変わり時…2向こうの世界6
石畳付近まで戻り、そこから観光客向けの歩道をまっすぐ進むと再びビル群の中へ入った。
「えーと……このビル内にある創作うどん屋さんがおいしいよ。安いし。」
マナがガラス張りの高いビルを指差した。
「ほお。創作ねえ。想像に乏しい人間達が何を作るのか興味はあるな。」
プラズマはビルから出たり入ったりする人間達を茫然と眺めながらつぶやいた。
「想像に乏しいって言ってもちゃんと想像してるから。ゲームだって漫画だって想像の塊みたいなのもちゃんとあるし。ただ、誰も憧れたりしないだけ。お話が面白ければ人気出るけどそこから先の想像はない。そういう系の人達は国家資格みたいなものだから一般人が安易にまねしたりしないの。」
「ははっ。そういう想像を振りまく職業が国家資格だと?なんだそれ。つまりなんだ?妄想症ってやつと隣り合わせだから特殊な人間しかできない職って事なのか?危険を伴うとか?」
プラズマは思わず笑いだしてしまった。
「な、なんで笑うの?その通りだけど……。」
マナは突然笑い出したプラズマを不思議そうに眺めた。
「不思議な事だな。向こうじゃアマチュアでも趣味でも自作の漫画や小説、ゲームなんてふつうに作っているぞ。誰でも自分の世界を持っていればできる事だが、そうか、こっちだとそんな風になってやがるのか。」
「うん。向こうだと違うんだね。」
マナとプラズマはそんな話をしながらビルの中を歩き出した。一階部分は喫茶店だったがそこを通り過ぎ、エレベーターで五階を目指した。五階はお食事処が固まっている階だった。
その一角にあるうどん屋さんにふたりは入った。幸い四時過ぎだったのでピークは過ぎていてスムーズに入れた。
プラズマが席に座りメニューを開くとそこには多彩な創作うどんが写真付きで載っていた。
「……おお。確かに考えられて作られてそうだ。」
「そうそう、味のバランスとか彩りとか計算されて作られているからおいしいの。ここの説明によると人の舌にある味蕾でうま味を感じる部分と塩味と甘味、酸味、そして痛みに分類されるみたいだけど辛味をうまく調節してそれぞれ個人に合わせた好みのうどんを作ったんだって。最初に何の味が来るのかそれも計算に入れられていて……。」
「ずいぶんと的確に創作してやがるんだな。」
プラズマは若干うんざりした顔でメニューを眺めた。
「私はいつもここに来るとこの……シンプルなキノコうどんかな。」
「ふーん。じゃあ俺はこれ。かき揚げうどん。」
「じゃあ、頼むね。」
マナは呼び鈴を押して店員さんを呼ぶと素早くうどんを頼んだ。頼んですぐにうどんが出てきた。
「……早い……。」
「早さも売りらしいよ。」
ふたりは「いただきます。」と手を合わせるとそのまま食べ始めた。
「お!こりゃうまいな。……だが、なんだか完璧すぎて寂しい気もするな。味に雑味がまるでないんだ。いや、確かにうまい。うまいんだが……。」
「雑味がない……か。」
マナも頼んだうどんを改めてすするが特に違和感を覚える事はなかった。
うどんを食べ終えたふたりは満腹になり満足をし、そのままツクヨミ神の神社を目指し歩き出した。
空はもうすでに薄暗くなっており、会社帰りのサラリーマンが家路につくために歩いている姿や飲みに行く姿などが見えた。
「こうしてパッと見ていると俺がいた世界となんら変わりがないんだがな。」
「……確かに人的には向こうの人間も大して変わらなかったね。」
マナはプラズマを抱えながら再び観光客向けの歩道へ出た。
暗くなるにつれて観光客はいなくなっていた。静かでほぼ誰もいない歩道を軽く息を弾ませながらマナは歩いた。
「……なあ。」
ふとプラズマがマナを呼んだ。マナは歩みを止めずにプラズマの方を見た。
「何?」
「俺、なんかヤな予感がするんだ。あ、ツクヨミ神の神社を調べるのが嫌なんじゃないぞ。ただ、その後だ。何も未来は見えないが予感はする。」
「……。」
プラズマの言葉にマナは息を飲んだがどうしようもないので歩みは止めなかった。




