのようなイレギュラーを生んだのか、それともマナが壱へ行ったから世界の進みが狂ったのかはまだわからない。
「おい、マナ。鶴が来たぞ」
プラズマに声をかけられマナは我に返った。目の前に籠を持った鶴四羽が疲れた顔をしてうなだれていた。ワイズのところでの事をやはり忘れられなかったのか。
とりあえず、マナは健達を連れて籠に乗り込んだ。
「西の剣王のとこまで行ってくれ。こちらにはレール国を結ぶ健とレール国のお偉いさんクラウゼがいる」
「……わかったよい」
プラズマの言葉に鶴は文句を言わずに頷いた。本来は高天原ゲートを潜らなければいけないところを健とクラウゼを使いパスしたのだ。
鶴はゆっくりと飛び上がり優雅に舞った。




