変わり時…3時の世界5
「悪いな。呼んだのは俺達だ」
プラズマは警戒心を解こうと少し友好的に声をかけた。
「んー……あんたら誰さ。竜宮は今日は休みさね」
亀からサバサバした女の声がした。いや、亀がサバサバした女の声で話し始めたようだ。
「亀もしゃべった……鶴もしゃべって……」
マナは怯えるよりも興味津々に亀を見つめた。
「ああ、竜宮のオーナーにちょいと話があってな」
「オーナーに?なんでさね?」
亀は再び警戒のまなざしを向けてきた。
「大事な話だ。あんたには到底理解できない話さ。伍の世界についてだ。わからないだろ?」
プラズマはある程度正直に話した。手に負えないと思わせればオーナーに会えると考えたプラズマの策である。
「……。あたいにはわからないさね。仕方ない……なんか怪しいけどオーナーに話を通してから竜宮に連れて行くか決めるさね」
亀は警戒の色をさらに強めたが、その場で竜宮に通話し始めた。何もない空間をタッチするとタブレット端末の画像が浮かび、パスワードと電話番号を打ち始めた。
高天原は実はとても近未来的であった。現代にはない技術が高天原には普通にあるようだ。それは神々がデータでできている想像物だからかもしれない。高天原も数字化でき、データであるようだ。
「オーナー様……なんだか伍の世界についてお話したいって言う神がいるのですが……」
亀の声掛けに画像が揺らぎ、緑の髪の端正な顔立ちをした青年が映った。
頭には龍のツノのようなものが刺さっており、着物を着ていた。
「……なんだ……突然に……。ん?お前は未来神か……あとは……レール国を結ぶ使いと……ずいぶんと不思議な神力を持つ女性……だな……?」
オーナー天津彦根神はプラズマと健とマナに目を合わせて眉を寄せた。
「そうだ。彼女は伍の世界から来た現人神だ。あんたに話があるのだが……実際に会うと神力に当てられて辛くなりそうだからこの場で話してもいいか?」
プラズマはどうせ話すならこのまま話してしまえと思ったようだ。伺いながら尋ねた。
「……ふむ。私に何の用があるか知らんが……何か訳ありのようだな。話だけなら聞いてやる。今日は手が空いている故な」
オーナー天津は厳しい顔つきのまま、腕を組んで部屋にある椅子に腰かけた。
「やっぱり竜宮天津は話を通しやすい……。ほら、マナ、チャンスだ」
プラズマは小声でマナに合図を送った。マナは突然の対話に怯えながら頷いた。
「あ、あの……突然でごめんなさい。伍の世界についてはご存知でしょうか?」
マナはかしこまりながら片言で敬語を使い尋ねた。
「伍の世界……あるかどうかも知らんが耳にはする程度だ。お前はそこから来たというのは本当か?」
天津は逆に尋ねてきた。
伍の世界にいた神々とは違い、何か雰囲気が違うのを感じた。この世界には神力というのがあるらしい。目を合わせているだけでどことなく恐怖を感じる。
先程プラズマが言っていたことを思い出し、なるほどと納得した。
……こちらの神々は向こうの神々とは違う……
「はい。私は伍の世界から来ました。向こうにいるスサノオさん、アマテラスさん、ツクヨミさんはご存知でしょうか?」
マナが恐る恐る質問を重ねた。
天津は一瞬驚いた顔をしていたが再び表情を元に戻した。
「……知ってはいるが……会った事はない……はずだ」
天津はどことなく煮え切らない答えを出してきた。自分の記憶に自信がなさそうだ。
これは少し前に歴史神ナオが起こした記憶の置換事件のせいである。そのことを今のマナ達が知る由もない。
「……Kという人物達がいることはご存知ですか?」
「……それは知らない」
「そうですか……」
天津はほとんど向こうの事を知らず、Kの存在も知らないようだ。マナは一から説明しても理解してくれるかどうか怪しいと思った。この神はKである健のこともレール国を結ぶ使いとしか思っていない。元々、Kを理解しようともしていないことはあきらかだ。
そもそも伍の世界というものも幻のように思っている。こちらの世界で伍の世界を少しでも知っている日本の神々はいないのか……。
「こちらの話ではないそういう話ならば私はほとんど知らない。知っていそうな神へアクセスしよう。……天界通信本部の社長蛭子神に会いに行ってみるといい。私が話を通しておこう」
天津は困っているマナに道を示した。
天津はそれ以上話をする気はないようだ。こちらの世界以外の世界の事を考えている余裕も内容の理解もする気がないのは明らかだった。
「蛭子神……三貴神のお兄さんですねぇ」
健がふむふむと頷いた。
「……じゃああなたは協力してくれないのですね?」
マナが天津にうかがうように尋ねた。
「協力も何も私はほとんど知らないのだ。私はここから動くわけにはいかないので実際に伍の世界とやらに行くわけにもいかない。すまないな」
「そうですか。わかりました。とりあえず、蛭子神さんに会ってみます」
話が進まなそうなので天津との会話は一旦終わることにした。
「では、連絡を切る」
「……はい」
なんだか納得がいかなかったが天津はさっさと通信を切った。電源が落ちるように画面が暗くなりアンドロイド画面も消えた。
「はい、一応つないださね。もういい?」
通信が切れてから亀が面倒そうにつぶやいた。
「……ああ、もういい」
プラズマが亀に答えた後、そっとマナを見た。マナもプラズマを仰いだ。
「蛭子神さんにとりあえず一度会いに行く。天津さんは私達に協力的じゃなかったから」
マナが少し残念そうに肩を落とした。
「ま、あんなもんだ。皆きっと協力的じゃないぞ。だが、天津はなかなか良心的だった。普通は会話にもならず、権力神達につないでくれるなんてまずありえないんだ。だが、今回は珍しく同じ権力神に連絡とってくれた。これはレアだ」
プラズマはこちらでの常識をマナに語った。
「……そうなんだ。じゃあこれも一応協力してくれたって事なのかな……」
「そういう事だな。俺は蛭子神に会うのは初めてだ」
プラズマはマナの肩を軽く叩くと再び鶴を呼んだ。
「私は蛭子神の娘さんエビスさんには会った事ありますよ。彼女はレール国の公報もやっているレールさんと仲がいいんです」
健の言葉にマナは少し目を輝かせた。
「レール国と少しでも関わりがあるなら話が少しはわかるかもしれないね」
「話を聞いてくれるだけでも良しとしてくれ」
プラズマは伸びをしながらぼうっと海を眺めた。
「うん。まあ、今はそれでいいか」
マナが軽くため息をついた時、鶴が空を飛んできていた。




