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ゆめみ時…4夜は動かぬもの達最終話

 一方、千夜はこちらに向かってくる謎の女を半蔵と訝しげに見ていた。

 千夜と半蔵はお互いに影縫いをかけ、今はまったく動けない状態で仰向けに倒れている状態だった。


 「なんだ?あの女は。」


 唯一動く首を持ちあげ、歩いてくる女を見つめる。女は爆発のケガを負っている逢夜と才蔵を嬉々とした表情で引っ張っていた。


 「しっかし、ずいぶんと大胆な格好をしている女ですな。」

 半蔵は女の豊満な胸と尻をにやつきながら目で追っていた。


 女は千夜と半蔵の前までやってくると逢夜と才蔵を近くに置いた。


 「ったく……ひでぇ引っ張り方しやがって。」

 逢夜が悪態をついたがさふぁは気にする様子もなく楽しそうだった。


 「逢夜、無事だったか。」

 「はい。少し、しくじりましたが。」

 千夜の言葉に逢夜は丁寧に答え、才蔵を睨みつけた。


 才蔵は何も言わずに目線を逢夜から外した。


 「で?あんたは誰なんですかい?」

 半蔵は女を見据え、感情なく声を発した。


 「私は元Kの使いさふぁだよ~ん。あんた達さ~、なんだかKについて調べているみたいだからさ~ん、元Kの使いである私が教えてあげよっかな~なんて思ったわけよ~ん。」


 「なんだと!」

 さふぁの発言に逢夜も千夜も才蔵も半蔵も目を見開き、驚いた。


 「いいよ~。知りたかったんでしょ~。私は元Kの使いだから守秘義務ないからね~ん。」


 さふぁの楽観的な笑い声と千夜達が固唾を飲みこむ音が同時に白い花畑の空間に響いた。


 Kとは何者なのか一体この世界で何をしているのか……聞きたいが聞いてはいけない事のように千夜達は感じていた。


 そんな彼らを見据えながらさふぁは言葉を切り出した。


 「Kはね~いっぱいいるっていうのかな~なんなのかな~。まずはKの使いに指示を出しているK達がいるでしょ~。そして弐の世界の真髄にいるK達がいるでしょ~。あ、弐の真髄にいるKの正体は七人の女の子だよ~ん。


 七人の女の子の裏には別の世界を結ぶKがいるのよ~ん。確か……伍の世界を守っている……とか。皆ちゃんと仕事しているよ~。……あんた達がさ~、この小さな世界だけじゃないもっと大きな世界の流れと仕組みを理解できるのかな~?私は無理だったけど~ねっ!」


 さふぁはまた楽観的に笑った。


 千夜、逢夜、才蔵、半蔵はこの世界が単純にできていない事を感じ取った。


 Kに頼ればなんだってできる……そう考えるのは間違いだった。神に祈るようにKにお願いしてもKは何もできないだろう。


 Kは一人ではなく集団らしい。組織化した集団なのか壱の世界か何かで誰かが想像し弐の世界に出現させた者達がKなのか……もしかすると両方かもしれない。Kとは何かますますわからなくなった。


 ……Kの使い達が動く裏には、はるかに大きな世界が関わっており一幽霊が知った所で何もない気がした。


 「お前さんが言っていることが本当か本当じゃないかそれがし達にゃあ、よくわかりやせんよ。だいたいお前さんが元Kの使いだとどうやって証明するんですかい?」


 半蔵はさふぁに疑いの目を向けた。


 「あ~、そっか。人は疑う生き物って聞いたわ~ん。うん。証明ね~できないね~。信じなくてもいいけどさ~ん、Kは否定しないでね~ん。」


 さふぁは再び愛嬌のある顔つきで笑った。


 ……嘘か本当か見極める必要があるな……。


 千夜、逢夜、才蔵、半蔵は忍としての探索能力が久々にうずいていた。


 「で?あんたはなんで俺達にそんな事を教えに来たんだ?」

 逢夜はとりあえずさふぁに質問を投げかけた。


 「実はね~ん、少し状況が悪くなってね~ん。助けを借りたいな~と思ってね~ん。」


 さふぁは困った顔でポリポリと頬をかいた。


 「私達の助けだと?」

 千夜は鋭い瞳でさふぁを見つめ言葉を発した。


 「君達も関わってんだけどね~ん、この弐の世界が少しおかしくなっててね~ん。セイって神のせいでKの使いの人形達も修復作業に追われてるよ~ん。


 なんとこことは別の世界も若干の被害があり、現世にいるイチって人形と別世界のロクって人形もかなり大変なご様子。君達も関わっているのだから手伝ってもらわないとね~んってことでね。」


 さふぁは鼻をフンと動かすと腕を組んだ。


 ……なるほど……この女は自分達と更夜達を間違えているのか。


 千夜達は今の話でそう考えた。


 「お前はKの元使いだそうですね。元使いが契約も切れているのにKに力を貸すのですか?」


 才蔵は細い目をさらに細めてさふぁを見据える。


 「まあ、関係ないんだけどさ~ん、見た感じ大変そうなんでね~ん、手伝ってあげたいと思っただけなんだけどさ~ん。」


 さふぁの言葉でさふぁはKに何か言われて動いているわけではないという事を知った。


 「それで?手伝いとは?」

 千夜は一応、要求を聞いてあげる姿勢になった。


 「うん、壊された世界は人形達が修復するからさ~ん、そこに住んでいた魂を探してほしんだよね~ん。どこかの世界に紛れ込んでいたりする可能性があるからさ~ん。」


 「それは無謀ですな。」


 さふぁに半蔵は一言そう言った。半蔵が無謀と言ったのにはわけがある。


 才蔵と半蔵もその現場を見たが壊された世界の中には平敦盛がいる。歴史上の人物。この本来の敦盛は夢幻の弐の世界では沢山存在してしまう。


 人の妄想で作られた敦盛、想像で語られた敦盛など様々な敦盛がいる。その沢山の敦盛の中から本来の敦盛を探すのはとても大変な事だった。世界も無数にあるため、動くのも困難だ。


 「いなくなっちゃったのはオリジナルの本人~。探すのは無謀だけどさ~ん、何にも関係なかったのにかわいそうだよね~ん。世界壊されちゃってさ~ん。」


 さふぁは千夜達が悪いのだと思っているようだった。


 「……まあ、一つ言っておきますが……私達はあまり関係がありませんよ。関係があるのはセイと一緒にいるライという女とこの世界の時神達です。」


 才蔵は不気味にほほ笑みながらさふぁを見上げた。


 「……?」

 さふぁには才蔵の言った言葉の意味がよく理解できなかったらしい。首を傾げていた。


 才蔵の狙いはそこら辺の面倒な事を更夜達にやらせ、自分達はその後をつけ、Kについての情報収集をするというものだった。


 「才蔵……。」


 それに気が付いた千夜は才蔵を鋭く睨みつけた。才蔵は千夜を軽く無視をすると続けた。


 「知らないんですか?平敦盛を消したセイとその関係者はここにはいませんよ。私たちは一部関係がありましたが世界をおかしくしたのは私達ではありません。」


 「そ、そうなの~?」


 さふぁは才蔵の言葉をすぐに信じた。そこも才蔵の狙いだったようだ。さふぁはいままでの会話で人を疑うという事をしない女だと才蔵は見抜いていた。


 さふぁは戸惑いの表情を浮かべた。


 「お前がここで待っていればセイと関係者は必ずこの世界にやってきます。間違いありませんよ。」


 「そ、そうなの~?じゃあ待ってるね~ん。」

 さふぁは少し困った顔で頷くとその場に大人しく正座をした。


 才蔵は元Kの使いを手放すのは得策ではないと考え、この場にいさせる事にした。どちらにしろ、ここは時神達の世界だ。必ず更夜達はこの世界に戻ってくる。


 ……そうしたら更夜達にこの事を任せて私達はKの探索に動けます。この女とセカイがいれば少しはわかる事もあるでしょう。


 才蔵はセカイがもうすでに更夜達と共にいない事を知らなかった。だが仮にいなかったとしてもKの使いの手伝いをさせられるかもしれない更夜達を追う事で真実にたどり着けるかもしれないと思っていた。


 「さふぁ……だったですかい?それがしに刺さっている針を一本抜いてくれませんかね?」


 半蔵がさふぁに笑顔でお願いをした。


 「いいよ~ん?」


 さふぁは素直に半蔵に刺さっている針を一本抜いてあげた。人体のツボである一本を抜いた事で術が解け、半蔵は自由に動けるようになった。


 半蔵は針を抜いた瞬間に動き出し、才蔵を引っ張りその場からあっという間に消えた。


 「し、しまった!」


 逢夜が叫んだ時にはもうすでに半蔵も才蔵も見えるところにいなかった。おそらく花畑を抜けて周りを囲う森の中へと身を隠したのだろう。


 「くそっ!」

 「逢夜、落ち着け。」

 「も、申し訳ございません……お姉様。」

 逢夜は千夜の鋭い声で委縮し、小さくあやまった。


 「特に逃げたからといって問題はないだろう。あやつらはKを調べる事が目的だ。更夜達がこの世界に戻ってこないかぎりこの世界からは動かないだろう。先を読め。逢夜。」


 「は、はい……。申し訳ありません。お許しください……。」


 逢夜は千夜に躾けられた過去を持つ。幼き日の傷は逢夜であろうが千夜であろうがトラウマになっているようだ。千夜の鋭い声は青年になった今でも逢夜は怖かった。


 逢夜も他の兄弟同様に千夜からの暴行を受けて育った。長女である千夜は父である凍夜(とうや)から『仕置き』と呼ばれる虐待を幼き頃から受けていたという凄惨な過去があった。


 家庭環境で仕方なかったとはいえ、この四姉弟にはいまだに深い溝がある。


 「お前は危なっかしいのだ。無茶をあまりするな。」


 「お姉様も女の身で男達の乱闘に加わらないでいただきたい。戦闘ならばわたくしがいたします故。」


 千夜の心配そうな声に逢夜も戸惑いながら言葉を返した。


 さふぁは急にいなくなってしまった才蔵と半蔵にしばらく声も上がらないくらい驚いていた。


 「さふぁ……だったか?私の影に刺さっている針を抜いてくれ。」

 「え?あ……わかったよ~ん。」


 さふぁは戸惑った状態のまま千夜の影に刺さる針を抜いた。千夜は重そうな体をやっと持ち上げられた。


 「ふう……。影縫いは解けたが……糸縛りが解けておらんのか……。」


 千夜はため息をつくと動かない体を無理に動かし、逢夜の元まで這いつくばるようにやってきた。


 「お姉様……動かぬ方が……。」

 逢夜の心配もよそに千夜は逢夜の肩に手を置き、印を結んだ。


 「この影縫いはずいぶんと特殊だな……。針が刺さっているのはお前が先程まで倒れていた所だがその影縫いがここまで続いている。という事は催眠術もかけられているという事だな。」


 千夜はそうつぶやくと息を吐いて逢夜の肩をグイッと押した。刹那、逢夜の体は自由に動くようになった。


 「ありがとうございます。術が解けました。ではわたくしがお姉様の糸縛りを解きましょう。」


 逢夜はうつぶせになっている千夜のすぐ上を手刀で凪いだ。目に見えないくらい細い糸が何百本も千夜に絡みついていた。逢夜はそれをすべて切り、千夜を解放してあげた。


 「すまんな……。」

 「いえ。問題ありませぬ。」

 千夜と逢夜は自由になった体でさふぁを一瞥した。


 「……?」

 さふぁはいまだに戸惑っていたがその場に大人しく正座をしていた。


 「さて……用事が終わってこちらに戻ってくると思われる更夜達を待つとするか。」

 千夜は逢夜に目を向け、逢夜は小さく頷いた。


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