変わり時…3時の世界9
蛭子神にひとつ頭を下げたマナとプラズマはそそくさと社長室から出た。
部屋から出ると呑気に健がこちらを向いた。
「ああ、終わったんですか?」
「お前は気楽でいいよなー……」
プラズマが呆れた顔で健を横目で見ながら言った。
「話が終わったんなら一緒にお茶でもする?」
まったく状況の理解ができていないエビスがニコニコ笑いながら話しかけてきた。健との会話が思ったよりも楽しかったようだ。
「いや、そんなことをしている暇はなくなった……」
「これから東と西の権力者に会いに行かなくちゃならないの」
プラズマとマナは複雑な顔で健とエビスを交互に見る。
「そうですか。じゃあ私もついていきます」
健が頷きながら顔を引き締めた。雰囲気で何かを察したらしい。
「なんだ。もう帰るの?ま、いいけどぉ。お帰りならあそこのエレベーターから降りてね」
エビスがなんだかつまらなそうに来たときに使ったエレベーターを指差した。
「エビスさん、またお話しましょう」
健はにこやかにエビスにそう言うとエレベーターのボタンをすばやく押した。
「ま、とりあえず、案内ありがとな」
「ありがとう。エビスさん」
社交辞令的にプラズマとマナも笑顔を向けといた。
エレベーターが来てドアが開いたので三人はエレベーターに乗り込んだ。
「あ、下まで送って行こうか?」
エビスのいたずらっぽい笑顔と声に社長室から蛭子の厳しい声が飛んだ。
「エビス!遊んでないで仕事をしなさい!」
「はーい……。パパがうるさいからここでね?なんかよくわかんないけど、うまくいくといいね。じゃ」
エビスがそっと手を振った時、エレベーターのドアが静かに閉まった。
下降していくエレベーターの中でマナは気難しい顔をしていた。
「うーん……エビスさん、いい神だったね」
「あの子は何にも考えてないんだろ……。ああいう神こそのほほんと生きていて現世に適度に幸福をもたらしているんだ。幸せな立場だぜ」
プラズマはこれからの事を考えているのかどこかやくざれていた。
「ところで……先程から顔が曇ってますけど……どうしたんですか?」
健がプラズマとマナの顔色を窺うように尋ねてきた。
「お前な……東と西の権力者を説得しにいかなきゃならなくなったんだぞ。その重みがわからないのか……」
「実際に会った事がないのでなんとも……」
「はあー、気楽だな……ほんと」
プラズマが呆れたため息をついた刹那、エレベーターのドアが開いた。どうやら一階についたようだ。
「うまくいかなかったら戦闘になるかもしれないんだぞ」
プラズマがロビーに足を踏み出しながら健に再び口を開いた。
「戦闘……ですか……。私達Kは戦闘を好みませんが……平穏にいくよう尽力しましょうか」
健はあまり必死な感じもなく淡々とロビーを歩き始めた。
「なーんか、あいつ、他に秘密持ってそうだよな」
プラズマがマナにこっそり耳打ちすると健を追いかけ歩き出した。
「私はこの世界自体が秘密だらけのような気もするんだけど……」
マナも小さくつぶやくと歩き始めた。
ロビーを出てから和風な庭を通り過ぎ、先程の門前までやってきた。これからのプランとしてはまず、時神のアヤに会い、太陽神のトップサキに連絡を入れてもらう。それからサキとコンタクトを取りワイズの側近、天御柱神を説得するという方法だ。
プラズマは現世に行くべく鶴を呼んだ。
鶴はまたすぐにやってきた。駕籠を引き華麗にマナ達の前に降り立った。
「よよい。今度はどこへ行くんだよい?」
鶴は先程の鶴と変わらない鶴だった。
「現世だ。場所は後で指定するからとりあえず現世に飛んでくれ」
プラズマは鶴にそう注文するとさっさと駕籠の中へと入り込んだ。その後、マナと健を手招いた。
「プラズマさん、本当に私にがっつり協力してくれるんだね」
マナは駕籠に乗り込みながら不安そうにつぶやいた。
「何今更不安げな顔してるんだ。俺は未来神だが未来を見続けるんじゃなくて変えられたら面白いなと思ってるだけだ。あんたがその変えてくれる珍しい神だから協力しているんだ。邪な考えとかは全くないぞ」
「マナさん、神なんてみんなこんな感じですよ」
駕籠に乗り込んだマナの横に健が入ってきた。
「まあ、神なんてこんなもんだが……Kは本当にわからないな……」
プラズマが健をちらっと見るが健はきょとんとした顔を向けていた。
三人乗り込んだのを確認した鶴はきれいな白い翼を広げ、再び空を舞った。
****
行き道と同じように宇宙空間のような部分を通り過ぎ、現世にたどり着いた。
慣れてしまったのか行き道よりも早く感じた。
「はい、ついたよい?」
あっという間についたので鶴の声を聞き逃すところだった。
「帰りはなんだかあっという間な感じがしたな……」
プラズマが地面に駕籠がついたことを確認してから駕籠から降りた。
「よし……。大丈夫。アヤさんを探すよ」
マナは自分にそう言い聞かせながら深呼吸し、駕籠から出た。
健はなんとなくついて降りてきた。
鶴は三人が降りたのを確認すると一礼してからまた飛び去って行った。
「早いな……もう行っちまった」
「鶴さんも忙しいんですよ。しかし、立て続けに呼んだのにすぐに来てくれましたね。どういう仕組みで動いているんでしょうね?」
「案外ワープ能力とかあったりしてな」
健の呑気な発言にプラズマはてきとうに答えながら場所を確認する。
よく見るとどこかの河川敷だった。いつの間にこんなに寒くなったのかわからないが雪が降っている。まったく積もってはいなかったが。
「なんか寒いと思ったら雪が降ってやがったか……。記録的大寒波でも起こってるのか?」
プラズマがため息交じりに白い息を吐いた時、聞き覚えのある声が聞こえた。
「現人神マナちゃんのせいだよ。双方の世界が変な共鳴をしているんだ。健君やレール国の神が向こうへ飛ばされたのもマナちゃんのせいだ。そのせいで天候もめちゃくちゃでついこないだまで暖かかったこの辺が突然大寒波に襲われた」
声の聞こえた方を見ると時神クロノス、リョウが立っていた。
「リョウ!また待ち伏せかよ」
プラズマがうんざりしたように声を上げるとリョウはかぶっていたキャップを深くかぶり、重い口を開いた。
「もう色々動くのを止めた方がいいかもしれない。マナちゃん……君はワイズと剣王に会いに行くつもりなんだろう?このままいくと痛い目をみるよ」
「リョウさん、私達には計画がある。たぶん大丈夫。私が世界をおかしくしているのはなんとなくわかるけど……この世界を昔一度、離した人達がいたんでしょう?私も皆と協力してうまくやってみるから……」
マナは何と言ったらいいかわからなかったがリョウに変わらない考えを訴えた。
「……。ワイズと剣王は絶対に君の意見を聞かない。未来は変わらない。忠告は……したよ」
リョウはどこか寂しそうな顔でその場から突然消えていった。
「……また会いたくない神にあっちまったな……」
「そんなこと言われても困るよね……。選択をあやまらないようにするしか今はできないし……」
プラズマとマナが若干暗い気持ちになっていると健がけろっとした顔で言い放った。
「とりあえず、アヤさんを探しましょうか?」
健の一言でマナとプラズマは少し気分が明るくなった気がした。




