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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
最終部「変わり時…」現人神になった人間
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変わり時…1交じる世界2

 黒髪の少女とはクラスも違ったし、そんなに親しくもなかったので軽く手を振って別れた。そのままマナは廊下を走り抜けて学校の教室に滑り込む。ギリギリで学校に間に合った。


 「おはよ!」

 マナが教室に息を上げながら入り込んだ時、元気な声が聞こえた。


 「あ、ああ……おはよ!間に合わないかと思ったよ。」

 マナは声をかけてきた少女になんとか答えた。


 「ギリギリだったわね。まだせんせー来てないからとりあえず席に座っときなさい。」

 少女は金髪の美しい髪をかき上げて自分の隣の席を指差した。マナは金髪の少女の隣の席に腰をかけ、ふうと息をついた。マナの席は一番窓側で一番後ろだった。


 「レティ、今日もアンと調べものする?」

 マナは隣で教科書を出している金髪の少女、レティに尋ねた。


 「もちろん、そうしましょう。じゃあ今日も校内図書室に集合よ!」

 レティはマナに無邪気にほほ笑んだ。


 この学校は国際高で海外から来た学生が多い。日本の学校なのだが海外旅行にでも行った気分になる。

 「で?アンはまだ来てないの?」

 マナは眼鏡をかけなおすと前の席をぼんやりと見つめた。


 「アンはまだ来てないわ。どうしたのかしら?大丈夫かな?このまんまじゃ遅刻でしょ。」

 レティは頬杖をつきながらパラパラとノートをめくる。ノートは古典のノートだった。

 昔話の妖怪退治の話などがまとめられている。


 「はあ……この妖怪退治の話、先生はこの作者の精神状態とか時代背景とかばっかり説明しているけど、ほんとにこういう妖怪いたかもしれないわよね。なんで素直にこういうの楽しめないのかしら。他の生徒もそうだけど。」

 「あ、それ私も思う。ほんとにいたかもしれないよね。」

 レティとマナはお互い楽しそうに会話をしていたが周りの生徒達からは気持ち悪がられていた。


 ……あいつらは半分くらい妄想症かなんかになってんじゃないの?

 悪口もちょこちょこと聞こえてくるがマナはレティとアンと一緒にいればこんな悪口平気だった。


 マナは話しながら世界情勢の教科書をかばんから机にしまう。


 「そういえば、レティの母国近くで今、戦争が起きるとか起きないとかニュースでやってたけど……。」

 「うん……。なんで戦争なんてするのかしら。ほんと、戦争がない平和な世界があるならそっちに行きたいわ。二ホンはまだ平和な方よね。」


 「そうだよね。私も皆笑っている世界がいいなあ。食べ物とかも奪い合うんじゃなくて分け合うとか……。まあ、私みたいな食べ物に困っていない人間がこんなことを言うのもなんだかいけない事のような気もするけど。」

 レティとマナがそんな話をしていると学校のチャイムが鳴った。


 「あー……アン遅刻―。」

 レティが残念そうな顔をした刹那、褐色の肌の少女が教室に滑り込んできた。


 「セーフ!セーフ!」

 「セーフじゃない。これはスライディングしてもアウトだ。」

 褐色の肌の少女が叫んだすぐ後ろから男性教師が出席名簿で少女の頭を軽く叩いた。


 「いてっ!」

 「あ、来たわ。」

 頭をさすりながらこちらに歩いてくる少女をレティは笑いを堪えながら見つめていた。


 「何笑ってんの?」

 少女はむすっとした顔でマナの前の席に乱暴に腰掛けた。


 「いや、笑うわよ。アン、先生と野球漫才やっているみたいだったから。」

 「間に合うと思ったんだけどなあ……。一限目なんだっけ?」

 「古典。」

 「ああ。」

 褐色の肌の少女アンは黒い短い髪をかきあげるとかばんから古典の教科書をガサガサと探し始めた。


 「あ、アン、今日の放課後、図書室に来れる?」

 マナは前の席のアンをつつきながら小声で尋ねた。


 「おっ!いいよ!活動だね!ワタシ、昨日夜遅くまで調べた『とっておき』があるんだよ!図書室で聞かせてあげる!」

 「あー、それで寝坊して遅刻したわけね。」

 目を輝かせているアンを横目で見ながらレティはため息交じりにつぶやいた。


****


 授業をてきとうに流し、昼休みは楽しくおしゃべりして潰し、三人が待ちに待った放課後になった。

 「アン!早くしなさいよ!」

 レティは楽しそうに笑いながらのろのろ帰る準備をしているアンをつつく。


 「待ってってば。さっきの授業爆睡しすぎて頭がまだ働いてないんだってば。」

 アンは大きなあくびをするとかばんに教科書を詰め込んだ。


 「レティ、そんなに急がなくても大丈夫だよ。図書室は逃げないから。」

 マナはクスクスとレティに笑いかけた。


 「ま、まあね……。そうなんだけど、アンが遅いんだもの……。」

 「オッケー、行こうか?」

 マナとレティが話しているとアンが呑気に声を上げた。


 「まったく、本当に呑気なんだから……。」

 レティは呆れながら再びアンをつついた。


 「まあ、まあ、そう怒らずに。図書室でとっておき、話してあげるからさー。」

 アンは子供のように悪戯っぽくほほ笑むと先導をきって歩き出した。

 それを追いかけてマナとレティが続く。


 三人は教室を出て図書室へと向かう。図書室は四階にある。マナ達の教室は三階にあるので階段を登らなければならない。三人は階段を足早に駆ける。


 現在は放課後なので下校する生徒、部活動に行く生徒などがおり、とても賑やかだ。

 しかし、四階は図書室と空き教室しかないため、いつも不気味なくらい静かだった。

 三人は廊下を歩き、図書室への扉を開けた。


 「……相変わらず誰もいないな。」

 アンは図書室に入り、ふうとため息を漏らした。


 「でもなぜか、放課後も閉まらない図書室。」

 レティはほほ笑むと近くの椅子に座った。


 「このちょっと不気味な感じがまたいいよね。」

 マナはレティの隣に座った。


 「じゃ、図書室についたんで、ワタシのとっておき、話そっかね。」

 アンはマナとレティが座っている向かいの席に腰かけた。


 「そうよ。アンが授業中爆睡するくらいの何かがあるんでしょう?早く聞かせなさいよ。」

 レティは目を輝かせながらアンが話すのを待った。


 「急かすなってば。実はさ、昨日なんだけどあるテレビ番組がやっててさ……。」

 「テレビ番組?」

 マナもワクワクしながらアンの言葉の続きを待った。


 「うん、そのテレビで神社の話がやっててさ。ほら、この近くで観光名所になっている神社。」

 「それが?」


 「あの神社が建てられた時の人々の感情や精神状態を学者が語っている番組だったんだけど、その中で学者があの神社に足を踏み入れるとなんだか温かい気持ちになる人が多いようだと言っていてね。まあ、そっからはどうしてそんな気持ちになるのかを永遠と説いていたけど、ワタシはそれが気になってね……。」


 アンが何かを考えるように腕を組み、唸った。それを見据えながらレティが口を開く。


 「その番組見たわよ。確か、温かい気持ちになるのはその神社を作った当時の人々の歴史を知っているからそれに同情しているんでしょうって言ってたわよ。」

 「それ……そうじゃなくてなんかの神がいるからなんじゃないかなあ。」

 マナは恐る恐るレティとアンに言葉を発した。


 「そう!それだよ!」

 アンはマナの言葉を聞き、勢いよく立ち上がった。


 「それだよって……信じたいけど、その学者さんの意見も間違ってないと思うんだけど。」

 アツい瞳を向けているアンをレティはため息交じりに仰いだ。


 「まだ続きがあるんだよ!そっからワタシは調べたのさ!どういう経緯でその神社が作られたのかと何の神がいるのかを!そうしたら、あの神社には太陽神がいたんだ!」


 「アマテラス大神でしょ。あれは神とか云々じゃなくて象徴として祭っているだけなんだから本当はいないでしょ。形式的に行事もやっているだけだし。」


 「皆そういう考えなんだよね。だけどさ、違うんだよ!本当にいるんだ!ここからだよ、驚け!ワタシはその後、ある事に気が付いて地図アプリで近くの神社を線で結んでみた。」


 「お、おお……。」

 なんだかわからないがマナとレティはアンの言葉に興奮していた。


 「するとだ!」

 アンはポケットに入れていた一枚の紙を図書室の机にたたきつけるように置いた。

 それはこの周辺の地図だった。その地図にマジックで線が引かれている。


 「……っ!」

 「これを見てわかるかい?神社が一定間隔でちょうど正三角形のように三つあってその正三角形の周りにきれいな円形を描くようにただの建物化している神社が沢山ある。」


 アンは指で線をなぞった。きれいな円形の線の中に正三角形がはまり込むように描かれている。まるで結界のようだった。


 「こ、これ……結界的なやつ!?」

 マナは目を輝かせながらアンを仰いだ。


 「そう。この正三角形に配置されている神社はそれぞれ祭られている神が違う。アマテラス大神、月読神、スサノオ神……。それと、もう一つ、驚くのが……。」

 アンは正三角形を指でなぞった後、正三角形の真ん中に指を置いた。


 「ここだ!」

 「あっ!」

 マナとレティは同時に声を上げた。


 「わかった?この三つの神社のど真ん中に妄想症の精神病院がある……。」

 「……す、すごい……。」

 マナとレティは言葉を失うくらい驚いた。


 「……ま、だからなんだよって話なんだけどさ。」

 いい感じな二人のムードを壊すようにアンは豪快に笑った。


 「ま、まあ……確かにだからどうしたって感じだけど……けっこう面白かったわよ。」

 「うん。すごく面白かった。」

 三人は頷きあい、満足そうに笑った。


 「で、でさ……まだあるんだけど……。」

 アンは声を小さくしてマナとレティを手招いた。マナとレティは素直にアンに顔を近づける。


 「まだなんかあるの?すごいわね……今日のアンは。」

 「この妄想症の病院でうちのお母さんの友達の子が入院しているんだよ。歳はまだ七歳。女の子。」

 「それで?」

 「面会しに行かない?」

 アンの言葉にマナとレティは顔を曇らせた。


 「それって興味本位で行っていいもんじゃないでしょ?」

 「……でも、妄想症の子と話してみたくないか?」

 アンの問いかけにマナとレティはお互い顔を見合わせた。


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