明かし時…1ロスト・クロッカー1
時計……。
人間が作った数字化した時間。
私はそれが好き。
時計だらけの部屋で一人の少女が古い和時計をなでながら小さくほほ笑んだ。
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日本だけではなく世界にも沢山の神がいると言われている。
そのすべての神に言える事……神というものの共通点は人間が創り出した想像の者達という事。
その中には名を聞いたこともない、何をしているのかもわからない、そういう神がいた。
その神々は人の知らないところでとても重要な仕事をしている。
すべては生み出された想像のため、そしてこの世界を保たせるため……神々は人間に生かされている。
これは神々の歴史を管理する神達がこの世界に隠された歴史を暴く物語。
春の気配がする季節。時刻は午後六時四十分。
カランカランと鈴の音が響き、古そうな木の扉が開け放たれた。
「ナオさん!ナオさん!あれ?どこいった?」
声の主は男であった。端正な顔立ちの男はワイシャツに羽織袴という奇妙な格好をしていたがどこか涼しげで爽やかな印象だった。
「ナオさーん。」
男は短く切りそろえられている青色の髪をなびかせながらナオという者を探していた。ここは歴史書のみを扱っている本屋さん。店内は所狭しと歴史書が並んでいるがすべてきれいに本棚に収まっている。一見きれいそうな店内だが窓が小さく光があまり届かないのでどこか薄暗く、不気味な感じなのであった。
「ナオさーん。」
男は再び声を上げる。しかし、返答はなかった。
とりあえずレジの方まで男は足を進めた。まわりはきれいに片づけられているのだがレジの周辺だけは歴史書が積みあがっていた。
男は歴史書を横にどかした。
「あ、寝てたのか。」
歴史書をどかすと柔らかそうなクッション付きの椅子にだらしなく眠っている少女が映った。少女は外見、十六、七才くらいで紅色の髪をしていた。髪は肩先まであり毛先のみに癖がついている。そして大正ロマンのような着物に袴、ブーツを履いていた。
「寝ているところ悪いけど起きてもらおうか。」
男はそう言うと目を閉じ、すぐにすっと開けた。
「!?」
目を閉じて開いただけなのだが少女は飛び上がるように目を覚ました。
「起きたかい?ナオさん。」
「強い神力と言雨っ……。」
少女、ナオは目を見開いたまま椅子からずり落ちた。
「言雨?」
男はきょとんとした顔でナオを見つめた。
「こ、言雨とは強い威圧と神力を込めて言葉を発するとそれがダイレクトに相手に伝わる術で昔からの神でないと使えないものです……。」
ナオは震える声でつぶやいた。
「いや、それは知っているけど、言雨なんて俺、出してないよ。ただ、ちょっと神力の提示をしただけで……。」
「神力の提示で言雨が流れ出たようですね……。制御できないのなら使わないでください。揺すって起こすとかその……色々他にやり方があったのではないかと思います。」
ナオは冷や汗をハンカチで拭うと再び椅子に座りなおした。
「ごめんね。揺するだけだと起きないかと思ってさ。」
「一応、揺すってみるとか試してから最終手段でさっきのをやってもらえますか?心が持ちません。」
「う、うん。ごめん。悪かった。」
ナオは大きくため息をつき、一度落ち着いた。
「それで……今日はどうなさいました?暦結神……ムスビ。」
「そのニックネームやめてくんない?ムスビって……ダサくないか……。おむすびみたいで……。まあ今はいいや。それよか、あんたに言われて調べた事なんだがスサノオ尊はやはりいつの間にか消えてしまったみたいだよ。」
男、暦結神、ムスビは早口でナオに言葉を発した。
「やっぱりそうですか。スサノオ尊はなぜだか知らない内にこの世界から消えていたと。」
「だけど、子孫はいるみたいだ。イソタケル神と大屋都姫神はいるらしい。会ったことないけど。いなくなったのはスサノオ尊の他にアマテラス大神や月読神もいるらしいよ。」
「ありがとうございます。やはり直接高天原で調べるしかないのでしょうか……。」
ナオの質問にムスビは顔を曇らせた。
「高天原ねぇ……。他の歴史神達が消えてしまった神達の行方をしらないんじゃあ、高天原の四大勢力が知っているか疑問だなあ。」
「ですが歴史神達の上に立つのは彼らです。やっぱり怪しいです。神隠しに何か絡んでいるのではと……。」
「神に隠されるんじゃなくて神が隠された神隠しか……。おもしろいね。ナイスゴットジョーク!」
ムスビは楽観的に笑ったがナオに睨まれ口をつぐんだ。
「笑っている場合ではございません!これは事件かもしれないのですよ!真面目にやってください!」
「ああ、冗談冗談。怒らないで。ナオさんは歴史神のネットワークを少しは使ったのかな?」
ナオの表情が険しくなっていったのでムスビは話題を巧みに変えた。
「使いましたよ。ですが何も収穫はございませんでした。試しにスサノオ尊についてお聞きした所、皆さま、口をそろえて概念になったとおっしゃっておりました。概念とは存在しないという事なのか、一体、そのような歴史、どこから発生したのか……。私にはわかりませんでした。」
ナオは落胆の意を見せた。
「霊史直神でもわからないの?神々の小さな歴史のブレとかを修正しているんだろ。」
「わ、私にだってわからないことはあります。ですから今回の件を調べたいと思ったのです。神々の歴史を管理している私にとってこの件は異常です。」
ナオはため息をつきながらレジ周りの歴史書を片づけた。
「確かに言われてみれば神々の歴史が少しおかしい気がするね。ナオさん、これからどうするんだい?」
ムスビはナオが持っている重そうな歴史書を持ってあげながら尋ねた。




