明かし時…4ドラゴン・キャッスル・ヒストリー11
「ムスビ……大丈夫でしょうか……。」
「大丈夫ではないだろう。しかし、他にどうする事もできない以上仕方あるまい。」
ナオと栄次は軽く言葉を交わしながら階段を駆け下りた。
先は明かりのない真っ暗な道が続いていた。道はまっすぐなのか曲がっているのか暗すぎてわからない。
「暗いですね……。前が見えません……。」
「……俺についてこい。俺は夜目がきく。」
「頼もしいですね。ありがとうございます。」
栄次が先を歩き、後ろをナオが栄次の背中を目印に歩いた。
しばらく歩くと先の方が明るくなってきた。
「……明るいな……。何かの部屋に出そうだぞ。」
「機械音がしますね……。」
栄次とナオは警戒をしながら明るい方へ歩いた。近づくにつれて機械音も大きくなってきている。栄次とナオはそっと部屋を覗いた。
「……っ。」
目の前ではたくさんのコード、何の機械だかよくわからない装置、常に違う電子数字を表示している電光掲示板などがそれぞれ無神に動いていた。
「やはりここが竜宮の制御室……大きいですね。」
竜宮制御室はとても広く、天井はかなりの高さがあった。
ビル四階くらいの高さはある。
「ナオ、ここで俺達は何をすればいい?」
栄次は辺りを見回しながらナオに尋ねた。
「……。過去をここで見ます……。そうすれば何かわかるはずです。飛龍の話ですと竜宮の使いカメが大きな封印のコードを抜いてしまったとの事だったのでそれの解析ができれば……。」
「ナオ?」
ナオは途中で言葉をきった。栄次はナオの様子を窺った。ナオは辺りを見回している。何かの歴史か記憶を見ているようだ。
栄次もナオが見ている方向に目を向けた。すると急に何かに引き込まれた。
***
―カメ?どこにいる?ここは入ってはいけない。私に許可なしに入る事は許さない。聞いているのか?カメ!―
目の前に現れたのは天津彦根神、この竜宮のオーナーである。オーナーはカメを必死で探していた。
―カメ、早く出て来なさい。今なら鞭打ち程度で済ませる。カメ、私をこれ以上怒らせるなァ!―
オーナーの声がだんだんと鋭くなっていく。オーナーが近づいてくる中、制御室の機械と機械の間に一匹のカメが隠れていた。カメは人型で甲羅をリュックのように背負い、うずくまっていた。舞子さんのような恰好をしている若そうな女のカメだった。
……わちきは現世に行きたい……。現世に行ってわちきに話しかけ世話してくれたあの子に会いたい……。
現世で死んだばかりの竜宮の使い亀にはこういう感情が残る事が多いらしい。人型になれると世話してもらった人間などにお礼や悩み事の相談などをしようとする。
仲が良かった人間などの観察に出かけても何の意味もない事を死んだばかりの亀はわからない。
現世に行きたい……でも見つかったら厳罰が待っている……そういう恐怖とこの時カメは闘っていた。アトラクションを勝手にいじる事は禁忌だ。
やりたいと意気込んで志願したのだが龍の使いとなったカメにはもう自由がない。現世に勝手に行くなど言語道断だ。
おまけに何をするにも龍神の許可が入り、龍神と共に動かなければならない。
いつも龍神の命令を大量に抱えていた容量の悪いこのカメにとって、現世に行っている余裕はなかった。
だから……無理やり行く事にした。
すべてを混乱させて龍神達がそれを必死に戻そうとしている間に現世に行って自分の用事をすませるつもりだった。
それで制御室に忍び込んだのだが、すぐに天津彦根神、オーナーに見つかってしまった。
ここまで来てしまったため、もうやるしかなかった。カメは泣きながらアトラクションの配線をめちゃくちゃにしていた。
―カメ!―
オーナーの声がどんどんカメに近づいてくる。配線をぐちゃぐちゃにしたが天津彦根神から逃げきる自信はなかった。自分の計画が失敗に終わったとカメは悟った。
どんどん近づく声にカメはしゃがみ込んで膝を震わせながら耳を塞ぐ事しかできなかった。
……殺される……コロサレル……。こっちにコナイデ……お願い……怖いよぉ……誰か……助けて……。
自分で起こした事なのだがあまりの恐怖心でカメは誰かに助けを求めていた。
そして何気なくあったそのコードを引っこ抜いてしまった。
なんの配線だかはわからないがどこかの配線のようだった。
―しまった!……やつが……目覚める……!―
―はーはははっ!ずいぶんと久しいなあ?天津!―
オーナーが焦った声を出したすぐ、橙の髪の龍神が現れた。何が起こっているのかカメにはわからなそうだったがナオと栄次にははっきりと見えた。
―ぐあああ!―
刹那、オーナーの叫び声が制御室に響き渡った。カメは何事かと機械と機械の隙間から思わず飛び出した。
記憶はそこで途切れ、ナオと栄次は過去から元の世界へと戻された。
「……見えましたか?栄次。」
「……ああ。」
ナオの問いかけに栄次は小さく頷いた。
「……あのカメが抜いた配線はあの橙の髪をした狂気の龍神の封印でした。封印はオーナー天津の神力を使って作った封印のようであの龍神は封印が解かれたと同時に漏れ出した天津の神力を使って逆に天津を封印した……そういう事のようですね。」
「……記憶中に出てきたあのカメは無事なのか……?」
栄次は先程の舞子さんのような恰好をした女のカメを心配した。
「……わかりません。ですが今はここに封印されている天津彦根神、オーナーを救い出しましょう。配線を元に戻せば天津は戻ってくると思います。」
「……また過去を見るか?」
「……そうなりますね。」
栄次とナオはお互いに頷きあうと過去を見るべく再び意識を集中させた。




