明かし時…4ドラゴン・キャッスル・ヒストリー最終話
飛龍に乗っているナオ達は天上界を浮いている鳥居の前まで来た。
「あの……助けてくださってありがとうございました。」
ナオが控えめに飛龍に言った。飛龍は豪快に笑うといきなり鳥居を潜った。
鳥居を潜ると海の中へ出た。海の中は竜宮にある海とは違い、魚が泳いでいた。不思議と息はできたが現世の深海のようだった。
飛龍は海低から上昇していく。アンコウなどが泳いでいる場所から小魚が泳ぐ場所まで来てそのまま海から飛び出した。
「ぷはあー。現世に到着!助けたお礼はいいぜ別に。楽しかったお礼さ。それに~オーナーに沢山お仕置きしてもらえるしね~。まあ、いつも大したことされないんだけど……。」
飛龍はどこかうっとりした顔で現世の空を浮遊した。
「は、はあ……。」
「飛龍ってほんとはドМだったのか……。」
ムスビの独り言に飛龍はまたも豪快に笑った。
「オーナーにだけだぜ。オーナー、かっこいいんだもーん。」
飛龍は急に女になった。
ナオはため息をつきながら先程飛龍が飛び出した海を眺めた。透明な海の中に小さな赤い鳥居が浮いていた。
「こんなところにも鳥居が……。」
「ああ、それは現世での竜宮だよ。この鳥居から高天原内の竜宮へ行けるんだ。昔にカメと共に浦島太郎って人間がこの鳥居にダイブしてきた時は笑ったし、すげぇって思ったぜ。まあ、高天原との時間間隔はだいぶん違うから人間はすぐにじじいになっちまったけど、浦島太郎って人間は知らんうちに神になったらしい。竜宮はトラウマになっちまったらしくてもう来ねぇってよ。ははは!」
飛龍は楽観的に笑うと再び飛び始めた。
「そうなのですか……浦島太郎さんが……。あ、あの……陸地まで運んでくれるのですか?」
「運んでやるよ。ここにポイはさすがにやべぇだろ。なんなら最寄りまで送るぜ。」
心地よい風を受けながら飛龍はゆっくりと進んでいく。
「ありがとうございます!感謝いたします。」
ナオは素直に頭を下げた。
「……しかし……なんだかんだ言ってけっこううまく行くのだな……。運がいい。」
「な。」
ナオの後ろに乗っている栄次とムスビは短く言葉を交わすと頷いた。
しばらく進むと陸地が見え、ナオ達が指示した場所に飛龍は下ろしてくれた。
場所はナオ達が住んでいた歴史書専門店の近くだ。住宅地付近は雨が降って若干蒸し暑かった。
現在は蝉も鳴く夏真っただ中だ。雨が降って暑さというよりも湿気がすごかった。
「ああ、わりぃな。あたしが龍になって通った場所は雨風が強くなる。台風も来るかもしれねぇからあんた達も注意しろよ!じゃな!」
「た、台風ですか……。」
茫然としているナオ達をよそに飛龍は人型に戻り、鶴を呼んでいた。
すぐに鶴が来て飛龍はナオ達に手を振りながら駕籠の中へと入って行った。
「あっ!ありがとうございました!」
ナオは我に返って慌てて飛龍にお礼を言った。飛龍は駕籠の窓を開けると「いいぜ!またなー。」と楽しそうに叫び手を振り、去って行った。
「帰りは鶴を使うのですね……。」
鶴が飛龍を乗せて飛んで行ってしまった後にナオは小さくつぶやいた。
「帰りも龍で現世を飛んだら風雨に台風とやばいからでしょ……。」
「楽観的な神だったが威力は恐ろしいな……。」
ムスビと栄次はまだ茫然としていた。
小雨だったはずの雨が突然に強くなった。強い風も吹き、木が大きく揺れる。周りを歩く人々は「ゲリラ豪雨か!」と叫びながら走り去っていった。あちらこちらでビニール傘が飛び、雨は前が見えないほどに降り始め、カーテンのように見えてきた。
「……これは大変です……。早く店に戻りましょう!」
ナオは慌てて店に向かって走り出した。
「ぼうっとしていたらいつの間にかびしょ濡れ!」
「神の威力は恐ろしい……。」
ムスビと栄次も顔面蒼白でナオを追い、走り出した。
……スサノオ尊、アマテラス大神、月読神は伍の世界へ消えた。最初の隠された記憶でどうして私があの場にいたのか……どうして思い出せないのか……彼らの歴史を消去し概念にした理由は何か……Kは何なのか……それらを調べられるのは……図書館……あの図書館しかないですね……。
……行きますか……あの図書館に。
ナオはもう次の行き先を決めていた。




