変わり時…2向こうの世界17
先程までふわふわしていたがなんだか地面に立っているような気がしたのでマナはそっと目を開けた。
「!」
目の前には古びた洋館がひっそりとあった。辺りは森で真っ白な霧がかかっている。
「って……ここは!」
「天記神の図書館?」
以前、弐の世界に行くのに現世の図書館から神々の図書館へ足を運んだことがあった。
その神々の図書館にいたのが天記神だった。
「いや、ここは違いますよ。似ていますけどね。なつかしいなあ」
驚いているマナとプラズマに健がほほ笑みながら答えた。
「ここはクロンルーレとレール国を繋いでいる図書館だ。この神々の図書館からパンテルーレのレール国の書庫へと出られる」
「『くろんるーれ』とか『ぱんてるーれ』ってなんだよ……」
「日本語で弐の世界、壱の世界だ。壱、弐、参、肆、伍、陸はラトゥー語でパンテ、クロン、エフェン、アドレ、ファメト、モニアだ。ルーレは世界だ」
クラウゼは久々に戻って来ることができたので心なしか弾んでいるようにも見える。だいたい、彼は日本語が達者であるのにわざわざラトゥー語を使う必要はないはずだ。
「世界観が変わるとわからねぇなあ……」
プラズマはクラウゼの説明に頭を抱えた。
「とりあえず、行ってみようよ」
マナはうずうずしながら洋館の扉を眺めていた。
「あんたはほんと、すぐに興味が移るんだな。だから異世界のような世界に来ても平然としていられんだ」
プラズマは眉を寄せつつ不気味な洋館の扉を見据えた。
「では行きましょうか」
健とクラウゼが洋館に向かい歩き出してしまったのでプラズマとマナは慌てて追いかけた。
クラウゼが静かに洋館の扉を開けた。
「セレフィア・イルサーゼ……俺だ。バーリス・クラウゼだ。ファメトルーレにいたが帰って来れた……」
クラウゼは中にいる者が驚かないようにそっと声をかけて図書館内へ入った。
「あんたの態度からすると……ここの図書館の神は女か?」
プラズマが中に入り込むと沢山の本棚に収められている山ような本の他、銀髪のツインテールの少女が目に入った。中には彼女しかいない。おそらくセレフィア・イルサーゼと言う書庫の神なのだろう。
格好はかなりエスニックだ。独特の民族的模様の入った袖口の広いワンピースのようなものを着ている。そして頭には特徴的な柄の書いてある布のようなものを被っていた。
とても不思議な格好だ。これがこちらの神々の正装であり普段着なのか。
「ん!クラウゼさん?今、リタ語で話していましたねぇ?じゃあ、私もリタ語ではなそーっと。」
銀髪の少女、セレフィアは読んでいた本を元の場所に戻すと可愛くほほ笑んだ。
それから後ろに佇むマナ達に目を向ける。
「健はわかりますけど~後ろの方達は誰でしょう?お客様?」
「あ、私はマナって言います。日本出身です……。」
誰何されてマナは慌てて自己紹介をした。
「え?あ、俺はプラズマで……日本の時神でー……。」
プラズマも緊張しながら答えた。
「プラズマさん……郷に入っては郷に従えです……。」
健に言われ、プラズマはさらに動揺した。
先程、伍の世界の図書館でクラウゼがマナにやったようなことをしなければならないのか。
「いいですよ~。日本神だけではなく他の神もこの挨拶は知りませんから~。」
「そうか……良かった。」
セレフィアの言葉にプラズマは安堵のため息を漏らした。
「セレフィアさん、レール国へ入りたいのですが……。」
健がセレフィアに遠慮がちに聞いた。
「我が国ですか~?いいんじゃないでしょうか?日本神さんはびっくりするでしょうね~。レール国の人間はレール国の神が見えるんですから。他の国の神様はさっぱり見えませんけど~。」
「ん?」
セレフィアの発言にプラズマは眉を寄せた。




