表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
四部「明かし時…」スサノオ尊の歴史
426/560

明かし時…5プラント・ガーデン・メモリー5

 「隠ぺい……一体何が……。」


 「この本三冊の内の一冊の中にタケル様がいます。この本は記述が似ていて本内でリンクしているのでタケル様が知らぬ間に違う本にいる事もあるかもしれません。まあ、入った所で何もできないと思いますけど。」

 天記神は三冊の本を順番に撫でた。


 「では、どうすればいいのだ?」

 仏頂面だった栄次が天記神に初めて口をきいた。


 「このまま黙って待っていてもタケル様は収穫なしで悔しそうな顔をして出てくるでしょう。タケル様はおそらくそれでは納得できずにまたヒエンちゃんを置いて別の本に入ってしまう。


 しばらく落ち着くのを待つのも手ですが……真実を知りたいのならば私が編集した本の……本来の部分を見ることができるあの神を連れてくればタケル様も満足するかもしれません。木に触れるとその木の記憶がすべて見えるという木種の神、草泉姫神くさいずみひめのかみ、草姫ちゃんを。」


 天記神はどちらにするか挑むような眼でナオ達を見据えた。

 せっかく罪を隠ぺいできたのにそれをさらけ出そうとする天記神の考えはナオ達には理解ができなかった。


 これはTOKIの世界書一部目「流れ時…」の方を読むと解決する事だろう。

 壱の世界(陸の世界と反転している世界)では時神のアヤが罪を隠そうとしていた天記神を諭した。天記神は罪を認めた。これは解決した事であり、すべての世界がつながっている場所に住む天記神はもう罪を隠そうとはしない。


 故に陸の世界を生きるナオ達にも真実を語ろうとする。


 「一体、あなたは何をしてしまったのですか……?」

 ヒエンが不安げに天記神を見上げたが天記神は下を向いたままだった。


 「……それも草姫ちゃんがいれば……すぐにわかるわ。」

 天記神は小さくそう答えた。自分からは言う気がないらしい。


 ナオは天記神を眺め、そして閃いた。


 ……そうです!彼の編集した本をわざわざ読む必要なんてないのです。彼の歴史を私は見れるではないですか!それで真実もわかる……。


 「失礼します!」

 ナオは素早く天記神の巻物を手から出現させると天記神に向けて飛ばした。巻物を過去神の栄次を周り、眩く光出した。

 ナオの目の前に記憶としての映像が映る。


 目の前に突然、時神アヤが出現した。ナオは驚いたが黙って記憶を見た。


 場所は図書館。アヤの前には天記神が辛そうに立っていた。


 「天記神……。今はつらいと思うけど……頑張って。私もここを利用したいと思っているの。」

 アヤはうなだれている天記神に声をかけた。


 「あなたを殺そうとした私のもとへあなたは来たいの?」

 「もう、解決したでしょ。あなたはもう十分苦しんだんじゃないの?もう、いいと思うの。」

 「アヤちゃん……。」

 天記神は戸惑った顔をアヤに向けた。


 「ね?だから、私はまたここに来るからね?」

 「……私を慰めてくれるの?」

 「そ、そういうつもりでもないんだけど……。」

 アヤは顔をほんのり赤くして頭をかく。


 「ありがとう。ごめんね。本当に……ごめんなさい。」

 天記神は震える手でアヤの肩を掴んだ。


 「別にいいわよ。私は生きているから。」

 「ほんとに私何やっていたのかしら……。ほんと……馬鹿ね。」

 天記神はアヤから手を離した。するとすぐにアヤの隣に記憶中のヒエンが現れた。


 ……ヒエンさん?

 ナオは目を見開いたが記憶を見る事に集中した。


 「天記神さん。わたくしもこの図書館を利用したいと思います。もっと本を読みやすくしていただけませんか?」

 アヤに続き、突然に記憶部分に介入してきたヒエンは天記神に真面目に提案した。


 「はい……。努力してみます。あなたにも畏れ多い事をしてしまったわね。非礼をわびます。」

 天記神はヒエンに深々と頭を下げた。


 「別にいいですよ。わたくしは生きてますから。」


 ヒエンはアヤが言った言葉と同じ言葉を発するとアヤと共にすがすがしい顔で図書館を去って行った。

 その断片的な記憶が流れた後、記憶はいったん砂のように消え、また新たな記憶がナオの前を横切った。場所は先程のなんの変りもない、天記神の図書館だった。


 図書館の椅子にイソタケル神が座っていた。眉にしわを寄せ、何やら思いつめた顔で三冊の本を眺めている。

 ふとまた横に天記神が現れた。


 「これは私の不祥事なの……。だから冷林様に罪はないのよ。」

 天記神は比較的落ち着いた表情でイソタケル神に言葉を発した。


 「……それは僕が決める。あれは僕の部下だ。お前はなぜ……情報の提示ができない?歴史をそのまま記したこの本を読んでも何一つ重要な手掛かりがない。僕を納得させられる情報をちゃんと提示しろ。口頭ではなくちゃんとした証拠を出せ。」

 イソタケル神はどことなく気が立っていた。


 「ですから……今申し上げた通りで……。」

 天記神は何とかイソタケル神を説得しようと焦っていた。


 「それはお前の主観が入っているだろう。ちゃんとした歴史を見て判断したい。まあ、いい。とりあえず、僕はこの本を徹底的に調べ、ほころび内部に入り込むぞ。いいな!花姫の死にたどり着くまでかなりの時間を使ってしまった。……何度調べても冷林と花姫、そしてキツネの関係性がわからない。今、お前の話を聞かなかったら僕はずっと隠ぺいの事実すら知らずに原因を探っていただろう。


 いままで口を割らなかったお前がなぜ、突然僕にその話を持ち掛けた?申し訳ないが僕はお前が嘘をついている可能性も視野に入れている。はっきりしたところまでわからないと僕は花姫を見殺しにした冷林に罰を下せない。」


 「……ですからそれは……。」

 まくしたてるイソタケル神に天記神は言葉に詰まった。


 記憶はそこまでだった。ナオはなんとか他の歴史を引っ張り出そうと考え、さらに深くに入り込んだ。

 するとナオの頭に突然警戒音が鳴り、あたりが真っ暗になった。


 その後、ナオの目の前に赤字で

 ―エラーが発生しました―

 の文字が浮かび上がった。


 ナオはため息をついた。

 ため息をついた刹那、辺りは元の図書館に戻り、歴史は砂のように飛んで消えていった。


 「ここから先は見せてくれないという事ですね?」

 ナオが同じくため息をついている天記神を見据えた。


 「いえ、そういうわけではございませんが本を編集してしまった以上、歴史を改ざんしたという意味になり私が教えたくてもできないのです。歴史にする事ができないからです。伝えられないんです。」

 天記神は申し訳なさそうに下を向いた。


 「では、さきほど見えた記憶は何だったのかだけ教えてください。」

 ナオは頭を切り替えて別の事を聞いた。


 「ええ。私の記憶はすべてにリンクしておりますので最初のアヤちゃんが出てきたのはろくとは反転している世界、いちの記憶です。壱の世界では私の罪はタケル様に許され、皆真実にたどり着き終わりました。そして後半の記憶はあなた達がいる世界、ろくの世界のタケル様です。つまり、ここ最近の記録でございます。」


 天記神の話を聞いてナオ達は顔をさらに険しくした。

 その中、ムスビが口を開いた。


 「なるほど。ヒエンちゃんが探しているっていうイソタケル神はずっとこの図書館にいたのか。」

 「……。」

 ムスビの言葉を聞いてもヒエンは険しい顔で黙っていた。


 「ヒエンさん、どうしますか?イソタケル神を落ち着かせるために真実に近い、その草姫さん……を探しますか?」

 ナオに問われ、ヒエンは唸ったが一つ頷いた。


 「はい。ここでただ兄を見つけるだけでは解決しないように思います。草姫さんを探しましょう。」

 「わかりました。私達は協力いたします。しかし、私達は追われている身です。」

 ナオがヒエンと何かの交渉に入った。


 「……それは先程お話いたしましたようにちゃんとわたくしが守ります。」

 ヒエンは首を傾げた。


 「……もう一つ、約束してほしいことがあります。」

 「はい。」

 「私達が望んでいるあなたの歴史の一部分をこの場で見させていただきます。」

 ナオの言葉にヒエンは困惑した顔をした。


 「ええ、それは別にけっこうですが……。それでいいのですか?」

 ヒエンは無理そうな要求が来ると思っていたので拍子抜けしていた。


 「はい。ではさっそく……スサノオ尊の隠れた歴史を覗かせていただきます。」


 「お父様の?わたくし達は勝手に出現していたので実はお父様には会った事もありません。お父様は今は概念になっていなくなっています。」

 ヒエンはナオの真意がわからずただ戸惑っていた。


 「私達歴史神にとってその概念の歴史がよくわからないのです。概念とは何なのかあなたは説明できますか?」


 「……できませんね……。それを不思議とも思いませんでした。」

 ヒエンはナオに問われ、改めて不思議に思った。


 ナオは小さく頷き、手からヒエンの巻物を取り出すと

 「失礼します。」

 と一言言って巻物を投げた。


 巻物は栄次を通ってまた光り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ