明かし時…2ヒストリー・サン・ガールズ10
倒れているナオを連れ、ムスビと栄次は階段を駆け下りた。途中、苦しんでいるエンとサルを一瞥し、何も言わずに走り去った。
周りの太陽神達、猿達はナオが出現させたオオマガツミ神の巻物により、体を動かすことができなかった。太陽神達はその場に留まり、悔しそうにムスビ達を睨んでいた。
「あーあ……俺達太陽に嫌われたぜ……これ。」
「まあ、仕方あるまい。何かをなすには何かを犠牲にしなければならないからな。その分、彼女は潔かった。ああでなければ自分の達成したいことは達成できん。」
ムスビと栄次は軽く言葉を交わしながら女神達の階をすり抜けて下の階へと向かう。
「ナオさん……このまま目覚めなかったらやばいよね……?」
「おそらく力の使い過ぎだろう。オオマガツミ神の神格は破格に高い。少しだけ力を持ってきたとしてもかなりの負荷が襲う。ナオは体力が回復すれば目を覚ますだろう。心配はいらん。おそらくな。」
「そうか?そうならいいけど。」
栄次とムスビは一階までたどり着いた。肩で息をしながら暁の宮から外に出る。
「で?これからどうするんだよ……。」
ムスビがオレンジ色の大地を眺めながら栄次に不安げに尋ねた。
ナオはまだ目覚めていない。ムスビに体を預けるように眠っている。
「まずは暁の宮から少しでも離れ、敵がわかりやすい位置に移動するぞ。その方がどこから敵が襲ってくるのかわかる故、ナオとお前を守りやすい。」
栄次は刀を構えつつ、辺りを見回して危険がないかどうか確認していた。
「まあ、こっからはあんたに任せるよ。俺は戦闘のプロじゃないんでね。」
「……俺だって戦闘の玄人はごめんだ。」
ムスビは栄次の影に隠れ、こそこそと栄次に従い動き始めた。栄次は暁の宮の門を抜け、しばらく広がる橙の地面と空間を静かに歩き始めた。ムスビも後を追う。
しばらく歩くと陽炎のように男の影が映った。栄次が刀を構え、様子を窺った。
陽炎のように揺れていた影はやがて少年の姿へと変わって行った。
「……ん?あいつは……確か……。」
「ああ、立花こばるとだな。元。」
ムスビと栄次は突然現れた少年を警戒しながら睨みつけた。しかし、当の本神、元こばるとは他の太陽神とは違い、こちらに笑いかけた。
「あ、ああ、君達はさっきの!あれ?あの女の子は寝ちゃったの?」
こばるとは無邪気な笑みを向けたまま、ナオを見、尋ねてきた。彼は今、太陽がどうなっているのか何も知らないようだ。いままで何をしていたかはわからないが暁の宮の外にずっといたらしい。
「……あんたはなんでここにいるんだ?暁の宮にいるんじゃないの?」
ムスビは冷汗をかきながらこばるとに尋ね返した。
「ん?僕はね、ちょっと用事があってこれから現世に行こうかと思っている所だったんだよ。」
こばるとの返答を聞き、ムスビと栄次は顔を見合わせた。
「それいいね。俺達も一緒に現世に返してよ。」
「……話は終わったの?」
「ああ、もう終わったよ。もう帰っていいって言われたんだけど門が開いてなくて帰れなかったんだ。」
ムスビはこばるとにうまい嘘をついた。栄次はムスビを横目で見つつ、この男はこういう事にたけているのかもしれないと思った。
「ああ、そうなんだ。じゃあ僕が帰してあげるよ。」
元こばるとは全く疑わずに太陽から現世に帰る門を開いた。
「あんた、なんで現世に行こうと思ったの?あの女の子アヤの事?」
ムスビが素早く、さりげなく現世に向かうための鳥居を潜った。栄次も後に続く。
「そうだね。あの子の事、なんだか気になっちゃってさ。しばらくもう一度会うか会わないかここで考えてたんだよね。それで今、会う決心をしたってわけさ。」
元こばるとは話しながら結界を閉める。ムスビはそれを確認し、とりあえず一息ついた。




