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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
最終部「変わり時…」未来に逆らう神
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変わり時…2向こうの世界5

 マナに肩を貸してもらいながらプラズマはなんとか病院の外に出る事が出来た。総合受付を通り過ぎて中庭を通り過ぎて駐車場を通り過ぎてようやく病院外だと感じた。


 「ふぃー……マナ、助かった。」

 「うん。大丈夫。妄想症ってああいう風になるんだね。でもケイちゃん、なんだかかわいそうだった。

私がなんとかできるならなんとかしてあげたい。……けど……。」

 マナはリョウが見せた未来を思い出し、口ごもった。


 「あんたが世界を繋げると戦争が起きるし、ケイって女の子は両親と三人で暮らしたいと思っている。だからケイって女の子を向こうへ連れて行く事はできない。両親が向こうへ行く段階で消滅してしまう可能性があるから……ってか。」

 プラズマはマナに代わり続きを確認するように話した。


 「そういう事だね。でもこちらの世界で苦しんでいる子を助けてあげたいの。」

 「あんたは立派な現人神だな。俺、今さ、あんたがこちらの世界で救いの手を差し伸べて神力を上げたらいいんじゃないかって思ったんだが、万が一信じる人間が増えたとして向こうの世界と融合したらまた戦争が起きるのか?」

 プラズマはマナに抱えられながらとりあえずあてもなく歩き出した。


 「そんなのわからないよ。またリョウ君に聞かないと。……ケイちゃん達を救うためにはどうすればいいか、とりあえずツクヨミ神さんに会いに行ってみる?」


 「そうだな。俺は歩くのも精いっぱいだし、もう行くところもないから行ってみよう。」

 「じゃあ、そっちに向かうよ。」

 マナはツクヨミ神が祭られているはずの神社へと方向転換し歩き出した。


 アマテラス大神の神社とは反対の方向にマナとプラズマは歩いて行った。この三社は病院を正三角形に結ぶ感じで建っている。

 以前、レティとアンとマナはそれを学校の図書館で話し合った。


 もうそれも遠い記憶の様に感じる。ついこの間だったのだが。


 「……そういえば、あんた……その眼鏡で一体何が見えているんだ?向こうにいた時にわけわからない事言ってたのを思い出したんだが。」

 プラズマは歩いている辛さを紛らわそうとマナに話しかけた。

 マナは一瞬黙ると目線を前に向けて口を開いた。


 「うん。眼鏡はスサノオさんからもらったんだけどなんか向こうの世界ではこの眼鏡をつけていないと神々が電子数字に見えるの。怖いからこっちの世界でもつけているんだけどこっちの世界ではこの眼鏡でおかしいところはないかな。あ、ケイちゃんのパソコンに出て行く前に電子数字が通ったのを見たけどそれくらい。」


 「ほお。」

 プラズマは不思議そうに眼鏡を眺めた。しばらく他に何か思い出そうと考えていたマナはふと大事なことを思いだした。


 「そうだわ!」

 「うおっ!なんだよ。急に。」

 驚くプラズマに必死な顔を向けたマナは早口に大事なことを話し始めた。


 「そう!アヤさん達の学校にいた時に屋上でこの眼鏡を外したの。そうしたら……この病院と同じように配置されている三つの鳥居が見えた……。そういえばそうだ。あれは眼鏡を外さないと見えなかったんだった。」


 「ふーん……なんか奇妙な話だな。俺、向こうにいた時、あの学校周辺を散策していたんだが神社はなかったぞ。まあ、ちまちました神社はあったが。」

 マナとプラズマは病院の交差点前道路にたどり着き、横断歩道を渡ってビルが立ち並ぶ中を歩いた。


 「間違いじゃなかった。二回くらい確認したから。」


 「そうか……。可能性があるとするなら……世界が分断する前にあんたが見ていた方向に神社があったかだな。つまりあんたは伍の世界に精通しているわけで分断される前の世界と分断された後の伍の世界のデータを持っているわけだ。そこに神社があったという名残をみたのかもしれないな。」


 「名残か……。いままでそんなの見えた事なかったけどあっちの世界は幻想みたいなものだったから見えたのかな。」

 「まあ、俺からするとこっちが幻想みたいなもんだがな。」

 マナにもたれかかって歩くプラズマは自分の情けなさにため息をついた。


 場所や雰囲気は向こうの世界と大して変わらない。変わらないはずなのにどうしてこんなにも違うように見えるのか。


 しばらくビルの中を黙々と歩いていたマナは緑が多い街路樹の方面へと足を進めた。

 真ん中には整備されたオブジェのような浅い川が流れている。


 「ここはまた……避暑地のような所だな。」

 「うん。避暑地と言うかここから先にある歴史的建造物ツクヨミ神の神社の景観を損なわないようにこの辺は観光客向けに整備されたんだよ。」

 「まあ、一応こっちの人間は文化遺産とか歴史とかは大切にしているってか。」

 プラズマの言葉にマナは軽くほほ笑んだ。


 「……観光客を呼んで経済効果を上げるだけだけどね。どこの国の人間も同じだと思うけど自分達の所にないものは見に来るんだよ。興味本位で。」

 「なるほどな。そりゃあ、向こうでも同じだったぞ。」

 「人間の本質は変わらないんだね。……あ、ここだよ。」

 マナは歴史的な雰囲気が残っている木の門がある場所で止まった。


 そこから先は石畳が続いている。


 「ここは石段はないんだな……。」

 「うん。ここはない。さっきの川が流れてた所が石段みたいなものだったんだよ。地味な坂道だったんだ。」

 「そっか。ここも観光客が多いな……。」

 プラズマは自撮り棒で写真撮影をしている海外の人々に目を丸くしながらマナと共に通り過ぎた。


 石畳を過ぎると大きな鳥居があった。その鳥居の奥には細かい造形がなされている社が建っていた。ここももちろん、賽銭箱もなければ神主も巫女もいない。

 当然ながら御朱印ももらえない。


 「ついたよ。プラズマさん、何か見える?」

 「……いや……。社内には何も見えない。しかし……その横にある池みたいなものには神力がわずかにあるな。」

 プラズマは境内にある日本庭園の小さな池を指差した。


 「行ってみようか……。」

 マナは恐る恐るプラズマを抱えながら日本庭園内の池に近づいた。


 「何かを感じるが……今はただの池だな。それよりもなんか腹が減ったな……。何か食べてからまたここに戻ってこようぜ……。」

 プラズマが『疲れた』を全面的に出したような顔でマナを仰いだ。


 「……もう、しょうがないなあ。確かにお腹すいたし……。お金は財布になけなしの小銭が……。」

 マナはポケットから財布を取りだした。中身を確認する。

 千円札が一枚あった。


 「千円か……まあ、二人分くらいなんとかなるかな。っていうか、俺が持っている金はこっちでは使えるんだよな?こっちも円だし。」

 プラズマは思い出したようにポケットから財布を取りだした。中身を見ると一銭も入っていなかった。


 「あ……。よく考えたら俺が持っていた金って未来の金だった。俺、未来から来たんだったよ。つじつま合わせかなんか知らないがないことになってやがる。」

 プラズマは肩を落としてうなだれた。


 「ま、まあ、安くておいしいお店あるから大丈夫よ。私、よくここら辺散歩してたの。安いお店いっぱい知っているから……。」

 マナがプラズマを励ましつつ、再び肩を貸して歩き出した。



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