明かし時…4ドラゴン・キャッスル・ヒストリー15
それから記憶がさらに飛び、気がつくと制御室に戻っていた。しかし、その制御室は現在の場所とは違い、機械の数も少なかった。そしてどこか薄暗い。
「これが本来見たかった歴史のようですね……。先程の歴史はおそらく、天叢雲剣の歴史でしょう。栄次が先程、蛭子さんが近くにいるのではとおっしゃっていたので。」
「……剣の歴史だったのか……。」
ナオと栄次は辺りを見回し、最初の記憶で見たカメがいた場所を探した。
「……っ!」
コードがあった場所付近に近づくと突然天津が現れた。
「れ、歴史の方のオーナーですね……。」
ナオは高鳴る胸を抑えながら一呼吸ついた。
「……そのようだな。天津彦根神がいる前の機械に強い結界が張ってあるようだぞ。俺でも感知できた。」
「では……あれが龍水天海の封印ですね……。」
栄次とナオはゆっくりと記憶の中の天津へ近づいた。
「龍雷……ここだ。」
天津はナオ達の方を向いてイドさんの名を呼んだ。ナオと栄次は目を見開くと咄嗟に後ろを向いた。
「……ここが竜宮の核ですか。強い結界ですね。」
ナオ達のすぐ後ろからイドさんが現れ、まるで風の様にナオ達をすり抜けて行った。
イドさんはナオ達の体をすり抜けると天津の横に立った。
「……ああ、一応むき出しの結界だと問題がありすぎる故、封印する電子数字を毎秒変える装置を作った。あれはこの中にいる。……今は実態ではなく電子数字として分解され封印されている。」
天津は目の前の細長いタンクのような機械を指差した。その機械に搭載されているアンドロイド画面には常に変動する電子数字が映されていた。
「……こいつの妻の願いを聞き入れてずっとこいつをここに封印しておくつもりですか?」
イドさんは顔を歪めながら天津に尋ねた。
「そうだな。お前が龍水天海とはっきり違う神だと証明できるほどの神力が出れば私が龍水天海を始末しよう。お前の神力だとまだ……あれの神力と同化している部分もある。このまま龍水天海が消えたらお前もどうなるかわからない。そういう理由だ。……もっとカモフラージュする何かをここに作らねばならないな。龍水天海の存在が周りに知れたらまずい。お前にも色々と飛ぶだろう。せっかく皆が忘れかけているのだ。このまま思い出させない方がいい。」
天津はイドさんの肩に手を置いた。
「……すみません……。ありがとうございます。」
イドさんは下を向くと苦しそうにつぶやいた。
「……この封印のため……神々を遠ざけるのではなく逆に当たり前にしようと思っている。神々を取り込む事業をやり、この封印が動いているのが当たり前になるようにすれば誰も不審に思わないだろう。……人間の世で現在有名な遊園地とやらをここに作る。そしてこの封印のまわりにアトラクションを動かすための機械を密集させる。……ここは精密な機械が入っているため立ち入り禁止だと言う……どうだ?私も私なりに色々と考えたのだ。」
天津はイドさんに軽くほほ笑んだ。
「……ありがとうございます……。僕はあなたに助けられてばかりです。」
イドさんは天津に深く頭を下げた。
ナオはその会話を聞きつつ、横に繋がれている配線の順番を覚えた。
「栄次……覚えました。」
「ナオ……この過去は見なくてもいいのか?」
栄次の問いかけにナオは軽く頷いた。
「ええ。この辺の歴史は隠されておりませんのでいつでも私が閲覧できますから。三貴神が出てくるとまったく見えませんけど概念になったとされる神がいない歴史でしたら巻物を読めばわかります。」
「そうか。よくわからんがいいならいい。」
栄次が相槌を打った時、歴史が消えはじめた。歴史は砂の様に流れて消えていき徐々に今の竜宮制御室に戻って行った。
「僕の……歴史を見たのですか……?」
元の状態に戻った直後、イドさんの声が響いた。ナオ達は突然聞こえた声にびくっと肩を震わせた。
「……!」
ナオ達が通ってきた方向とは逆の方向にある階段からイドさんは降りてきた。
「あなたは歴史内のイドさんではありませんね……?」
ナオは混乱し、前から歩いてくるイドさんに尋ねた。
「はい。僕は現代にいる僕ですよ。」
イドさんはフラフラと足取りがおぼつかなかった。よく見るとあちらこちらケガをしている。
「蛭子神にやられたのか、それともあの橙の龍神か?」
栄次は警戒をしつつ、イドさんに問いかけた。
「蛭子ですよ……。まったく歯が立ちませんでした。……途中裏道を使ってここへ来たので蛭子は僕がここにいる事を知らないでしょう。」
イドさんは手から水の槍を出現させた。それを見た栄次は咄嗟に刀を抜き構えた。
それを見たナオは慌てて栄次に刀を下げるように言った。栄次は軽く唸ると構えを解いた。
「イドさん……私達はこれから天津を助けようとしているのです。あなたの敵ではありません。どうして武器を……。」
「もう天津に迷惑をかけたくないんです……。ですから、みなさん、出て行ってください。これは僕とあいつが解決するべき問題です。あなた達には関係のない事です。天津の封印も竜宮もあいつとの事が終わったらすべて元に戻すと約束します。ですから、今は出て行ってください!」
イドさんは必死な顔でナオと栄次に槍の先を向けた。
「そうはいきません……。今のあなたがあの龍神に勝てるとは思いません。この竜宮の支配者天津の手を借りなければ私達ですらも何もできないのです。」
ナオは機械の配線付近に座り込むと配線を繋ぎ始めた。
「やっ……やめてください!もう天津の手は借りない!僕一神でなんとかするんです!」
イドさんはナオを止めようと走り出したがすぐに膝をついた。ケガの影響でうまく立てないようだ。
「……っ。僕一神ですべて何とかする予定だったのに……僕一神じゃあ何もできやしない……。」
イドさんが拳で床を叩いた刹那、電子数字が回り白い光が集まってきた。
白い光は上へと集まり、その白い光から声が聞こえた。
―龍雷、あの邪龍を一神で何とかしようと思うな……。―
声は男のもので天津に声がよく似ていた。
そして白い光が集まり増えていくとやがて一匹の大きな一つ目の龍が現れた。
「……。」
イドさんは悔しそうに一つ目龍を見上げた。
一つ目龍はゆっくりと下降し、人型へと姿を変えた。
緑色の美しい長髪に立派な龍のツノ、整った顔立ちの青年……それは天津彦根神だった。
ナオが配線を繋ぎ合わせた時、流れ出た神力に天津本体が乗って出てきたらしい。
「せ、成功しました……。」
ナオは気品あふれる姿の天津を茫然と見つめていた。
「何とか出て来れたようだ……。歴史神……今回は感謝する。……龍雷、そもそもあの龍水天海を封印したのは私だ。そして今回は私の過失。本来ならば私が対応するべき案件なのだ。」
天津はナオと栄次に感謝の言葉を述べるとイドさんに向き直った。
「……僕はあれの件を一度も自分で解決したことがないんです。僕があれを越えなければならないのに僕はいつまでたっても……。」
イドさんは唇を噛みしめ、拳を握り締めた。
イドさんは一神で龍水天海を倒すことが超える事だと思っているようだった。
その様子を見た天津は顔を引き締めるとイドさんの肩を強く掴んだ。
「……ならば今超えるのだ。」
「……ここまで大口を叩いておいて周りの助けを拒絶して……こんな事言いたくないのですが先程の蛭子との戦いでかなりのダメージを負っています……。故にあれを越える事は現在、難しいです。蛭子には竜宮に入ってほしくなくて勝手にケンカを売って負けたんですよ。誰も入れない状態にしてからあれと一騎打ちする予定だったのですけど……僕はさっきから何をやっているのでしょうね……。」
イドさんは深いため息をついた。
弱気なイドさんにナオも声を上げた。
「道を……踏み外してはいけません。一神でダメなら仲間の力を借りるべきです!私達も協力します。あの龍神を越えましょう!」
「……。」
「あなたにはかわいい娘さんがいるではありませんか!娘さんが笑っていられるように……あの龍神を放置しないでください!」
ナオはイドさんに言い放った。イドさんは顔を曇らせていた。
「龍雷……娘がいるのか?」
天津の問いかけにイドさんは小さく頷いた。もうヒメちゃんとの関係を隠す必要はなくなった。それでもイドさんは龍水天海の事を考えると娘であると言いにくかった。
「ナオ……さんは卑怯ですね……。娘の事を言ってくるなんて……。……でもその通りです。やっぱり……助けてもらわないとダメみたいです。
このまま、僕があれに負けたらあれは僕の娘を殺しに行くかもしれません。……娘が僕を心配してこの近くまで来てあいつに殺されてしまう事も考えらえます……。そんなことになったら僕は耐えられない……。
……先程はあなた達を攻撃してしまい、申し訳ありませんでした。……やはり天津とあなた達の力が必要です……。非礼は承知ですがお助け願いたい……。」
イドさんは苦しそうにナオ達に頭を下げた。
「もちろんです。あなたの歴史をだいぶん見てしまったのでこれでチャラにしていただきましょう。」
「……ナオ、何と言うか腹が黒いのだな……。」
ナオの笑顔に栄次は顔を曇らせ小さくつぶやいた。
「……この上階に蛭子神がいるようだな。ちょうどいい。彼の持つ天叢雲剣を使わせていただこう。」
天津は上の様子を神力で感じ取るとナオ達が歩いてきた道へと駆けだした。
「追いましょう!」
ナオと栄次も天津にならい走り出した。
イドさんは最後ポツンと残されたが顔を引き締めて後に続いた。
……本当は自分一神だけでなんとかしようと思っていましたけど……ここはあなた達に甘えます……。
イドさんは心の中でそうつぶやいた。




