明かし時…4ドラゴン・キャッスル・ヒストリー2
駕籠はあっという間に天界通信本部へついた。高天原北という真逆にいたにも関わらず、近すぎるほどに近かった。この鶴が何か東西南北以前の空間を越えたのかもしれない。
「よよい!ついたよい!」
「早いですね……。五分も乗っておりませんが……。」
鶴の声にナオは驚いた。
「うわ……まったく心の準備ができなかった……。」
ムスビは青い顔で半泣き状態だった。
「とりあえず……降りましょう。……鶴、今回の件もきれいさっぱりと忘れてください。」
「了解しましたよい。」
鶴の返事を聞いてからナオは駕籠の外へ出た。
「ああ……ナオさん!計画は……。」
「ムスビ、あきらめろ。あきらめて外へ出ろ。」
ムスビを栄次はなだめ、外へ出るように促した。
「栄次……はあ……。」
ムスビは栄次につつかれながら無理やり外へ押し出された。
駕籠の外は高天原北とは全く違った。緑が覆い茂り、現世の夏よりも暑い場所だった。
夏のように太陽が照っているが夏特有のセミの鳴き声はない。
「……無音ですね……。まあ、高天原には神々しかおりませんからそうなんでしょうけど。」
ナオは丁寧な字体で書かれている『天界通信本部』という看板を見つけた。
その看板は大きな瓦屋根の門に一ミリの狂いもなくビシッとついていた。
「……ここが天界通信本部……。こんな山の中にあるのですね……。」
ナオは門に背を向けるように立つと下っていく山道を茫然と見つめた。
「たしかに……けっこうな山奥だよね……ここ。そして暑い……。」
ムスビは手で仰ぎながら門内を覗いた。
「ではやつがれは行くよい!」
一通り会話を聞いていた鶴はもう出番はないと考え、駕籠を引いて飛び去って行った。
「あ!あの……!あ……ありがとうございました。……本当にいつも突然に飛んで行ってしまうのですね……。」
ナオは辛うじてお礼を言ったがもう鶴はその場にいなかった。
「じゃあ行くか?ナオは特に何にも考えておらんのだろう?」
栄次に問われ、ナオは「う……」と行き詰ったが頭を振って頷いた。
「はい。とりあえず何も考えておりませんのでサクッと侵入しましょう。」
「……だよな……。」
ナオの言葉にムスビは再びため息をついた。
ナオ達は一応、こそこそと門内へ侵入した。門内はきれいな和風の庭園が広がっており、まだ青いモミジが心地よい風に吹かれて揺れていた。
「……こんだけモミジがあると秋は掃除が大変だろうね。」
ムスビが怯えつつ、つぶやいた。
「そうですね……。それよりも隠れるところがまったくありませんね。」
ナオが辺りを見回しているとこの庭を掃除している女神に気が付かれた。
「うわっ!女の子に気づかれた!おい、栄次、刀は抜くなよ!」
ムスビはとりあえず、栄次に慌てて声をかけた。
「わかっている。お前は俺をなんだと思っているんだ。向かってくるやつを無情に斬っているとでも思ってるのか?」
「いや……そうは思ってないけど……一応確認だよ。確認。」
栄次は心外だと少し怒っているようだったのでムスビは焦りながら否定した。
「ムスビ、栄次……あの女神は天界通信本部の社長の娘さんです。エビスさんですね。……状況によっては彼女を拘束して社長を脅して機密な情報をいただきます。」
「ナオさんの方が危なかった!……それはちょっと……なんていうか……神がやってはいけないような……。」
ナオの発言にムスビは戸惑いながら声を発した。
「え?ですから……状況によってはです。そうならないように私も努力いたします。」
ナオが言葉を切った時、近づいてきていた社長の娘、エビスが控えめに声をかけてきた。
「あのぉ……どちら様?ここは関係者以外立ち入り禁止なんですけど。」
エビスは緑のバンダナのような帽子を被った、長い黒髪を持つかわいらしい顔つきをしている少女だった。着ている赤い着物は動きやすくするためか布が太もも辺りまでしかない。
エビスは明らかに不審な三神組に疑いの目を向けていた。
「はい、私達は剣王から頼まれて竜宮の調査をしに来た者です。竜宮の事についてのお話をあなたのお父上としたいのですが……。」
ナオは大嘘をついてエビスを落ち着かせようとしていた。
「え……パパと話したいんですか?いいですけど……竜宮はあなた達が行ける所じゃないですよ。」
「それでも私達は剣王からのご指名でここに来ております故、何か情報を持って帰らないとなりません。」
ナオの嘘にエビスは「うーん」と唸っていた。
「この件はパパもなんか動くって言ってたし……私が勝手に動いたらパパが怒るだろうし……。」
しばらく何かを考えていたエビスは仕方なしに父親である蛭子に相談する事にしたようだ。
「ちょっと待っててください。パパに聞いてみます。」
エビスは足早に庭を駆け、天界通信本部へと入って行った。
「……追いますよ。」
「え?あの子、待ってろって言ってたけど……。」
ナオがムスビを制してエビスの後をつけ始めた。
「親子で話す内容を決められては困りますから。隠されているものも全部聞かないとなりません。」
「ナオさん……鬼だな……。」
ムスビは本日何度目かのため息をつくとナオの後ろをこそこそとついて行った。




