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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
最終部「変わり時…」未来に逆らう神
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変わり時…2向こうの世界9

 「おい!マナ!悪かった!大丈夫か!」

 ふとまたプラズマの声がした。マナはゆっくりと目を開けた。マナはびしょ濡れのまま地面に寝かされていた。


 「ん?」

 ゆっくり起き上がってみると目の前に池があった。後ろを振り返ってみるとツクヨミ神社の社が堂々とそびえたっていた。


 「……あれ?」

 「無事だったか……。」

 天気は快晴で太陽が照っているのにプラズマの顔はやたらと沈んでいた。


 「う、うん。生きているみたい……。それよりもなんで昼に?」

 マナはここに飛び込んだ時に夜だったことを思いだした。


 「さあ?よくわからないが時間が通り過ぎたようだ。」

 プラズマは安堵のため息をつくとその場に腰を落とした。

 プラズマの髪からも水が滴っている。ふたりはなんだかわからないが元の場所に戻ってきたようだ。


 「一瞬だけ不可解なものを見た気がするけど……夢じゃないんだよね?」

 「夢じゃないな。あれは……まあ、色々あった時の未来だ。」


 プラズマが言葉を濁したのでマナはそこから強く聞いたりしなかった。第一おそらく聞いてもわからない。


 これは時神アヤが時神になる時に起こる事件なのだがそれをマナが理解できるはずはない。


 しばらく戻って来る事ができた余韻に浸っていたがそれもすぐに壊れた。

 目の前からレティとアンが歩いてきたからだ。


 「え?」

 しかし、マナはレティとアンを訝しげに見つめていた。


 「ん?どうした?」

 プラズマもマナの目線に気がつき、目を社付近へと向ける。


 「……本当にレティとアン……なの?」

 マナは何度も二人を見た。二人はお化粧をしており、少し大人びていた。そして腕にはそれぞれ子供を抱いていた。


 「……あれはあの二人のガキ共か?おかしいな。あの子達は高校生だったはずだぞ。」

 レティとアンだと思われる女性達はマナ達には気がついていないようで楽しそうにおしゃべりをしていた。


 「アン、あんたの子、検診は?」

 「ああ、人工臓器の?大丈夫だった。この子に病気なんてしてほしくないもん。」

 アンは腕に抱く子供に頬ずりをしていた。


 「うちも平気だったわよ。旦那は肝臓のメンテナンスしてるけどね。飲みすぎなのよ。」

 レティはいたずらっぽく笑った。


 「人工臓器ってしかしすごいよね。魔法みたいだ。」


 「そうねぇ。魔法か。昔はよくこんなとことか来て怪現象だ!五芒星だ!なんて言ってたけど今はそんな事考えている暇もない。」

 アンとレティは神社の社を眺めて、しみじみ思い出すように言葉を発していた。


 「そりゃあねえ。だってうちら今年で三十だよ。子供だって二人目だし。」

 アンは楽しそうに笑っていた。


 「私はまだ一人目ですぅ!ついこないだ結婚したんだもん。もう一人くらいほしいけど高齢出産が心配。」

 レティがため息交じりに子供の顔を見た。


 「大丈夫じゃない?レティのソウハニウムの指数結構高いじゃん。」

 「それだけじゃないでしょ。血液とかそういうのでも老化は来るんだから。まあ、そのうち、血液もなくなるんでしょうけど。」

 レティとアンはそんな会話をしばらく続けると再び歩き出した。


 そこで茫然と立っているマナとプラズマに出会ってしまった。


 「あれ……あなた達は……ずいぶん前に……。」

 レティとアンは急に顔色を悪くした。不安げな声がマナ達の耳に届く。


 「あ、えっと……その……。」

 マナは自分が取り残されたような気がしていた。何を話せばいいかわからない。


 「全然外見変わってないんだね。そうか。君は妄想症の治療で人口臓器とか入れたのかな。」

 「成功例は年を取らないっていう……。」

 二人は口々にマナのわからない事を言う。


 「うらやましいなあ。重度の自己解離性って認められないと手術で保険が下りないんだよね。皆やりたがっているけどなかなかね。手が伸びないよね。」

 「いいなあ。で?完治はしたのかな?」

 二人はやたらと興味津々にマナに尋ねてきた。こないだとは真逆の展開だ。


 「えっと……その……。」

 何も言葉が思いつかないマナはその場でもじもじとするしかなかった。


 「ああ、ごめんね。迷惑だったかな?じゃあ、私達はこれで。」

 「妄想症の予後ってけっこう大変っていうし、ま、まあ、頑張ってね。」

 二人はマナの雰囲気で会話を打ち切り、子供を連れて去って行った。


 「ど……どういう事……?」

 マナは二人の背中を茫然と見つめた後、プラズマを仰いだ。


 「……知らないが……あの子達が三十歳だとすると俺達はこちらの世界の未来へ飛んだ事になるな。」

 プラズマは再びだるそうにしていた。


 「……レティもアンも私の手の届かない所へ行っちゃった……。ケイちゃんは……何しているのかな……。」

 マナは少し寂しそうにしていたがもう割り切ることにした。彼女達は自分をもう思い出さない。ついていけない。


 「ケイって子はアメリカで手術かなんかしてとかツクヨミさんが言ってなかったか?」

 「言ってたけど……なんだか怖い世界。」

 馴染めていない自分がただこの世界に恐れを抱いているのか向こうの世界のデータを持っているらしい自分がこちらの世界に恐怖しているのかわからないがマナはとりあえず怖いと思った。


 「とりあえず……またあそこの病院でも行ってみるか?」

 雰囲気が何も変わらないプラズマは病院にいく提案をしてきた。マナは小さく頷いた。


 『タイムスリップ』、『異世界に行く』とは恐ろしいものでもし、自分が今とかけ離れた場所へ行ってしまった場合、馴染むよりも先に頭がおかしくなるだろうとマナは思った。


 そしてもしかするとそうなってしまった人は自分の命を絶ってしまうかもしれない。


 想像や妄想の世界では主人公はきっと世界に馴染んで当たり前のように魔法とか使ったりしているのだろう。怪現象も受け入れているのだろう。

 マナはもうすでにこちらの世界で馴染める気はしなかった。向こうの世界でもなじめるかわからなかった。

 最終的にはどちらにも馴染めていない中途半端な何かになっていることに今更気がついた。


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