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変わり時…3時の世界17

「やあ、また会ったね」

弐の世界から健のハムスター、マッシーに連れられて高天原西に到着したマナ達は早々に声をかけられた。


「お前……また……」

突然現れた姿にプラズマがため息混じりにつぶやき、頭を抱えた。

マナ達の前に野球帽を目深に被った少年、リョウが立っていた。


「リョウさん、また私達を止めに来たの?」


マナは警戒しながら尋ねた。ここは西の剣王の領土だが剣王がいる城までは遠い。少し先に堂々と建つ天守閣が見える。辺りは日本家屋が建ち並ぶ落ち着いた田舎の風景が広がっていた。ワイズの所とは大違いである。


「こちらの世界が君を異物と判断した。このまま剣王の所に行ったら殺されるよ」

リョウは真剣な顔でマナを見据えていた。


「そんなことわからないよ」


「マナちゃん、剣王はKのワイズにはできない業務を担っている。あの神はこちらの世界のボディガードの一柱だ。君は自分の命を捨てにいくのか」

リョウの言葉にプラズマがぴくんと眉をあげた。


「なんか知ったような口だな?マナが死ぬ未来でも見えたか?」


「僕は忠告をしにきただけだ。世界のシステムの一柱として。クロノスとしてじゃない」


「ふーん。つまりあんたも世界改変時に記憶を失っていない神のひとりってか。未来見で予言しにわざわざ来たわけじゃねぇと?」

プラズマはリョウを訝しげに見つめた。


「そのとおり。未来も見えるけど、僕の本来はこの世界のバグを神々に気づかせるシステムだ。レール国にいるルフィニと同じシステムが入っているけどルフィニは君を止めなかったみたいだね」


「……止められてもいくよ。向こうでケイちゃんと約束したから」

マナは決意を変えなかった。


「剣王は君を本当に排除するつもりだ。伍の世界に帰るか、こちらの世界に順応するかにした方がいい。警告だ」


リョウは少年にはあるまじき冷たい瞳で感情なくマナに声を発した。

マナは唾を飲み込むと負けじと声を上げた。


「私は負けない。せっかくここまで考えがまとまったのに何もしないわけにはいかないの」


「剣王とワイズは君には協力しない」


「しなくてもいい。私は権力者には頼らない」

マナは冷や汗をかきながらリョウを見据えていた。


「そうか……君は気がついたんだね」

リョウはマナの隣でケラケラ不気味に笑っているマイに目を向けた。


「何を?」

「世界改変は世界中で同じシステムを持ってる特定の神々が関与して行われたってことさ」

リョウは観念したように口を開いた。


「……」


「歴史神に会いにわざわざ剣王のとこに来たんだよね?味方するわけじゃないけど、未来が見える。神々の歴史を管理しているナオは君達の一部分の記憶を剣王の指示のもと消すつもりだ。それは剣王が指示するだけでナオはなんだかわかっていない。これは日本だけがパニックになるやつだ」


リョウの言葉にまたもプラズマの眉が上がる。


「あんた……どっちの味方なんだよ。かなり立ち位置が曖昧だ。わざわざ教えてくれるなんてな」

「僕は真ん中さ。バランスをとっているんだ。偏らないように」


リョウはどちらともない感情を浮かばせ、プラズマを見た。


「……あなたも世界改変に関わった神……つまり、時神も世界改変に関わっている。あなたはそれを気づかせに来たの?」

マナはリョウの顔色を伺いながら尋ねた。


「さあ、どうだろ?」

リョウは今度は子供らしい笑顔で笑った。


「いつも未来がみえるんだよね?少しは変わったかな?」

マナは最初の頃に言われた未来がだいぶん変わっているはずだと思い尋ねた。


「何をしたかわからないけど、君が死ぬ運命が見える」

リョウは目を伏せると小さくつぶやいた。それを聞いたマナの喉がゴクッと鳴る。


「死ぬ……どうして?」

「剣王に君が殺される」

リョウは再びマナに目を合わせるとまた冷たい瞳でそう言った。


「他の未来は?」

「今のところはない。それでも君は剣王の所へ行くのかい?」


「行くよ。未来は変わるんでしょ?また」


マナは冷や汗をかきながらリョウに震える声で答えた。マナの答えを聞いたリョウは深いため息をついた。


「そっか。やはり君はどこまでいってもあきらめないのか。これではっきりしたよ。君にはそういうプログラムが書かれているんだ。世界を掻き回すプログラムが。どうしてそうなったかは知らないけど」


「世界を掻き回すプログラム……」

マナがリョウの言葉の意味を考えているとリョウはさっさと消えてしまった。


「僕は君を助けないが見届けるよ」

リョウは最後にその一言だけ残した。


リョウが消えた後、静かな風がマナの頬を通りすぎていった。


※※


「あいつ……一体何がしたいんだよ……」

リョウが去ってからプラズマが不安げな声をあげた。


「うーん……ま、とりあえず剣王のとこに行きます?」

健が頬をポリポリかきながら首をかしげた。


「そうだね。行こうか。私が死ぬ運命って気になるけど」

「お前が剣王に殺されると……ふふふ……」

マイはマナを見ながら不気味に笑っていた。元々まともな神だとは思っていなかったがマイはかなり変わっている神だ。


「あんた、ほんとに剣王のとこに行くのかよ」

マイを横目で見たプラズマはマナに心配そうに尋ねた。


「行くよ。今みたいに運命が変わる事があるから。もう、ここまできたらやるしかない。死なないように気をつけるしかないよね」

マナは困惑した顔で軽く笑った。


「剣王に会わないように歴史神に会えればベストなんですけどね」

健がため息混じりにつぶやいた時、遠くでこそこそ歩いている人影が目に入った。


「ん?」

「あいつ……っ!」

隠れながら歩いていたのはここにいるはずのない神、時神のアヤだった。


「アヤさん!?なんでここに?」

マナは自分の目を疑ったがどうみてもアヤだった。

アヤはこちらに気がつく事なく民家の陰に隠れながら剣王の城へと向かっていった。


「アヤ、何しに来たんだよ……。剣王に用があるならあんなこそこそしないしな。お忍びでここに来たのは間違いない」

プラズマは深いため息をつくと去っていったアヤを訝しげに見つめた。


「とりあえず、私達も剣王の所へ行こう!」

マナは皆を軽く見回すとアヤ同様に民家の陰に隠れながら剣王の城を目指した。


……時神も世界改変に関わっている……。


マナはアヤが現れたのは偶然ではないと思っていた。

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