変わり時…2向こうの世界13
マナとマナに肩を貸してもらっているプラズマは健とクラウゼを連れて先程の病院前まで戻ってきた。ケイは先程いた場所にはいなかった。中庭のベンチは現在誰も座っていない。
だがベンチの一つに「複本」と書いてある手書きの絵本が置いてあった。
マナ達は気になってそのベンチに近づいた。ベンチの上には「レール国物語」の絵本が誰かを待っていたかのようにひっそりとあった。
「これは……図書館にあったものと同じものですね。あれは手書きの本だったのですがもう一冊ありましたか。」
健が絵本を手に取り、てきとうに開いた。すると一枚の紙がひらりと飛び出してきた。
「ん?これは……。」
プラズマが拾い上げて小さな紙きれをまじまじと見つめる。
紙には「503」と書いてあった。
「……暗号か?」
クラウゼが眉を寄せながら紙を凝視していたがマナにはすぐにわかった。
「あの……これ、きっとケイちゃんの病室だと思う……よ。」
マナの言葉に一同はなるほどとうなずいた。
「普通に考えれば五階の三号室とかそんなところか。行ってみるか。」
プラズマが皆に確認を取った。
「うん。」
マナが返事をし、クラウゼも健も軽く頷いた。
一同は面会と偽り、病院内に入り込んだ。寿命を失くしたケイも一般の患者と同じように普通の病室にいるようだった。
本当に503にいるのかそれとなく看護師に確認してみると確かにケイはいた。以前と病室が二、三回移動になったようだが一人部屋との事だった。
五階の三号室、階段から三番目の部屋が三号室だった。
マナ達は顔を見合わせて小さく頷き返すと静かにドアを開けた。
「いらっしゃい。やっぱり来たんだね。」
ケイはすべてを予想していたかのような発言をした。
マナ達は病室へと足を踏み入れた。部屋は二十年前とさほど違いはない。ただ、以前いたハムスターではなく、また別のハムスターが一匹ゲージに収まっていた。
ハムスターはせいぜい二、三年が寿命だ。あの時のハムスターが生きていたならなかなかにホラーである。
異様な彼女の周りでも常識は常識のようだ。
他にあるものは机とベッドと例のパソコンしかない。
「私は時から忘れられた存在。時間や人の流れが波のように私をすり抜けていくの。私は向こうの世界でいう……時神のようなものになれたのかもしれない。」
「そうかもな。あんたはこちらの世界の流れや時間をずっと見ていられる。人の信頼を得られていればメンテナンスしてもらえるからずっとそのままだな。俺達時神が人から信仰を集めて生きているのと同じだ。」
ケイの言葉にプラズマは軽く頷いた。
「それで……後ろの人達はKの男の人と……レール国の人?」
ケイは別段驚く風でもなくそう尋ねた。
「そうだ。よくわかったな。」
プラズマがやや皮肉めいたようにケイに言った。
「いる事は知ってた。でもこの二人は私に気がつかなかった。私も気づかれたくなかった。あなた達が私に接触する理由は一つ。向こうへ行きたいって事。私が向こうへ行かせたらこちらで作ったせっかくの幻想がなくなっちゃう。」
「じゃあ……。」
マナが少し残念そうにケイを見据えた。しかし、ケイはマナが思っている答えを口にしなかった。
「けど、私はあなた達に賭けてみることにした。絵本を使って呼び出したのもそのため。あなた達はこっちも向こうも両方のコードを持っている。だから……。」
ケイは机の上にあるノートパソコンを持ち出し、そっと開いた。
「皆で私達を……こっちの人間を救って。」
ケイは決意のある瞳でこちらを見るとパソコン画面をマナ達に見せた。
刹那、ケイの足元から五芒星が現れ、魔法陣のように回った。
飛ばされそうなくらいの強烈な風が吹く。その風はパソコンの画面から吹いているようだ。まるでブラックホールの様にマナ達を引っ張る。
「な、なんだ!これは!」
健とクラウゼは突然の事に驚き、叫んだ。
マナとプラズマは向こうの世界の門が開いた事を知っていたのでそこまでは驚かなかった。
マナ達は電子数字に分解され、徐々にパソコン内へと引きずり込まれていった。




