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明かし時…最終話リグレット・エンド・ヒストリー4

 ハッと気がつくとナオ達は草原のど真ん中で倒れていた。柔らかな風が吹いているようだが風の音はない。青々とした緑が優しく揺れているが葉がこすれる音はしない。


 とても不思議な空間だった。


 「うっ……あの野郎……。」

 ムスビが呻きつつ体を起こした。


 「ムスビ、落ち着いてください。しかし、ここはなんだか不思議な感じですね……ここがアヤさんの世界なのでしょうか?不思議とアヤさんの心はもっと下にあるように思いますが……。」

 ナオも起き上がり、栄次も辺りを警戒しつつ起き上がった。


 「そういえば……あの狐耳がいないぞ。一緒にここに来たのではないのか?」

 栄次に問われナオとムスビは目を見開いて驚いた。


 「ほんとだ!いない!はぐれたのか?」


 「……ムスビ、落ち着いてください。おそらく一緒にこの世界に入ったと思います……。私達がいる場所とは違う……もっとアヤさんの心の深部に行けたのかもしれません……。彼だけはアヤさんにとって別の存在という事になるかも……しれません。勘ですが。……とりあえず今はそう思いましょう。」


 「な、なるほど……ま、まあ、後でしろきちに探させればいいのか……。」

 ナオ達が落ち着こうと息を深く吐いた時、近くで強い爆風が突然吹き荒れた。


 「え?」

 爆風が吹いたのと同時にアヤの世界は一変し、きれいな緑色をしていた草原はなぜか赤に染まり、風景も赤と黒のみの風景へと様変わりした。


 その真ん中にはこちらを睨んでいるアヤが立っており、アヤの後ろにはオレンジ色の髪の、ユニフォームのような服を着ている少年が、感情なく機械のように佇んでいた。

 無機質な目からは何も読み取れず、彼の辺りには電子数字が回っている。

 アヤはその少年を軽く横目で見ると、叫んだ。


 「もう嫌だわ!この世界を……弐の世界を壊してっ!」

 「……。」

 少年は頷くでもなく声を発するわけでもなかったがアヤの言葉に従っているようだった。


 すぐに動き出し、感情も表情もなく機械のようにあたりを破壊し始めた。

 少年が何もない空間を蹴るとアヤの世界がガラスのように割れていく。


 「なんだかまずい気がするんだけど……。あの男、誰だよ?」

 ムスビが壊されていく世界に怯えながらなぜか栄次の影に隠れた。


 「わからんが……時神のような雰囲気を纏っている。」 

 栄次は刀の柄に手を置いたまま少年をじっと見ていた。


 「時神……ですか?では……未来神でしょうか?」

 「……いや。未来神、湯瀬プラズマは赤目赤髪の身長の高い男だ。あの少年は標準身長の俺よりも低い。」

 ナオの言葉を栄次は即座に否定した。


 「では……あの子は……。」

 ナオが無機質な顔の少年に目を向けた刹那、突風が吹き荒れて少年は横にふっ飛ばされた。


 「……邪魔しないでよ……。Kの使いセカイ!」

 アヤが憎しみを込めた目で目の前を睨みつけた。目線はやや下。草の中だ。


 草がかさかさと揺れ手のひらサイズの人形、セカイが飛び上がった。セカイは手に爪楊枝を持っていた。セカイはそのままふわりと浮いた状態で爪楊枝を静かに構えた。


 「落ち着きなさい。時神現代神。私はトケイを破壊せざる得なくなる。」

 セカイはちらっと倒れている少年に目を向けた。


 「あなた達Kがいけないのよ!それなのに……こんなんじゃ……私はあなた達を恨めないじゃない!」

 アヤは頭を抱えて苦しそうに叫んだ。その声に反応し、少年……トケイが再び動き出し、破壊活動を始めた。


 「それではトケイも時神現代神も破壊せざる得なくなる。あなたはシステムエラーが出てしまっている……システムの改変をしないといけない。」


 セカイは静かに言い放つとトケイをあしらいながらアヤへ攻撃を始めた。

 時神現代神でもアヤは普通の女の子と変わらない。セカイの攻撃が避けられない。

 わき腹を狙った攻撃がアヤを襲う。


 「……やめろ。」

 アヤが身を引いた刹那、攻撃を刀で栄次が防いでいた。


 小さな普通の爪楊枝であるのに鉄のように重く、だいの男である栄次が刀で防ぐので精一杯だった。小さな人形であるはずのセカイは剣術の達人である栄次に負ける事はなく、大きく振りぬき栄次を退けると少し遠くに華麗に着地した。


 「すごい力だ……。俺が力負けするとはな……。そんな攻撃を彼女にしたらケガじゃすまないぞ……。」

 栄次は脂汗をかきながらセカイを睨みつけた。

 セカイは表情なく首を横に傾げた。


 「あなたが入って来る前までは力を極限まで抑えていた。軽く気絶させるつもりだったがあなたが入ってきたことにより、私がせり合って負ける可能性があったため、少し力を入れた。」

 セカイは静かに無表情で言い放った。


 「瞬時にそこまで考えたと言うのか……。人形はわからんな。」


 「人形は感情を表す鏡。私は感情ある者の心がすべてわかる。元々人形は人の感情を移しやすくするために無表情でいる事が多い。人が悲しんでいる時には私達の顔は一緒に悲しんでいるように見える……という事。」


 セカイは栄次が発した「人形はわからんな」に答えたようだった。

 栄次はセカイの言葉に一つため息をつくと後ろにいるアヤに目を向けた。

 アヤは目を見開いたまま、こちらをじっと見つめていた。


 よく見ると足が震えている。


 「……アヤ、その破壊衝動は半分が嘘だな?」

 栄次はアヤの心を見透かし静かに尋ねた。

 アヤは震える足で一歩、二歩と栄次から遠ざかる。


 「アヤ……。」

 栄次が切なげな目で何か言おうとした刹那、アヤの頭上から勢いよくトケイが飛び込んできた。どうやらこのトケイという少年はアヤの心に反応をしているようだ。


 今のアヤの心は拒絶だった。

 トケイは今度、栄次を攻撃しはじめた。


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