変わり時…2向こうの世界1
僕にはすべて見える……。
いままで起きた事もこれから起こる事も……。
でも僕はそれを黙認する事しかできない。
時神が狂ったシステムに動かされありもしない歴史に泣くのが見えたり……時神未来神のプラズマ君が自然共存派戦争を後回しにしたり……時神過去神の栄次君が時代を変える新選組を斬っちゃったり……そして現代神のバックアップだったはずのアヤちゃんがシステムに縛られた元現代神のこばると君をロスト・クロッカーとして処理してしまったり……。
『時神は自分より強い時神が出てきた時に弱い方の時神はロスト・クロッカーとなり時間が逆流して死ぬ』……偽りの劣化システムを創ってしまった、神の歴史を管理する歴史神ナオちゃんが後悔に泣く所も実は見えてしまった。
……何が正しいのかなんてわからない。
可能性がありすぎると実際に何もできなくなる。
僕が一番すべてを知っているはずなのに……。
今日も僕は子供の姿でリョウという名のクロノスとして存在する事にする。
誰かが運命を変えてくれることを願いながら。
僕はバグを誘発して他のシステム達に世界の在り方について問いかけるシステム。
だったりするんだけど……。
****
ツインテールの少女マナと赤髪の青年プラズマは話しかけてくる男の声で目が覚めた。
「んむ……?」
「お、やっと起きたな。俺だ。覚えてんか?」
妙に渋みのある良い声の男……マナはこの間会った男の顔を思い出した。
ふと目を開けると紫色の髪と甲冑が目に入った。その後、凛々しい瞳を見て夢ではなかったことを悟った。
「あなたはスサノオ様!」
「おお!覚えてたか!」
男は愉快そうに笑っていた。
「スサノオだって!?」
マナと男の会話に未来神プラズマは驚いて飛び起きた。
「おう!俺はスサノオだ。お前、時神未来神だろ?よくここまで来れたな。瞳が黄緑色だぞ。……半分エラーが出ているって事か。」
「ひ、瞳が黄緑色だって?俺は赤色だぞ。」
プラズマは怯えながらマナに目を向けた。マナもスサノオの言葉にきょとんとしている。
「ふっ。俺達もKも表面上の事なんて言ってない。お前の中にうごめいているデータを読んだんだよ。ま、俺達にしか見えないだろうが……エラーが出ている奴は瞳が黄色に、正常のやつは瞳が緑色に見えるんだ。ちなみにマナ、あんたは黄色だ。世界からはエラーだと認識されている。面白い事だ。」
「なんだかわからないが面白くないぞ……。」
スサノオが楽しそうにしているのでプラズマは戸惑った声をあげた。
「エラーか……あっちの世界に行ったからかな。」
マナはぼうっとはるか先にある五芒星の結界に目を向けた。
「ま、よくわからないがここはもう伍の世界の弐だ。伍に帰ろうとしてんだろ?楽しくなりそうだ。連れて行ってやるぜ。」
スサノオは再びクスクスと笑うと戸惑うマナとプラズマをまとめて強く押しだした。
「うわあっ!」
マナとプラズマはありえないくらい宇宙空間を飛ばされ、どこまでも星々を追い抜いた。
スサノオはもう遥か彼方にいて豆粒のようになっていた。
****
「はっ!」
マナは飛び起きた。どこからともなく美しい鳥の鳴き声がする。辺りを見回すと青々とした芝生が広がっていた。ここはどうやらマナが伍の世界にいた時によく遊びに来ていた公園のようだった。
ただ単純に芝生しかない公園だ。フリスビーやボールなどを使って遊ぶ子供達が休日には多くなる。現在は誰もいない。平日の真っ昼間なのか。
太陽が眩しく芝生を照らし、夏に近いのかだいぶん暑い。
「……夢……?だったのかな?でもこんなとこで昼寝した覚えはないし……。」
マナは不安げな顔で辺りをもう一度見回す。すると、自分の真後ろで大の字になって寝ている赤髪の男を発見した。
「……あの人は……確か……えっと……そうだ!プラズマさんだ!」
マナはプラズマを一瞬忘れそうになっていた。先程まで一緒にいたはずの彼をこんなにも早く忘れてしまうとは一体何なのか。
マナは慌てて駆け寄りプラズマを揺すってみた。
「プラズマさん!プラズマさん!」
「ん……?」
プラズマはマナに揺すられてやっと意識を取り戻した。
「プラズマさん!」
「おっ!?マナか?……ここは……。体に鉛がついたみたいに重い……それに苦しい。」
プラズマは頭を抱えて起き上がったがバランスを崩しその場に膝をついた。
プラズマはどこか苦しそうだった。
「大丈夫?プラズマさん。ここは私が本来いた世界みたい。」
マナには体の不調はまるでなかった。
「じゃあ、ここが伍か……。しかしここは歩くやり方まで忘れちまったみたいに動き方を思い出せない世界だな……。やはりデータが違うから体中おかしくなってんのかな。」
「歩き方を思い出せないって……。」
プラズマの言葉にマナは目を丸くした。向こうの世界とこちらの世界がそんなに違うとは思えなかった。
「ま、いいや。で、俺これからどうしよう?」
勢いでついてきてしまったプラズマはあまりにしんどい世界に頭を抱えた。
「……あの……実はちょっと行きたい場所があって……。」
マナは控えめにプラズマを仰いだ。プラズマは額の汗を拭いながらマナを見据えた。
「ん?行きたい場所か?」
「うん。向こうの世界みたいに沢山いろんなことは起きないけど、こっちにも神社が三つだけあるのよ。スサノオ尊、月読神、アマテラス大神……この三柱がいらっしゃる神社……こちらでは参拝客はいないけど歴史的な文化遺産として建物が評価されていて今でも壊されてないの。」
「……こっちの人間は本当に何も信じてないんだな。ま、神がこちらにはいないんだから神社を壊しても何のあれもないか。」
プラズマの呆れた声にマナは小さく頷いた。
「それで……その三つの神社に行ってみたいんだけど……一緒に行くかな?」
「……ああ。特にやることもないし、あんたといないと俺この世界から消えてなくなりそうだからな。ついていくよ。」
マナはプラズマに肩を貸してあげた。彼は本当に歩き方から忘れてしまったようだった。
向こうにいる他の神様がこちらに来たらこんな症状では済まないかもしれない。
こちらに来る前に消滅するか、運よく来られても全く動けず話せずの状態になっているか……もしくは植物状態になっているかもしれない……。
「俺は本当にすべてを忘れた……。動き方を思い出せない……。それともこちらでは動き方のデータが違うのか?俺がこちらにも半分通じている未来神で良かった……。こんなんで済んだとは。」
プラズマは良く思えば運が良かったのだと思い直し、マナに肩を預けながらしみじみ思った。




