変わり時…2向こうの世界4
マナとプラズマはアマテラスが心配そうに見守る中、オレンジの世界から真っ暗な世界へと足を踏み出した。
ふたりの顔に少しの緊張が出る。マナのする何かが世界を変えないとも限らない。慎重に動く必要があった。
しばらく黙々と真っ暗な世界を歩いていると、目の前から電子数字のデータが沢山流れてきた。
「沢山の数字が……。」
マナがつぶやいたがプラズマはきょとんとしていた。プラズマには見えていないようだ。
そこでマナは眼鏡をそっと外してみた。眼鏡を外すと電子数字はきれいに消えた。
この眼鏡は確か、向こうの世界の眼鏡だと言っていた。ここで映る電子数字は一体向こうの世界の何のデータなのか……。
そう思ったが確かめるものもなく、とりあえずマナは再び歩き出した。後ろをプラズマが控えめについてくる。
またさらに歩くとマナ達は突然、電子数字に囲まれた。
「ひぃっ!なんか消えてる!」
プラズマの悲鳴が後ろで聞こえた。マナが振り返るとプラズマが透けて消えかけていた。足元から電子数字で分解されている。
「プラズマさん?」
マナも自分の体を見た。マナも透けており、四肢から電子数字で分解されていた。
戻った方がいいか、そのまま進むか考えていたが消えるスピードの方が早く、マナとプラズマは電子数字に紛れて消えてしまった。
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「戻ってきたんだ。お姉さん。」
ふと少女の声が聞こえた。まだ幼い声だ。
……この声……どこかで聞いた事あるような……。
マナがそう思いながら重い瞼を開けた。
目を開けると目の前で黄色いワンピースを着ている幼女がマナを見下ろしながら立っていた。
「き、君は……えっと……そうだ!ケイちゃんだったっけ?」
「そう。もうこちらの世界のKと名乗った方が良さそうだね。」
少女ケイは近くのベッドに腰かけるとパソコンを指差した。
「あなた達はパソコンから突然、ここに飛び出してきた。」
ケイはパソコンを指差した後、床を指差した。ここはマナが向こうの世界入りしたきっかけを作ったケイの病室だった。床では三匹のハムスターのケージが置いてある。
「あっ!プラズマさんは!?」
マナはプラズマを思い出し、探した。またもプラズマを忘れてしまう所だった。
「いるよ。急激に体が鉛みたいになっちまった……。」
マナのすぐ後ろでプラズマが大の字に寝転がっていた。
「プラズマさん……。良かった。……アマテラスさんの神社の先はケイちゃんのパソコンに繋がっていたみたいだわ。本当に信じられない……。私達の世界の裏にこんなことがあるなんて。」
マナは心底驚いた顔でケイの持っているパソコンを眺めた。
「……アマテラス大神の神社からここに来たんだね?彼女達は私の想像の世界にいる事もあるから。」
ケイはほぼ無表情のまま開いていたパソコンを閉じた。
そしてそのままマナ達を見ると静かに口を開いた。
「……あなた達は……私達こちらのKを救ってくれる?」
「え?」
マナは一瞬考えた。考えた後、この子が言っている言葉の本質を理解した。
「そっか。ケイちゃんは向こうへいけないんだったね。あなたが私を向こうへ連れて行ったことで人間が絶滅しちゃうんだって。ケイちゃんは今の状態をなんとかして変えたいから私を向こうへ入れたんでしょ?私は向こうでは異物だったみたい。」
「知ってるよ。」
マナが優しく語りかけるとケイの少女はそっけなくつぶやいた。
「だから私はこっちの世界にいないといけないみたいなんだけど……。」
「あなたが頼りだったのに。向こうとこちらを繋げられるキーパーソンだった。この世界ではもうないはずの結界を私が持っているから平和なあの神々がいる世界と融合したかった。」
ケイの発言でマナは気がついた。ケイはパソコンを撫でながら子供じみた悔しそうな顔をしていた。
「そうか。ケイちゃんが私を助けて向こうとこちらを繋げてしまうんだ。未来が見られる向こうの世界の時神、リョウって子から聞いたの。そうだったわ。私はケイちゃんに向こうの世界へ連れて行ってもらったんだ。ケイちゃんはもしかすると向こうとこちらをつなげられる何かをこれからするのかもしれない。」
「……そんな事できないよ。三貴神に手伝ってもらえばもしかすると繋がるかもだけど。特にアマテラスとツクヨミは向こうの世界の太陽と月に神力を残しているようだから。スサノオも向こうに子供がいるはずだし。」
「……。はっきりしたわ。私はおそらく、三貴神とケイちゃんを使ってこちらと向こうを繋ぐ。リョウ君が『どうやってつなげたかわからないけど』って言ってたけど、こちらの世界の事だったから彼は未来を見られなかったんだ。」
表情のあまりないケイにマナははっきりと確信を持った。
「じゃあ、何もしない方がいいんじゃないか?逆に。」
いままで黙っていたプラズマが苦しそうに会話に入り込んできた。
「せっかくうまくいったのに!なんで世界をつなげてくれないの!」
ケイが突然感情をむき出しにして怒った。彼女はまだ子供だ。感情のコントロールができていない。
「え?」
突然の事にマナとプラズマは固まった。
「世界を繋げてよ!私達、こっちの世界が嫌いなの!私達は平和に生きたいの!こっちでの世界のニュースは戦争戦争戦争!なんで争わないといけないの?なんで戦わないといけないの?なんでこんなに命が軽いのっ!私にはわかんない!」
ケイはあふれだす感情のまま叫び、パソコンを置いていた机を蹴とばした。マナとプラズマはビクッと肩を震わせながらケイの豹変に戸惑っていた。
「なんでよっ!どうしてよっ!パパとママと三人でおうちに住みたいだけなのに!それくらい神様に願ったっていいじゃない!好きなオモチャがほしくて買ってもらえますようにって神様に願いに行ったっていいじゃない!遊びに行くときに晴れますようにってお願いしたっていいじゃない……。なんでダメなの?私がした事ってそんなにおかしいこと?違う!向こうの世界ではおかしくないこと!……うわあああん!」
ケイはついに泣き出した。ケイが泣き出した刹那、病院の先生やら看護師やらが慌てて入ってきた。
「ッ……?君達は?面会者かな?」
ドクターだと思われる男はマナとプラズマに向かって鋭い視線を飛ばした。
「え……?あ、はい。」
マナとプラズマはとりあえず話を合わせて返事をし、なんだか大変なことになってしまった病室からとりあえず外に出た。
「この世界がいけないんだ!平和がいい!Kの友達は皆そう思ってるッ!思っているんだァ!!」
病室内ではケイの言葉になっていない叫び声が聞こえた。
「また始まったか。一応、開発された子供用のものだが……効くか……。」
ドクターの声も聞こえ、安定剤の注射を打たれているケイが見える。
マナとプラズマはなんだか怖くなり、いったん病院外に出ることにした。




