明かし時…5プラント・ガーデン・メモリー最終話
「ま、まあ……とりあえず……弐の世界へ行きましょうか。危険ですけど……。」
ナオがその提案をした時、天記神がすぐに反論した。
「ダメよ!行ってはダメ!二度と出て来れないわよ!」
天記神が必死にナオを止めていた。
「……私は一度、弐の世界の深部へ行っているようなのです。ですからおそらく戻って来ることができます。」
「それは今のあなたじゃないでしょう!」
天記神が鋭く叫んだがナオはぴくんと眉を上げた。
「天記神さん……あなたはどうしてこのことに詳しいのですか?そもそもあなたはどこまで知っているのですか?」
「はあ……。あなたにエラーが出ているなんて……あなた、ちゃんとあの時の仕事、したのかしら?」
ナオの質問に天記神は挑むように質問を重ねた。
「仕事ってなんでしょうか?」
「……それは覚えていないのね。」
天記神は再びため息をついた。
「……とりあえず、何が何でも弐の世界へ入ります。もう少しなのです。もう少しですべてがわかるのです。」
ナオが必死な顔で天記神を見据えた。
天記神が何かを言おうとした時、ムスビが素早く口を挟んだ。
「ああ、えっとね、ナオさんは一回言ったら聞かないからあきらめた方がいいよ。な、栄次。」
ムスビは隣で状態を見守っている栄次に話をふった。
「ああ……まあ、そうだな。俺をこの世界に呼んでしまうほどに重要な事なのだろうな。俺は最後までナオを助けるつもりだぞ。」
栄次も静かにそう言った。
「それに……もう退けないのです。私は太陽を貶めてしまったり、高天原で暴れたり、本当に色々な事をしてきてしまいました。色々な事を犠牲にしてしまいました。」
ナオの真剣な顔に天記神はなんとも言えない顔をした。
「私は進まないとならないのです。真実を知らないと……。」
「……わかったわ。そこまでならば……じゃあ……これを……。」
天記神は渋々、一冊の本をナオに手渡した。
「……あなた達は歴史神で過去神栄次さんもいるわけだから……きっとこの本は役に立つでしょう。」
「……これは?」
ナオの質問に天記神は答えたくなさそうに答えた。
「……弐の……世界にいる時神達の世界を記した本よ……。壱の世界でのアヤさんが記したものなの……。つながりがないとこの本は使えませんがあなた達は歴史神です。おそらく使えるでしょう。そして関連して過去神栄次さんもいるので迷ってしまったらこの本でその時神さん達の世界に行きなさい。つながりがあればこの本があなた達をその世界へ導いてくれます。そして弐の世界の時神さん達ならばあなた達をこちらの世界へ連れて来ることができるでしょう。弐の世界は不確定よ。迷ったらすぐに使いなさい。以上よ。」
天記神は本から目をそらすと頭を抱えた。
「ありがとうございます。この件が済みましたら本はお返しします。」
ナオは頭を軽く下げると本を大事に抱えてムスビと栄次を一瞥した。
「ああ、俺は不安だよ。ナオさん……。」
ムスビは不安げな声をナオにあげたが本当は最後までついていくと決めていた。
「では、気持ちが鈍る前に行くか。」
栄次は呑気にも大きく伸びをした。彼も言わずものがな、もう最後まで行く事を決めていた。
三神が背を向けた時、天記神がナオの背中に小さく声をかけた。
「……やめるなら今……後悔……するわよ。」
天記神の言葉にナオは咄嗟に振り向いたが軽く会釈をしてまた歩き出した。
天記神には何も言葉を返さなかった。
……返さなかった理由はわかっていたからだ。覗いてはいけない歴史だとナオの心のどこかがそう告げていたからだった。世界の問題だからとかそういう理由ではなく、ただナオの心が痛むのだ。
それでもナオは知りたかった。
知ってはいけない真実を。




