変わり時…最終話漆の世界1
高天原東。
あちこちの木々が倒れ戦いの激しさがわかる光景が広がっている。
と、いうよりも神力の高い神々が暴れると激しくなくてもこうなる。
「ふぅ。みー君、観念したかい?」
サキが炎をおさめるとにやりと笑った。
「ちっ……。お前が出てくるとろくなことねーよ……」
みー君はサキが使った高天原の道具『拘束ちゃん』に捕まってコロンと横になっていた。
この道具はデータの波を飛ばし、対象の者の表面のデータだけ硬直に変えて動けなくするものだ。つまり、実態のない神でも捕まる。
「この道具すごいねぇ!発明好きの月神の使い、あのウサギちゃんに作ってもらったのさ」
「あーそうかよ……」
みー君は機嫌悪く答えた。
「しかし、みー君、鶴に攻撃加えるなんてひどいよ。かわいそうじゃないかい」
「色々あんだよ。本気でやってねーしな」
「あたしにもそうだったんだろ?」
「……うるせーよ」
そっぽを向いたみー君にサキは軽く笑うと目線をワイズの城に持っていった。
「じゃ、あたしはアヤを助けに行くよ。アヤはあたしとみー君が連絡とれないことを心配して来ちゃってワイズに捕まっちゃったようなんだよ。色々おせっかい焼きなのはそうだけど、尻拭いはあたしなんだ」
サキはみー君の頭をワシワシ撫でると颯爽と走り去った。
「くそ……あいつには敵わないな……はあ……」
みー君は地面に横たわりながら青い空を見上げ深いため息をついた。
※※
「ちゃんと開いたぞ……くくく……」
マイが不気味な声をあげたのでマナは我に返った。
辺りはネガフィルムのようなものが切り替わり立ち代わり形を変えている不思議な場所で宇宙空間のような浮遊感があり実際にマナ達は浮いていた。ネガフィルムにはひとつひとつ違う世界が広がっておりこのひとつひとつの世界は心ある者の想像で創られていた。
弐の世界に入ると気がついたらぼうっとしてしまう。やはり弐の世界は霊魂、夢の世界だと実感する。
「あー……ではレール国に行くんでしたっけ?」
健がマナに確認をとってきたのでマナは頷いた。
「うん。レール国でクラウゼさんを仲間にする!ごり押ししても脅しても仲間にするよ」
「怖いな……おい」
マナの決意にプラズマは怯えた顔でため息をついた。
「とりあえずマイさん、ありがとう。それと健さん、またマッシーさんだっけ?によろしくお願いね」
「はい。わかりましたー」
不気味に笑うマイを横目に見つつ、健は胸ポケットに入っていたハムスター、マッシーを呼び出した。
「マッシー!またレール国の図書館まで頼むよ!」
「はあ?めんどいんだけどー。バナナチップちょうだいー。乾燥イチゴでも可ー」
健の命令にマッシーはだるそうに答え、そのままおねだりに移行した。
「わ、わかったよ……わかったから……お願い!」
健はマナ達にはにかみながらマッシーを説得にかかっていた。しばらく押し問答が続き、なんとかマッシーに命令できるようになった。
「でー?あー、レール国の図書館ね。ほーい」
前回同様、健はかなりの出費で落ち込んでいるようだが反対にマッシーはウキウキしていた。
「はあ……」
「まあ、元気出せ」
プラズマが健の肩を軽く叩いて慰めた。
「じゃあ出発ー!」
「よろしくね!マッシーさん」
マッシーはハムスター姿から人型になると元気に進み始めた。マッシーが進むと自然にマナ達も引っ張られマッシーに続いていく。『K』の使いのハムスターは迷いやすい弐の世界をなんともなく自由に進める。特徴として肉体を持つ魂、神々を目的地まで運ぶことができる。通常『K』の使いである人形には自分以外の者の運搬はできない。
『K』の使いのハムスターだけは特別なのだ。
マナにはどうやってマッシーが正解の道を導きだしているのかわからない。どうやらハムスターには野生の勘のようなものがあるようなのだ。だから本人にもどうやって進んでいるのかわからないみたいである。
今回も迷うことなくしっかりした足取りでマッシーは進んでいく。ネガフィルムを避けて歩き、宇宙空間を右に左に進んでから、ある一ヶ所の小さなブラックホールに入り込んだ。
「ついたー!」
気がついたらレール国の図書館についていた。
「相変わらずさっぱりわからない……」
マナ達は首を傾げたまま地面に足をつけた。マッシーはついたと思ったらさっさとハムスターに戻り健のポケットに収まった。
「現金な子だ……」
健はトホホとうなだれた。
マナ達は先を急ぎ林のような場所に入り込んだ。天記神の図書館でもそうだがここは完全には弐の世界ではない。半分が現世に食い込んでいるため地面があり、壱(現世)の世界のように重力がある。
歩いていくと道ができ、天記神の図書館と同じような洋館が現れた。
「また来ちゃったね」
「今度はまた目的が違うけどな」
マナとプラズマは目の前に異様に建つ洋館を見上げ緊張を固めた。
しばらく呼吸を整えたマナは深く息を吐くと重い扉を開いた。
「……来ましたわね~」
扉を開くとこの図書館の神、セレフィアが神妙な面持ちで立っていた。こないだ来た時と図書館内は特に変わりはなかったがひとりの女神が閲覧席に座っていた。
「ルフィニさん……」
席に座っていたのはレール国の時神であり次元の神であるルフィニだった。
「ファメトルーレ(伍の世界)ノ……モノ……、Kデアル、ワイズトトモニ……次元ノ違ウ未来ヲ見セテモラッタ……。アー……セレフィア、セツメイヲカワッテ。リタ語……イヤ、ニホンゴ、トクイ……ナイ」
ルフィニは静かにそう言うと黒い瞳をキョロキョロさせた後、黙り混んだ。
「あ~わかりました~……。実はあなたが来ることはなんとなくわかっていました~。我がレール国、ラジオールはあなたの存在を許していません~」
セレフィアはマナのみを見てそう言い放った。
「やっぱり……クラウゼさんはいないのかな?」
マナは臆する事なくしっかりセレフィアを見据える。
「いませんね~。ここにはいません~。ルフィニが遠ざけました~。彼女はなんでもわかります」
「コノ世界、サイコロ。イミワカル?」
セレフィアの言葉に頷いたルフィニは再び口を開いた。
「サイコロ?」
「オシエテアゲル。スベテ、関係シテイテ漆ニナル。現世、壱トバックアップノ世界、陸。過去ノ参ト未来ノ肆。ソシテ……夢幻霊魂ノ世界、弐ト……夢幻ノ無イ……伍。相反スル世界ハ、タスト漆ニナル。コレヲ壊スハ、罪デアル」
「……七になる……そういうシステムになっているのね。……ということは……まさか漆の世界がある……」
ルフィニの言葉にマナはピンときた。
「……ダカラ……モウヤメロト言ッテイル……」
ルフィニの体から異様な神力があふれでてきた。
「まさか、あなたがラジオールを動かしていたり?」
マナは冷や汗をかきながらも負けずに声を発する。
そういえばセレフィアがルフィニとレールを「大切な神」と言っていたのを思い出した。
「……私が言ったことですか~?まあ、ルフィニはラジオールの上にいる神でして~、レールは国のトップです~。冴えてますね……」
「そうなんだ……やっぱり……。あなた達は怖い神だね」
マナはルフィニとセレフィアを見つめ小さく声を発した。
「高天原は動かなかったでしょ?動くわけないよね~。レールはそれを知ってて協力するとか言ったかもしれないですけど」
セレフィアは軽く微笑んだ。
「コノ……セカイハ、ヤハリ……崩シテハ……イケナイ。コチラノ世界ノ、リタ……ニホンノヨウナ、セカイガ理想。タクサンノ『K』、コレヲノゾンデイル。向コウノ『K』ノヒトリヲ、タスケルコトハ、デキナイ」
ルフィニはマナにキッパリと言いきった。
「それが次元の神、ルフィニさんの答えなんだね……」
「ソウ……」
「でも、漆の世界があることを感づかせるように私に言ってきたということは完全に否定的ではないんだよね?それとも心で迷ってる?」
「……」
マナの言葉にルフィニは黙りこんだ。




