明かし時…最終話リグレット・エンド・ヒストリー13
「それはこばるとさんの事です。」
「こばると君の事って……?もうあやまってもらったし、彼もデータを書き換えられたとはいえ、今は平和に生きているみたいだし……もういいわ。」
ナオの言葉にアヤはため息交じりに答えた。
「あ、いや、そうではなくて……大変申し上げにくい事なのですが……先程、オレンジ色の髪の青年がいましたが……あの方はトケイさんと言ってあなたが創った神なのです。」
「……?」
アヤは首を傾げたまま話を理解しようとしていた。
「……あの方は……あなたが時神を壊すシステムとして作ったこばるとさんなのです。」
「時神を壊すシステムとして作った……こばると君?私が創ったって……なにそれ。」
アヤは震えた声でナオに問いかけた。
「あなたは先程まで世界を壊そうとしていました。それの影響により、こばるとさんはあなたに想像されて弐の世界でトケイとして新しく存在を始めました。もちろん、オリジナルのこばるとさんは現在太陽神として存在していますが、トケイさんはあなたの記憶の中で生成されたこばるとさんという事です。」
「私が自分の心の中でこばると君を創ったっていうの?」
「そういう事です。そのトケイさんはあなたの心に合わせて動いております。感情もなく、意思もありません。」
ナオはなるべく刺激しないようにアヤに淡々と言った。
「……感情も……意思もない……。」
アヤはナオの言葉を反芻しながら戸惑っていた。
先程までアヤが行っていたことは彼を肯定する行為だった。
……感情も何もなくなれば恨む恨まないなんて感情もすべてなくなる……。
アヤはそう言っていた。
……やっぱり感情はなくてはならないものだ。何かを思って世界を変えようとする感情も前に進もうとする意志もないのは確かに何も変わらないが感情がもうすでにある者としてはこの気持ちはなくしてはいけない。そう思う。今は……特に。
「ねえ、そのトケイって子、感情とかを創ってあげる事はできないの?」
アヤはふとこんな事をナオに言っていた。
「これは簡単な話ではありませんが……感情を創る方法は教えてもらいました。しかし、感情を創る事で創った者を恨んだり、創ったこちらが悲しい思いをする……なんてことも視野に入れなければなりません。その覚悟があなたにありますか……?」
ナオはまっすぐアヤを見据えた。アヤは目を伏せるとしばらく考え始めた。
「そうよね……。そういうものよね……。でも……私は彼に感情を与える事が彼を救う事になると思うの。たぶん、私だけの感情で私だけが救った気持ちになっているのかもしれないけど……やっぱり心って大事だと思うの。」
アヤは意見を求めるようにナオに声を上げた。
「……ならば自分の心に従いなさい。……私もそれを背負いますから。」
ナオも同意見だったため、どこかホッとした顔でアヤにそう言った。
「あ、じゃあ、そのなんかよくわかんねぇけど、俺も背負ってやるよ。おたくが決めた事なら俺も応援するぜ。」
途中でなんだかよくわからなくなっていたミノさんもアヤに向かって大きく頷いていた。
「……覚悟ね……。」
アヤはまだ若年なため、その感覚がよくわかっていなかった。ただ、あの時こうしていれば良かったと後悔するのは嫌だった。
「色々あると思うけど……後悔するよりはいいわ。で、どうすればいいの?」
「……Kの使いによると、彼に役割を与える事が一番だそうで。壱の世界の弐では彼は弐の世界の時を守る時神だったそうです。向こうのあなたがそうしたようですね。まあ、とりあえずは彼に役割を与える事で意思を持たせる方法のようです。すべてはあなたの想像次第というわけですね。」
ナオはアヤの様子を窺った。アヤは小さく唸ると頷いた。
「世界に従うのは賛成しないけど……でも向こうの私と同じことをしたい。なんだかそう思うの。私もしょせん……人間から造られたプログラムって事よね。きっと。」
「アヤさん……。」
アヤはどこかせつなげに笑っていた。
「……じゃあ、ちょっと私、願ってみるわね。トケイだっけ?その子の事について。」
「お願いします。」
アヤがそう判断したならナオもそれでいいと思った。トケイはアヤが作ったこばるとだ。真実を伝えた上でアヤが行う判断はどんなことでも正しくてナオには口出しできない事だ。
だが関わってしまったからにはナオも責任を負うつもりだ。
……私も良かれと思ってやった事だ。後悔はせず、自信を持たないと……。
アヤよりもナオの方が覚悟を決めていた。
アヤがトケイの事を考え始めた時、ナオの体は透け始めた。
「……なるほど……私はアヤさんの意識が別に移ると簡単に世界に入れなくなる程度の神というわけですか……。まあ、いいでしょう。」
ナオはなんの変化もないミノさんを見つめ、軽くほほ笑んだ。ミノさんはナオが突然消えたことで戸惑いながら何かを言っていたがナオには何を話しているのかも聞こえなかった。




