ゆめみ時…1夜を生きるもの達2
「で、あなたは何をしに来た?」
更夜が先程よりも柔らかくライに質問をする。
「え……その……ここから出ようと思っているんですけど出られなくなってしまって……。」
ライはビクビクしながら更夜に答えた。声は小さくか細い。
「あなたは確か、芸術神、絵括神。絵を描いて弐の世界を表現できるとか。」
「は、はい!私の筆で絵を描けば弐の世界を作る事はできます。
で、ですが、それは私が想像した妄想の世界の弐の方。
人が個人個人で作る世界にもなりはしない上辺だけの世界です。
その上辺の世界は作れるし、渡れるのですが……その……上辺の世界の中の中、世界の真髄は渡る事ができません。
そ、それで上辺の世界からこちらに落ちてしまい、戻れなくて困っていまして……。」
ライは話している最中に何を言っているのかわからなくなってしまい、後半は声が小さくなりすぎてほとんど彼らには聞き取ってもらえなかった。
スズが難しい顔をしながら口を開く。
「……まあ、よくわかんないけど、この世界の上にさらに世界があってライさんはその上の世界からこっちに落ちて来ちゃったわけだね。
で、ライさんはこの世界の上にある世界っていうのを絵を描く事で表現できるって事。特殊技だね。」
「あ、スズちゃんそうそう!」
ライはうんうんと頷き微笑んだ。
「ん?なんだ、足を怪我しているではないか。」
更夜はライの右足に目を向けた。
「え?怪我ってこちらに落ちてしまった時にちょっと足をねんざしたくらいですけど……。」
ライは更夜を見、驚いた。
ライの足は少し痛みを感じる程度で歩くのになんの支障もなかったがそれを更夜が言い当てた。
「少し、見せてみろ。」
更夜がライに右足首を見せるように言った。
「あー……い、いえ……大丈夫です!」
「重心が傾いている。まだ痛むのだろう?心配するな。手当をしようとしているだけだ。」
ライは戸惑っていたがやはり少し痛むので見てもらう事にした。
靴を脱いで右足首をさらす。
そのまま更夜に足を差し出すわけにもいかず、まごまごしていると更夜が座るように言ってきた。
ライは白い花が咲く地面に座り込み、不安そうな瞳で更夜を見た。
更夜はそっとしゃがみ込むとライの右足首を触った。
「……!」
ライはなんだか少し恥ずかしくなり頬を赤く染めた。
更夜のしなやかな指がライの右足を丁寧に触る。
「ふむ……若干腫れているな。スズ、救急道具を持ってこい。」
「わ、わかったわ。」
スズは更夜に頷くと瓦屋根の家に入って行った。ライはなぜか更夜をぼうっと見つめていた。
……な、何これ……。凄いドキドキする……。よく見たらこの人かなりイケメンだし冷たくて鋭い瞳をしているけど思ったより優しくて……どこか知的で怖いところが私のツボ……。
「ねぇ?ライだっけ?大丈夫……?」
「はっ!」
ふと気がつくとトケイが無機質な目をこちらに向けていた。
「え……え?」
ライは両手で顔をとりあえず隠す。
「ふーん。ライさん……ライってば更夜に一目惚れしたのかなー?ねぇ?」
シュタッと近くで音がしてスズが救急箱を持って現れた。スズはニヤニヤとこちらを見るともう一度つぶやいた。
「一目惚れ?」
「えっ……ち、違うよ。スズちゃん……。」
ライは慌てて否定をする。
「馬鹿な事を言ってんな。さっさと救急箱を渡せ。」
更夜は呆れた顔をスズに向け、ニヤニヤ笑っているスズから救急箱を受け取る。
……そ、そうだね。いくら……き、気になったとしてもまだ早いよね……うん。
ライはドキマギしながら首を縦に振った。
「なんだ?痛むのか?」
更夜が手当てをしながらライを仰ぐ。
ライは真っ赤になった顔でぶんぶんと頭を横に振った。
「だ、大丈夫……です。」
……この冷たく低い声だけど……かける言葉はとても優しい。
その鋭い瞳の奥にある優しさが私をかきまわし、そのターコイズブルーの輝きが私の心を……。
まあ、つまるところ、ライは更夜に一目ぼれをしたのであった。
謎の恋心は唐突にライに襲い掛かった。
「よし。まあ、これでいいだろう。」
更夜が包帯をさっさと片付ける。
「あ、あの……この包帯はちょっと大げさでは……?」
ライは足首に巻かれた包帯を困惑した顔で見つめた。
「ふむ。用心だな。
あなたはあまり痛まなかったようだが本来ならかなり痛むはずだ。
まだ頭がちゃんとした思考になっていないのだろう。落ち着いてきたら痛み出すぞ。」
更夜は眼鏡をかけ直すと家に入って行ってしまった。
更夜は背中越しでスズとトケイに
「現世に送ってやれ。」
と命じた。
「はーい。了解。」
「了解。」
スズとトケイは気の抜けるような返事をするとライに手を伸ばした。
「あ……あ!ちょっと待って!」
ライは意味もなく声を上げた。




