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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
最終部「変わり時…」現人神になった人間
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変わり時…1交じる世界11

 しばらく静かに駕籠は飛んだ。窓からは一面の海が見える。潮風が流れカモメがどこかで鳴いている。ぽかぽかした太陽がなんだか眠気を誘った。


 「そろそろ着くよい!」

 ツルが声を上げた。ぼうっとしていたマナは驚いて半分腰を浮かせてしまった。


 「ははっ!あんたにとっちゃあわけわからん状態なのによくぼうっとできるな。」

 マナが飛び上がったのをプラズマが隣で楽しそうに見つめていた。


 「ちょ、ちょっと気持ちよくなっちゃって……うとうとと……。」

 マナも自分で自分の神経をさすがに疑った。やっぱり自分はだいぶんおかしいようだ。


 「ま、いいや。とりあえずそろそろ着くらしいぞ。」

 プラズマが心底楽しそうな顔をしながら地面が近づいてくるのを窓から見ていた。

 やがて駕籠は何の音もなく地面に着いた。どうなっているのかわからないが地面に着く感じも揺れる感じも何もなかった。


 「着いたよい!」

 ツルが元気よく声を上げた。それを合図にプラズマとマナは席を立った。

 外に出る。暑いほどの太陽がまずマナ達を照らした。辺りを見回すと右手に海が、そして左手に山々が堂々と立っていた。


 典型的な田舎である。近くに寂れた駅があり、券売機には蜘蛛の巣が張っている。


 「な、なんだかすごいところにきたね……。」

 マナが不安げな顔でプラズマを仰いだ。


 「まあ、いいじゃないか。俺は自然好きだぞ。虫は残念ながら嫌いだが。」

 プラズマは大きく伸びをしてツルに目配せをした。


 「よよい!もういいって事かよい?じゃ、またなんかあったら。」

 ツル達は軽く頭を下げるとさっさと飛び去って行った。なんだかさっぱりとしている神々の使いである。

 ツルが飛び去って行く水平線を眺めながらプラズマはため息をついた。


 「で、こっからどうやって探そうか……。」

 「あ……。」

 辺りは森に林にと自然豊かだが広すぎて検討がつかない。


 「とりあえずてきとうに……。」

 プラズマがてきとうに足を踏み出した刹那、近くにあった一本の木から男の子が降ってきた。

 虫取り網に半袖半パン、頭には野球キャップがついている。七、八歳くらいにしかみえない男の子だ。

 少年は写真で見たあのクロノスにそっくりだった。


 「あ、彼からわざわざ来てくれたよ。助かるぜ。」

 プラズマは別段驚く風でもなく笑みを浮かべながら少年を見つめた。


 「……ほんとにいたんだ……。」

 マナは不思議な雰囲気の男の子に目を見開いて驚いた。


 「……君が日本の時を守る時神未来神かな?」

 少年はプラズマを見て子供っぽい仕草で尋ねたが、言葉はどこか大人びていた。


 「ああ。俺は時神未来神、湯瀬(ゆせ)プラズマだ。あんたはクロノスか?」

 プラズマは日差しを手で覆いながら少年に会釈をした。


 「まあ、そうだね。クロノスだけど……今は日本に溶け込んでいるからリョウって呼んでほしいかな。なんでリョウなのかはね……。」

 クロノス、リョウはふてきな笑みを浮かべて言葉を切った。


 「なんとなくわかるが聞いてやるよ。」

 プラズマは子供だと思ったのかやたらと態度が横柄だった。


 「この物語を『(りょう)』できるからだよ。」

 リョウはクスクスと笑いながらプラズマを見上げた。


 「……なるほど……あんたは未来も見えるのか?ここにいる理由はわからないが俺達が来た理由はわかるだろう?」

 「まあね。君達は何をすればいいかわからないから来たんだよね?僕はここで過去も見た。プラズマ君、君の過去は簡単に見れるのだけどそこの女の子の過去はかなり不思議すぎる。この世界の子じゃないね?」

 リョウはマナの目を見ながら子供っぽい愛嬌ある顔で笑った。


 「ああ、おそらく伍から来ている。」

 プラズマはマナを一瞥してまたリョウに向き直った。


 「なるほど……。ところで世界はTOKIの世界と呼ばれているのを知っているかな?」

 リョウが試すようにプラズマを見上げた。プラズマはつまらなそうに首を横に振った。


 「いや。知らん。」


 「そう呼ばれているんだ。というかそうしたんだ。TOKIって文字はすべて線対称なんだ。Kは横にすると線対称だよね? つまり……この世界はけっこう単純だ。Tが『壱』と『陸』、『参』と『肆』を表していてOが『弐』の世界。……Kは飛ばしてIは『伍』の世界なんだよ。Kは横にしてTとO、そしてIを結んでいる者としている。……プラズマ君なら知っているかな? Kの存在を。」


 「ああ、まあ、そこそこはな。」

 プラズマは曖昧にごまかしていた。


 「けっこう恨みを買いやすいみたいだけど、Kは世界を結んでいるだけだから、この異変を解決する能力はない。マナちゃんだっけ? 君は世界全体にとって異様で特例なんだ。君が望んだことのようだけど、向こうのKが君をこちらへ呼んでしまったらしい。Kとしては君が伍の世界には不適格だと思ったようだね。だから君をこちらへ渡したんだ。」


 「は、はあ……。」

 マナはなんで名乗ってもいないのに自分の名前を知っているのかを聞きたかったが、目の前にいる少年はおそらくそういう次元を通り越しているのだろうと思いなおした。

 なんだか雰囲気が異様なのでマナは気おされてなにも言葉が出てこなかった。


 「だけど君はこちらの世界をかなり疑っている。不思議な事、おかしなこと、すべてありえないと思っている。つまりKに初めてシステムエラーが出たって事だ。普通だったらこっちに来た段階でおかしいなんて思わない。Kの誰かがミスをしたか、あるいは……。」


 「意図的にマナをこちらへ入れたか……か?」

 プラズマの言葉にリョウは答えなかった。


 「まあ、とにかく、これはあんまりよろしくない結果を生むようだ。」

 リョウは腕を組んだまま、険しい顔をしていた。マナから無理やり過去と未来を盗み見ているようだ。


 「よろしくない結果って? なんだか怖いんだけど……。」

 怯えているマナにリョウは口角を上げて軽くほほ笑んだ。


 「見てみる?」

 「え……?」

 マナはリョウの顔を見て固まった。刹那、目の前が突然、渦を巻いて消えた。



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