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明かし時…最終話リグレット・エンド・ヒストリー最終話

 剣王がムスビのケガを見ている間、ナオはゆっくりと立ち上がりアヤとサキに再び頭を下げた。

 「本当にありがとうございました。太陽をあんなにしてしまったのに私達を許すと……。」


 「まあ、本当はあまり許せないんだけど、下心があるからね。今度、あたしが困ってたら助けてよ。ね? お願い。」

 サキはナオにいたずらっぽい笑みを向けた。


 「サキってけっこう現金な女よね。」

 アヤの言葉にサキは「まあね」と再び笑った。


 「ええ……何かありましたらお助けいたします。」

 ナオは生真面目にまた頭を下げた。


 「あーあー、そういうのじゃなくてね。ほら、お友達になっとこうよって話で。」

 「出た。サキのお友達になろうよってやつだわ。」

 サキは愛嬌を振りまいてナオを窺った。アヤはそれに呆れたため息をついた。


 「友達……ですか?」

 「うん。あんたもまだ若そうだし、悪い話じゃないっしょ?ね?」

 「え、ええ……まあ、そうですね。」

 「じゃあ、友達ね! あ、今度お花見やろうじゃないかい!」

 「え、ええ……おは……お花見ですね……。」

 サキの気分にナオは戸惑いながら頷いた。


 「あー、青臭いNE。これだからガキは……。じゃ、私はもう行くYO。要件は済んだだろがYO? 私も業務で忙しいんでNE。」

 ワイズはこの場の空気にうんざりしながら一方的に話すとさっさと鶴を呼んで帰ってしまった。


 「あの神は幼女の外見なのにじじ臭いわね。」

 アヤの言葉にサキは笑った。


 「あの神は長く生きているからねぇ。なんでじじ臭いのかは知らないけど。」

 アヤとサキの会話で、ナオはワイズの歴史を話そうと思ったがやめた。話したからと言って何も変わらないからだ。


 「ま、とりあえず、今度花見ね?」

 「そうそう花見だよ!楽しもうじゃないかい!連絡は今度するよ。」

 「わかったわ。付き合ってあげる。ナオも来なさいよ。」

 「……は、はい。」

 サキとアヤの勢いに押され、ナオは小さく返事をした。


 すぐ近くでムスビの「いててて!」という声と剣王の「我慢してねぇ~男の子でしょ~」という謎のやりとりがやたらに大きく聞こえた。


****


 それから三日が経った。ナオとムスビは始末書と今から一週間後に一か月の封印の罰を受ける事を言い渡された。

 ムスビのケガはもう治ったようだった。


 「ムスビ、痛みはどうですか?」

 「んん……まあ、痛いけど平気だよ。それよりもナオさんこそ、あの剣王に何度も蹴られていたよね。大丈夫? ほんと、女の子相手に酷いよね。」


 「私も大してひどくはありません。剣王はかなり手加減をしたようですね。あの方は言っている事と、やっていることがたまに違う時がありますから……。」

 ナオとムスビは現在、天記神の図書館前まで来ていた。


 一週間後に一か月の封印を受けなければならないため、その前に借りた本を返しに来たのだった。

 弐の世界の時神の本。最初から文字化けしていて読めなかった本。壱の世界の時神アヤが書いたとされる本。


 壱の世界に行けばこの本は読めたのだろうか。

 そんなことを思いながらナオ達は重たい図書館の扉を開いた。


 「こんにちは。」

 ナオとムスビがそうっと中に入ると天記神ともう一神、中にいた。

 茶色の髪を総髪にして、侍のような格好をしている若い男……。


 「え、栄次!」

 「ん!? なんだ? ……えーと……ナオとムスビか?」

 栄次は驚いているナオとムスビに軽く手を振った。


 「な、なんでここにっ……?」

 ムスビが動揺しながらもかろうじて声を上げた。


 「いや、二百年ぶりくらいか? 久しいな。」

 「……?」

 栄次の言葉にナオとムスビは完全に固まった。


 「いらっしゃい。あら……あなた達、無事だったのね。」

 固まっている時に呑気な天記神がナオとムスビに気がつき、ほほ笑んだ。


 「あ、あの……どうして栄次が?」


 「え? ああ、彼はさんの世界の平成から来たのよ。つまり、平成が過去になってしまった世界からここに来たの。この図書館は同じ一本の時間軸はダメだけど、別の世界ならばリンクしているのよ。参(過去)の世界の平成、肆(未来)の世界の平成ならば今とリンクしてその時代の神がここへ来る事ができるの。言ってなかったかしら?」

 天記神が丁寧に説明してくれた。


 「そんな事……言ってたかなあ?」

 「まあ、それはいいです……。とりあえず理解はできました。不思議な事もあるものです……。また会えましたね。栄次。」

 動揺しているムスビを落ち着かせながらナオは栄次にほほ笑んだ。


 「ああ。約束通りお前達の事は忘れなかった。その他の記憶はほとんど覚えていないのだが。」

 「そうですか……。それでも私達を覚えていてくれた事、とてもうれしいです。」

 「忘れないと誓った事だけは覚えている。でも俺はそれでいいと思っている。」

 「そうですね……。ここに来ればまたあなたに会えますから。」

 ナオと栄次がいい感じに話していると、ムスビが不機嫌そうに咳払いをした。


 「ムスビ?」

 「な、なんでもないよ。それよか、ほら! 本を返しなよ。」

 「……え、ええ。あ、あの……本をお返ししますね。」

 ナオはムスビの変貌に戸惑いながら天記神に本を返した。


 「あら、ありがとうございました。ふふっ……。」

 天記神は本を受け取ると意味深に笑っていた。


 「ナオさん、今日は花見だろ! 本返したらさっさと行くよ!」

 「ええ? ムスビ……何を焦っているのですか?」

 「焦ってないよ。栄次、いいか。ナオさんがお前に振り向くことはないからな!」

 ムスビはナオに優しく対応してから、栄次に念を押すように言った。


 「何を言っているのだ。お前は……。」

 栄次は呆れながらため息をついた。


 「栄次、あなたにはこれから試練が訪れるでしょう。ですが……心に従って進んで下さい。そしてまた……私達を思い出してくださいね。」

 ナオはこれから栄次に起こるだろう事を心配した。


 「栄次、ぶっ壊れたら承知しねぇからな。絶対にまた会うぞ。」

 なぜかムスビは荒々しくそう言い放ち、ナオを連れて図書館から出て行ってしまった。


 遠くからナオの「ムスビ! どうしたのですか!」と叫ぶ声が風に乗って聞こえてきたが、ムスビの声はそれきり聞こえなかった。

 隣で天記神はクスクス面白おかしく笑っている。


 ……花見か……。桜……。

 栄次は閉じられた図書館の扉を眺めながら、これから会うであろう、更夜とスズがいる、桜が舞うあの門を頭に思い描いていた。



 世界は回る。一定を保って。

 この世界は狂わずに回る。何があっても。

 それがTOKIの世界を生きる者達の願い……。

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