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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
四部「明かし時…」スサノオ尊の歴史
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明かし時…5プラント・ガーデン・メモリー8

 しばらく山道を下ると開けた場所に出た。雑草すらもないただ広い空間。人工的に作られたとしか思えない広い砂地の真ん中で沢山の村人が集まっていた。その真ん中にキツネが力なく横たわっていた。


 「このキツネはやせ細っていた。本当に我々に食べ物を恵んでくれていたのだ!神の使いだ!それを殺してしまった……。」

 「神々の祟りだ……。」

 遠くで村人達の会話が響く。


 「このキツネを丁寧に埋葬するのだ!儀式を行うぞ。生贄を出せ!」

 古めかしい儀式の様子がナオ達の目の前で繰り広げられ始めた。しかし、巫女などはおらず、村人はよくわからないままに行っているように見えた。


 「……宮司さんも皆、飢餓で死んでしまったようですね。」

 ナオが悲しそうに儀式の様子を仰ぐ。儀式は見ていられるものではなかった。何人もの人間が生贄として自害し、キツネと共に焼かれた。


 村人は辛うじて覚えていた教を唱えているようだがその教もこの場にふさわしいものではなさそうだった。


「思ったよりも酷いわね~。あのキツネ、祟り神として祭られるそうよ~。ザクロよ~。花言葉は愚か。」

 草姫が腕を組んだまま、静かにつぶやいた。


 「しかし、歴史はめまぐるしく変化するな。」

 栄次は高速で動いていく村人を興味深そうに見つめていた。ここは本の中であると割り切っているのだろう。

 やがてキツネも生贄として捧げられた人間も燃えてなくなり、炭化したモノがあちらこちらに散らばった。村人は沈みゆく太陽に背を向け、生気のない顔で村へと戻って行った。

 残されたのは燃え残ったキツネだったものと死んだ村人だけだった。


 「祟り神……人が沢山死んで……映像にしてはかなりショッキングなものですね……。私、気分が……。」

 「ナオさん、もうちょっと頑張って!」

 青白い顔になっているナオをムスビが優しく抱きとめた。


 「ナオさんはこういう映像が苦手なのですね。わたくしも苦手ですが……あ、見てください!」

 ヒエンが突然、声を上げた。

 ナオ達はヒエンが見ている方向に目を向けた。


 「……あ、あれは……。」

 ふとどこから現れたかわからないが草姫とまったく同じ外見の着物を着た女が燃えたものの前に立っていた。

 金色の髪と赤い着物が女の美しさを際立たせていた。


 「……花泉姫神(はないずみひめのかみ)……花姫。」

 草姫は静かに目を細めた。


 オレンジ色に輝いていた夕日はいつの間にか沈み、今は空にぽつぽつと星が見え始めている。空は紫のような橙のような不思議な色をしていた。

 しばらくして花姫の前にうっすらと男の影が見え始めた。


 影は徐々に鮮明になっていく。頭にキツネ耳をはやした男性が座り込む形で現れた。キリッとした水色の瞳、濃い黄色の髪、間違いなくミノさんだった。いまと違う所は髪が腰辺りまである事と雰囲気が違った。そして裸だった。


 「ミノさんですね。」

 ナオは遠目でそれを確認したが彼が裸であることに気がつき、顔を赤らめて下を向いた。


 「祟り神になってしまったのか?」

 ナオが下を向いている間にミノさんの前にいる花姫が淡々と言葉を紡いでいた。


 ミノさんからは異様な気が出ている。


 「……俺は……こんな事をしたかったわけじゃない……。人間に死ねって言ったわけじゃない!」

 ミノさんは立ち上がると花姫をまっすぐ見つめ叫んだ。


 「わかっている。わかっている……。」

 花姫は苦しそうに下を向いた。


 「人間は死にたかったのか?だったら今の俺がもっとも苦しい殺し方をしてやる。人間がそれで満足するならなっ!食物も受け取らず俺を撃ち殺した……。人間はよほどこの界隈を嫌っているようだな。そんなに死にたかったのか?俺はいままで何をしていたんだ!」

 ミノさんは狂ったように叫び出した。


 「落ち着け。名もなき神よ。あなたの心が人間に理解されなかっただけだ。私が出した食物も悪かったのだろう。あれは高天原で現在栽培されている野菜達だ。この界隈にはないものだった。あなたの手助けをするのに十分な食物がこのあたりにはなかったのだ……。だから高天原のを持って来てしまった……。それ故、人間は幻だと思ってしまった。あなたが死んだのも私のせいなんだ!」

 花姫は必死にミノさんを止めた。涙をこらえている顔だった。本当はとてもメンタルの弱い神なのかもしれない。


 「違うな。俺はそうは思わない。おたくは悪くないだろ。もともとは人間が招いた結果だ。そうだろう?俺はこの村の人間を滅ぼす。もうほとんど残ってねぇだろ。食ってねぇから立ってるやつなんか数人だろうよ。」

 「頼む!思いとどまってくれ!頼む!」

 花姫はミノさんにすがるがミノさんは花姫を突き飛ばした。


 「何言ってんかわかんねぇんだよ!思いとどまるってなんだよ。俺は知らねぇな。」

 「……っ。」

 花姫は一瞬顔を強張らせるとミノさんから離れた。


 「わかった……。でもあなたにはここを守ってもらわねばならない。私の信仰はもうないに等しい。消えるのも時間の問題だ。私の代わりにこの地を守ってもらわねば困るのだ……。実りの神として土地神として……。花泉姫神はないずみひめのかみ、それだけは守りたい。」


 「別にいいが、じゃあ、人間を消してからでもいいよな。」

 「違う!違うんだ!……くっ……このままでは彼が厄神になってしまう……。これも私のせいか……。」

 花姫は手を前にかざすとミノさん目がけて白い光を飛ばした。


 「……?なんだ?これ。」

 「じっとしていろ。あなたの為になる事だ……。」

 ミノさんはきょとんとしていたが花姫はどんどんやつれていく。あたたかい白い光がミノさんを包みこむ。ミノさんの目つきがだんだんと穏やかになっていった。雰囲気も現代にいるミノさんに近づいてきた。

 刹那、白い光が突然消えた。


 「うっ……。」

 花姫はいきなり苦しそうにその場に倒れ込んだ。


 「おたく、何をしたんだ?大丈夫か?」

 ミノさんは呆然と花姫を見つめていた。


 「ああ……。どうだ?あたたかいだろう?あなたが持つべき力は……人間を消す力ではない……。こちらの力だ……。完璧に渡せなかったか……。私ももうダメだな……。」

 「……。」

 ミノさんは花姫から目を離すとそっと目を閉じた。


 その時、

 「花姫!」

 と遠くでミノさんではない男の声がした。その声にヒエンがいち早く反応を見せた。


 血相を変えて走ってきた男は水色の浴衣を着ており濃い緑色の髪をしていた。髪は背中まであり、髪の先端は葉になっている。髪というよりツルと表現した方がいいか。そのツルのような髪をなびかせながら精悍な顔つきをしている若い男が花姫を何度も呼んでいた。緑の瞳はヒエンのものそっくりだった。


 「あれはお兄様ですね……。」

 ヒエンが声を震わせてつぶやいた。


 「そのようですね。」

 ナオも男の外見をよく見て先程の男、イソタケル神であることを確認した。

 話は進んでいく。


 「……っ……何をしたんだ……。一体何をした!」

 イソタケル神は倒れている花姫を抱き起すと声を張り上げた。


 「ああ……来てくれたのね……。タケル……。この土地を見て……あなたは何を思う?」

 花姫は泣きながらイソタケル神の腕を掴む。

 「ひどいな……。僕がいない間に何があったんだ?」

 「そんな顔しないで……。いつもみたいに怒りなさいよ……。」

 悲痛な顔をしているイソタケル神に花姫は苦しそうにつぶやいた。


 「冷林は……あれは何をやっていたんだ!お前はまだ力が弱いから冷林の一部の林を守る事で実りの神として力をあげるんじゃなかったのか?」

 「そうだった……。はじめはそうだったのよ……。」

 ミノさんは二人の会話を静かに聞いていた。神になったばかりのミノさんには何の話なのかはわかっていないようだ。


 「それなのになんでお前はこんなに弱りきっているんだ……。この土地も……なんでこんなに荒れている……。」

 「私は所詮、神になんてなれなかったのよ……。」

 花姫は嗚咽を漏らしながらイソタケル神の胸に顔をうずめる。


 「神になってまだ間もないのに何を言っているんだ。これからだろう?」

 イソタケル神が必死に声をかけるが花姫は首を横に振った。


 「……。最後まで私は中途半端だった……。ごめんね……。あなたに私の後始末を押し付けて……。」

 花姫は瞳に涙を浮かべながらミノさんを見上げる。ミノさんは怯えた表情で花姫を見おろしていた。


 「どうしよう……。ちゃんと始末をしてから死にたいのに……時間は待ってくれないみたい。」

 「おい!しっかりしろ!」

 「タケル……。」

 花姫はイソタケル神の頬をしなやかな指先でそっと撫でると目を閉じ、消えていった。


 「おい……なんでこんな事になったんだ!なんでだ!」

 イソタケル神はいままで感じていたぬくもりを握りしめながら悲痛な声を上げた。

 「……っ……。」

 目の前に立っているだけのミノさんは怯えた瞳でただ地面を凝視しているイソタケル神を見つめていた。刹那、イソタケル神が威圧のこもった瞳でミノさんを睨みつけた。


 「なんでお前が花姫の神力を持っている……。花姫はなんで消えた……。あの子はまだ神になってから一年も経っていないんだぞ!」

 「し、知らねぇよ!俺は今神になったんだ……。そんなの知るわけねぇだろ!」

 ミノさんは動揺しながらイソタケル神に叫んだ。


 「……あいつの管理が悪いからこんな事になったんだな。」

 イソタケル神はそうつぶやくとミノさんの前から姿を消した。


 「……なんだったんだよ。……で、俺のやる事はこの村の再生か……。ここら周辺の活性化か?」

 ミノさんは腕を横に広げる。ミノさんの身体に赤いちゃんちゃんこと白い袴が巻きつく。なぜか服を着るやり方を知っていた。


 「さっきまでの禍々しい気持ちはなんだったんだろうなあ……。」


 今や穏やかな気持ちのミノさんはゆっくりと村へ歩きはじめた。その背中に悪意は感じられなかった。

 「なるほど……これがミノさんとイソタケル神の出会いでしたか。以前質問した時、ミノさんが答えられなかったわけです。イソタケル神がミノさんに名乗っていないですし、ミノさん自体も神になったばかりなので記憶が混同していた。」

 ナオは状況を整理するために一呼吸ついた。


「そういう事だね。知れて良かったんじゃない?」

 ムスビの言葉にナオは頷いたが、何か考えていた。


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