変わり時…4狂う世界10
クロノス、リョウがゆっくり顔を海側に向けた。
「来たよ」
そして静かにつぶやいた。
マナ達は高い神力に押し潰されそうになったが先程のリョウの言葉を思い出し、顔をあげて現れた神を見据える。
「剣王……」
マナは現れた神の影を睨みつけながら小さく唸った。
「ついにここまで来るとはねぇ」
現れた剣王はひどく冷たい目をしていた。
彼は弐の世界に飛ばしたはずだが平然とここに現れた。
「ああ、そうでした。この世界も弐の世界でしたね。弐の世界を渡って来たんですか?」
神力をあまり感じていない健がのんきに尋ねた。
「弐に飛ばされた後、それがしに賛同したKから弐を渡れるKの使いを借りただけだ」
「なるほど、まあ、一般的なKはこちらを守ろうとしているんでしょうね」
剣王に健は頷きながら答えた。
「剣王、私を止めに来ても意味ないよ。私はもう決めたから」
マナは冷や汗をかきながら剣王を見据えた。剣王は恐ろしいほどに冷酷な表情で見下ろしていた。
「次は逃がさない。それがしはこちらを守る番神だからねぇ。脅威は取り払わないと」
「そ、そんな簡単に死ぬわけにはいかない」
マナがそう言い放った刹那、剣王が抜いた刀がマナをかすめた。
マナは偶然避けるとその場に尻餅をついた。
「うっ……」
マナは呻きながら剣王を見上げた。
「お前……」
驚く剣王の声が聞こえた。マナは剣王が自分の腹辺りを見つめていることに気がつき咄嗟に腹に目を向けた。
「なっ!!」
マナは目を見開いて自分の腹を触った。運良く避けられたと思ったのは間違いで剣王は外してなどいなかった。自分の腹は真っ二つに斬られていた。しかし、痛みはなく、なぜか斬れてもいない。
どういう状態なのかマナも判断がつきにくかったが電子数字の淡い緑の燐光が腹を繋いでいる。
「お前……血はどうした……」
動揺の色を見せた剣王はマナに小さく尋ねた。
「……なんで?これ、何?」
マナが説明できるわけもなく、困惑しながら剣王を見返した。
斬られたと思われる腹からは緑の燐光と同時に電子数字が血の代わりに下に静かに落ちている。
「マナさん!?」
健が世にも奇妙な現象に目を丸くしながらとりあえず名前を呼んでいた。その後、「あ、あの……傷が……」と怯えた表情で問うのでマナは恐る恐る腹を触る。
「塞がってる……」
気がついた時には電子数字は消えて元に戻っていた。
「ちっ……」
剣王は明らかな舌打ちをしてイラついていた。
「マナさん、あなたはアマノミナヌシ神のデータを……」
「え?何?」
黙って見ていた健の娘あやがマナをなめるように眺めはじめた。
「アマノミナヌシか。レール国だとラマァヤル神と言う。なぜ、お前がそのデータを持っている?」
あやの発言にクラウゼの目がゆっくり細められた。
「し、知らない!知らないよ」
マナは突然まくし立てられて戸惑いながら否定した。
「……なるほど、未来が変わったようだね。アマノミナヌシ神はマナちゃんに協力するようだ。逆にマナちゃんに協力しない神々もアマノミナヌシ神が力を貸している」
「!?」
ひとみが金色に輝き出したリョウがマナをじっと見据えて何かを見ていた。少し先の未来を見ているようだ。
「クラウゼ君。今すぐマナちゃんを守れ」
リョウが立ち尽くしていたクラウゼに突然言い放った。
「なんだと!」
クラウゼは当然ながら動揺の声をあげた。
「現在の彼女は人間の中に埋め込まれたアマノミナヌシ神だ。いつそのデータをもらったのかわからないけどマナちゃんは世界の行く道を示している。だが、世界は単純じゃあない。現段階で世界改変を望まない者がいる。まあ、それもアマノミナヌシ神のデータ。つまり、天秤だ。世界は真ん中だ。まだマナちゃんを消させるわけにはいかない。だから先にアマノミナヌシ神にコンタクトをとれた者の勝ちだ」
リョウはきっぱりとそう言った。
「ちょっと待て!俺はマナに加担するわけではないぞ」
クラウゼは慌てて声をあげた。
「それはわかっているけど、ここでマナちゃんが負けるのはよろしくないんだ。なぜかと言うとアマノミナヌシ神がマナちゃんにも力を貸しているからだよ。世界はまだ迷っているようだ。結論が出ていない」
リョウは少し先の未来を見据えて話をしているようだった。
「で、剣王の方はこのままを望むアマノミナヌシ神のデータがあるわけか」
「そういうこと。やっぱ簡単じゃない」
クラウゼの言葉にリョウは軽く頷いた。




