明かし時…最終話リグレット・エンド・ヒストリー16
しろきちはナオ達をアヤの世界から弐の世界の空間へと出した。再び世界はネガフィルムのような感じに戻った。
ナオ達はしろきちにすべてを任せて後を追った。
「あ、あれ?そういえばあのちっこい人形は……。」
ふとムスビはセカイがいないことに気がついた。
「そういえばおらんな……。」
栄次も彼女を探すがもうアヤの世界はなく、セカイがどこへ行ってしまったかもわからなくなっていた。
「ああ、えーと……彼女はKの使いなので他の任務に当たっているかと思いますけど……。」
しろきちが前を歩きながらひかえめに答えた。
「他にも抱えている任務があるという事ですか。」
ナオは他の情報を引き出そうと期待せずに尋ねた。
「……よくわかりませんけど……壱だか陸だかの世界で伍の世界とのトラブル?みたいな。」
しろきちはかなりあいまいに言葉を発していた。
「伍の世界とのトラブルですか……。嫌な予感がしますね。」
「まあ、あなた達には関係ないので……。僕にも関係ないし……。」
しろきちはそこから先、何も知らないようだった。
それに気がついたナオはそれ以上聞くのをやめた。
「それで?Kの世界は……。」
「……せっかちですね……。もうすぐですよ。」
先程からしろきちはどうやって動いているのかわからない。目印が何もないのに曲がったり先へ進んだり、同じ場所を戻ったりしている。
同じ場所へ引き返すのは同じところに戻ってしまうのではないかと思っていたが弐の世界では違うようだ。
と、言っても辺りは宇宙空間であり、戻ったのか進んだのかもよくわからない。
しばらくしてしろきちは一つの空間の前で止まった。
「あ、今はここが日本を担当しているK達が住む世界のようです……。」
「日本を担当している?」
「ええ……Kは世界中にいるので……。人間でも神でもない別の生き物と考えてもいいかと……。」
「へえ……。」
しろきちの言葉にムスビは複雑な顔をした。
「じゃあ、僕はここで……。」
しろきちは恐る恐るそう言うと先程と同じようにナオ達を空間へ突き飛ばした。
「あ、てめぇ!また突き飛ばしたな!」
「ムスビ、静かになさい。」
ムスビとナオと栄次は下に落ちているが会話をする余裕があるくらいだった。不思議と心が穏やかだ。
しばらく落ちると辺りに電子数字が沢山回る空間へと出た。
「いらっしゃい。」
ナオ達が落ちている間に電子数字から頭巾を被った袴姿の幼女が現れた。
「うわっ!なんだ!びっくりした……。」
「……?」
ムスビがいち早く声を上げ、ナオと栄次も彼女の存在に気がついた。
「私はKの内の一人。あなたが知りたいことはわかるので……伍の世界との結界部分まで行くと良いです。このまま落ちていきなさい。」
頭巾の幼女は小さく言葉を発すると突然電子数字になり消えた。
「……っ。あの子はデータなのですか……?」
「あれがデータというのか……。」
ナオが疑問をどことなくぶつけると栄次が小さくつぶやいた。
実のところ、彼女はKの世界に誤って入り込んでしまった魂を元の世界に戻す役目をしているKなのであるが今回はそれを知らなくてもよいだろう。ライという名の少女が関わった事件では彼女はそう説明している。今のナオ達には知りえない事だ。
「あ、ナオさん、なんか急に青空が……。」
ムスビの声でナオと栄次は我に返った。知らない内に青空と草原の世界へ来ていた。草原に足をつけたナオ達は辺りを見回した。
「ここがKの……?」
ナオが言いかけた時、ナオ達の前を沢山の少女が走り抜けていった。国籍は皆バラバラだ。肌の黒い子もいれば肌の白い子もいる。もちろん、アジア系の子もいた。
その女の子達は皆楽しそうに笑っていた。
「やあ。ここはKの世界だけどあなた達が来るのはここじゃないよ。」
また誰かに話しかけられた。誰が話しているのか探していると草むらからカエルのかわいらしいぬいぐるみが立っていた。
「うわっ!ぬいぐるみがしゃべった!」
ムスビの驚きの声がKの世界に反響した。
ナオ達は訝しげにカエルのぬいぐるみを見ていたがなんとか世界に順応しようと心を落ち着けた。
「え、えーと……あの、ここからどうすれば……。」
ナオは辛うじて言葉を発した。
「じゃ、目を閉じなよ。」
カエルはナオ達に優しく言った。表情のある、ぬいぐるみ特有のカエルがそっと手を伸ばしてきた。
ナオ達が何か反応をする前にカエルが「いってらっしゃい。」と声をかけた。
刹那、ナオ達の体は光にまみれてその場から忽然と消えた。
「なんだかいきなりが多いな……。」
ムスビがぼやいているのが聞こえた。ナオ達はそっと目を開く。
声を発する間もなく、目の前にツインテールの少女が映った。辺りは古い民家っぽいところだった。ナオ達は玄関に立っていてその少女は囲炉裏がある部屋で座布団を敷いて座っていた。
「ああ、やっと来たのか。いらっしゃい。」
少女はモンペ姿だった。見た感じ戦前か、戦後辺りの少女のようだ。笑顔でナオ達を手招いていた。
「あなたは……先程の……?」
ナオの問いかけに少女はいたずらっぽく笑った。
「うん。ナオさん、あんたにはさっき会っているね。だけどあたしはあんたが世界改変した時にいたKじゃない。あの時にいたのはあんたも歴史を見たと思うけど水色のワンピースを着ている少女だ。」
「……はい。」
「これからその子を呼ぶから。いやー、しかしこの世界に来た客神は壱の世界の芸術神ライさん達以来だよ。こう立て続けに誰か来るなんておもしろいね。」
「誰かこの世界に現世から来たのですか?」
モンペ姿の少女の言葉にナオはすかさず尋ねた。
「まあね。ついこないだ忍者の霊とかが来たけど……あれは壱の世界でのことだからこっちだと来てないかな。あ、じゃあ伍の結界部分まで案内するよ。」
モンペ姿の少女は軽い感じでほほ笑むと指をパチンと鳴らした。すると古民家はホログラムのように消え、モンペ姿の少女も消えた。
代わりに現れたのは真っ白な空間で、不思議と足がつかず、ふわふわと浮いている状態だった。
「浮いていて足がつかない……。」
ムスビが不思議な感覚を感じながら気味悪そうに声を上げた。
「ここ……私が……。」
「そうだ。あなたは一度ここへ来た。」
ナオがつぶやいた刹那、またも誰かの声が聞こえた。今度は人間味のない機械のような声だった。
電子数字が回り現れたのは髪も体もすべて色のない少女だった。目にも瞳はない。真っ白な少女だ。ただ、頭に刺さっているツノのようなものだけ機器によくついている電源のマークが緑色で描かれていた。
「今度はなんだ?」
栄次が戸惑った声を上げた。
「私はこっちの世界と伍の世界を結んでいる結界。この世界のKでもある。立て続けに神が来た。少し前には芸術神ライと壱の世界のトケイがここに現れたばかり。ここから先へ行く事はおすすめしない。伍の世界ではあなた達は間違いなく消滅するだろう。」
白い少女は無機質な声音で淡々と言葉を発していた。
「……ここが……こちらの世界と伍を結ぶ結界……。三貴神はここから先へ行ったというわけですか。」
「ええ。そういう事です。」
ナオの発言に答えたのは白い少女ではなくまた別の少女だった。現れたのは水色のワンピース姿の少女だ。
次から次へと違う少女が現れる。Kというのは本当にたくさん存在しているらしい。
「あなたは……。」
「お久ぶりですね。改変時はお世話になりました。」
水色のワンピースの少女は丁寧にナオにお辞儀をした。彼女はナオが見た歴史の中で度々登場していた少女だった。




